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第19話 国境の村


「ねえ……あれ、何かな? 煙?」


城を出発して十日目の昼頃、花音は前方に煙が立ち上っているのを発見した。


「ああ。もうすぐ国境の村だから、例の山火事じゃないかな」


ヴィオも前方を凝視しながら相槌を打つ。


「火の精霊も騒いでいますね……やはり、山にいるのはファイアードラゴンでしょうか?」


アルプがヴィオに聞く。


「こんなに離れていても、火の精霊がざわめく位だからおそらくそうだと思うが……」


アルプとヴィオのやりとりを聞いて花音が食いつく。


「ファイアードラゴンって?」


「その名の通りだよ。火の属性を持つドラゴン。火の精霊を従えて火炎魔法を操る竜種だよ。そもそもドラゴン自体が希少だし、普通は人里離れた火山とかに住んでいるから人間に見られることなんて滅多にないんだけど」


想定通りの回答に花音の心は昂った。ドラゴンかぁ、かっこいいんだろうなぁ。


そこからまたしばらく歩くと、ようやく国境の村に着いた。ここまでくると、燃える山もかなり近くなり焦げ臭いにおいが辺りに漂っていた。


ヴィオ達一行が村に到着すると、すぐに村長が出迎えた。


「この度はわざわざご足労いただきありがとうございます。まさかヴィオ王子と件の聖女様においで頂けるとは……」


村長は平身低頭で三人をもてなした。


「さっそくだが、状況を詳しく聞かせてくれないか?」


村長の家に案内されるとすぐにヴィオが本題に入った。


「はい…。あの山にドラゴンが舞い降りたのはおよそ一か月ほど前になります。山に狩りに行っていた若者が突然空から白いドラゴンが降りてきたと、報告してきたのです」


「白いドラゴン……」


ヴィオが小さく呟いた。


「……もしやマザードラゴンですか?」


アルプがヴィオの呟きを聞いて口を挟む。


「やはり、そう思われますか? しかしマザードラゴンなど伝説でしか聞いたことがないので、確認のしようもなく……」


村長が困ったように呟く。


「ああ! だから城には『ファイアードラゴン』ではなく『炎の属性を持つドラゴン』なんて遠回しな報告をした訳か」


ヴィオが得心したように頷いた。


「マザードラゴンって?」


また花音が食いついてきたので、ヴィオが端的に答える。


「この世のすべてのドラゴンを生んでいると言われているのがマザードラゴンなんだよ。伝説では『白い竜』と言われているんだ」


「へー。ドラゴンって全部一匹のドラゴンが生んでるんだ」


花音が感心したように呟く。


「ドラゴンは交配をしないんだ。世界の精霊の力のバランスに併せてマザードラゴンがそれぞれの属性のドラゴンを産み分けるんだって」


ヴィオの説明が終わると村長はそのまま話を進める。


「目撃報告を聞いた次の日、村の男衆を集めて本当に白いドラゴンなのか確認に行かせようとしたのですが、その直後から山に火の手が上がりまして。それからずっとあの山は燃え続けているのです」


「結局、その若者以外にドラゴンの姿を見たものは居ないのか?」


ヴィオの質問に村長が答える。


「火の手が上がるときにドラゴンが飛んでいる姿を見たという者が数名おりました。しかし、燃え盛る炎の中で見たということで赤い色にしか見えなかったと……」


「なるほど。情報ありがとう、村長。どちらにしても山火事はドラゴンの魔法の炎だから、これ以上燃え広がることはないと思う。……しかし、このままだと煙害でこの村に住めなくなってしまいそうだから、そのドラゴンには早急に別の場所へ移動してもらえるよう交渉しよう」


「交渉……ですか?」


ヴィオの言葉を聞いて村長が目を白黒させる。


「ああ、もしもマザードラゴンなら交渉はできると思う……。けど、ダメだったらやはり退治しないといけないな」


「しかし、どうやってあの炎の中にいるドラゴンを探すのでしょうか?」


村長が不安そうにヴィオを見て言った。


「それは、聖女様が何とかしてくれますから」


ヴィオがそう言って、花音にウィンクをした。


「は? 私?」


「さあ、カノン。さっそく行こう!」


急に振られて慌てる花音の腕を取り、ヴィオが颯爽と村長の家を後にした。


「お話ありがとうございました。では、失礼いたします」


アルプは呆気にとられる村長に頭を下げると、ヴィオ達の後に付いて優雅な所作で村長の家の扉を閉めて出て行った。













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