第28話 旅路の別れ
国境の村を出てから十日経った。
城から国境の村へ向かった時は十日で村に到着したはずだった。しかし今回の復路ではまだ半分も進んでいなかった。
行くときには姿も見えなかったモンスターが、次々に現れては花音たちの進行を遅らせていた。
しかも時間がかかっているのは、それだけが原因では無かった。
いつのまにか地形すらも変わっていたのだ。
城から国境の村まではところどころに林や森はあったが、基本的には平坦な道であった。
しかし、帰りは違っていた。
林があった場所は鬱蒼とした樹海に変わり、森があった場所は高く急峻な山となっていた。
「うそ……ここを歩いて登るの……!?」
何とかここまで進んできた花音達一行の前に立ちふさがったのは、雲の間に頂を隠した大山脈であった。
花音が力なくへたり込む。
「マスター、カノンを連れたままここを越えるにはかなり日数がかかりそうですが……」
アルプが小声でヴィオに話す。
「……分かっている」
こうしている間にも大発生したモンスターが王国を蹂躙しているだろう。ヴィオはギュッとこぶしを握った。
「……カノン」
ヴィオは座り込む花音の近くに膝をつき、思いつめたように話しかけた。
「どうしたの? ヴィオ?」
花音はキョトンとした顔でヴィオを見つめる。
「……ゴメン。ここから先はカノンを連れて行けない……」
「え!?」
急に告げられた言葉に花音は絶句する。
……自分が足手まといになっていることは花音も重々承知をしていた。……しかし、自分で認めることを無意識に拒んでいた。
この世界に来て、強大な魔法を使うことが出来て、曲がりなりにも自分の力が役に立っていると自負心が芽生えていたからだ。
しかし、それは全て安全な場所で守ってもらいながら使える力でもあることに、花音も気付き始めていた。全部ヴィオが御膳立てしてくれているんだ、と。
「……分かった」
そのヴィオに言われてしまったら、花音は受け入れるしかない。
我が儘を言えばもしかするとヴィオは何とか連れて行ってくれるかもしれないが、それがエフホールにいる皆の救出を遅らせるだけだとも分かっている。
「ごめん……カノン」
ヴィオが険しい顔で謝る。花音はヴィオにそんな顔をさせてしまった自分の情けなさに息が詰まる。
「やだ……そんな顔しないで。私は大丈夫だから! エフホールのみんなの事、頼んだよ。ヴィオ!」
花音は溢れ出そうになる涙を必死で堪えながら、ヴィオをこれ以上心配させないようにワザと明るく答える。
「うん……」
ヴィオはすこし切なそうに笑って頷き、立ち上がった。
「ここに結界を張っていく。エフホールを救出したらすぐに戻ってくるから、ここから離れないで。いいね?」
「うん」
「アルプとウーロもここに残って。花音を守るんだ」
「うん!!」「え!?」
ヴィオの言葉にウーロは元気に返事をし、アルプは驚いた様に目を見開く。
「しかし、エフホールの救出にマスターお一人では危険です!!」
「そ、そうだよ。ヴィオ! 私は大丈夫だから!!」
アルプと花音が口々にそう言うのを、ヴィオは手で制する。
「いや。この際、エフホールには僕一人で行く方が良い。魔王とやらが花音を狙っているようだし、油断はできない」
「しかし……」
「命令だ。アルプ!」
反論しようとしたアルプは、ヴィオの厳しい声でグッと口を弾き結び少し逡巡した後、
「承知いたしました」
と答えた。
ヴィオはアルプの返事に頷くと、近くに聳え立つ巨木の前に行き、そっとその幹に手を触れた。
巨木の中心からフワッと光が地面を走り抜け、かなり広い範囲まで広がったかと思うと、空中に弧を描くようにして巨木のてっぺんまで戻ってきて、ドーム状の結界を作った。
そして結界の中心となった巨木にはいつの間にか、扉が付いており「ここの中に住めるようにしたから」とヴィオが花音に伝えた。
「……ありがとう」
花音がお礼を言うと、ヴィオは少し切なく笑って花音の頭にポンと手をのせて言った。
「どういたしまして」
また、ヴィオが浮かべた切ない笑顔に思わず花音はキュンとする。……ヴィオってこんなふうに笑うんだっけ……。
ヴィオの手が花音の頭から離れるときにも、少し残念な気持ちになる。
……自分の心の変化に、花音は戸惑いを感じていた――。
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