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第13話 旅立ち


なんやかんやで花音たちがようやく城から出発した時には、既に太陽は西に落ち始めていた。


城に来た時と同じペガサスに乗って、町の入り口まで飛んでいく。


「ペガサスは弱い生き物だから、町の外までは連れて行けないんだよね。入り口からはまた徒歩になるけど、大丈夫かな?」


ヴィオが心配そうに花音に聞くが、花音はミスリル銀の鎧がとっても軽いので、全く心配していなかった。


「うん。鎧も軽いし、全然大丈夫だと思う!」


「カノンは国境の村までの距離を知っている上で言ってるの?」


ぼそっと、もう一頭のペガサスに乗った少女姿のアルプが呟いた。


「え? なぁに?」


花音は風の音でよく聞き取れず、アルプに聞き直すがアルプはやれやれと言う風に肩を竦めるだけであった。


「アルプ! なんで無断でカノンのこと呼び捨てにしてるんだ! カノン様と呼べ!」


ヴィオがアルプにそう命令するのを聞いて、花音は慌てて言った。


「呼び捨てでいいってば。様なんてつけられると恥ずかしいし……」


「え? そうなの? ……ふーん。じゃ、アルプ、特別にカノンの事呼び捨てしてもいいよ。ただし、誘惑するのはダメだぞ、絶対!」


ヴィオの言葉を受けて、少女の姿をした夢魔は輝くばかりの笑みで答えた。


「畏まりました」


そんな会話をしている間に、ペガサスは町の出入り口まで到着した。そこは来た時に入ってきた門とは正反対にある門だった。


「国境の村に行くにはこちら側から出た方が早いんだ」


そう言って、ヴィオは手慣れた動作でペガサスを衛兵に預けた。


「よし、じゃあ行こうか」


こうして、カノンとヴィオのドラゴン退治の旅が始まった。



――と思ったのも束の間、しばらく歩くと辺りはあっという間に夜になってしまった。


「暗くなっちゃったね。今日はこの辺で休もうか」


ヴィオが花音に言った。


「うん。そうだね」


「もう休むのですか?」


ヴィオと花音のやり取りを聞いて、アルプが驚いたように言う。


「夢魔の活動時間はこれからかもしれないけど、俺達は暗くなったら活動しないの」


ヴィオがそう言うと、アルプは不満そうに言った。


「これではいつになったら到着するか分かりませんね……」


アルプのため息交じりの言葉を聞いて、ヴィオはアルプに小声で耳打ちする。


「……いいの。花音とゆっくり過ごすのも今回の旅の目的なんだから……。お前はあとは自由にしてていいぞ。あ、あんまり問題になるようなことは起こすなよ」


「……畏まりました。マスター」


アルプは慇懃に頭を下げると、すぅっと音もなく闇の中へ消えていった。


「どうしたの?」


カノンはアルプが消えたのを見て、ヴィオに訊ねた。


「ん? ああ、夢魔はこれからが活動時間だから。自由に遊んできていいよって言ったんだ」


「遊ぶ……ね」


カノンは敢えて深く突っ込むことはしなかった。


「さてと、僕たちは夕飯にでもしようか」


「うん。 私も手伝うから、何すればいいか教えて」


「ありがとう、カノン。一緒にお料理ができるなんて、夫婦みたいで嬉しいね」


「ふ……!? 何言ってるのよ!! バカなこと言ってないで早く作るよ!!」


「カノンはかわいいなぁ」


カノンが分かりやすく赤くなっているのを見て、半分本気で半分からかい交じりでヴィオが言うと花音はますます顔を赤くして、ヴィオを睨んだ。


「バカにしてるでしょ?」


少しからかい過ぎたかな、とヴィオは少し反省して真面目な顔で言った。


「……本気だよ。僕はカノンのことが大好きなんだ」


「!!」


ヴィオが急に真剣な顔でそんなことを言い出したものだから、花音はもう限界だった。恥ずかしいを通り越して、訳が分からなかった。


「……やっぱり、バカにしてる!! ヴィオのアホ!!」


花音は真っ赤な顔で涙目でそう言うと、くるりとヴィオに背を向けて走って行ってしまった。


「あれ?」


~~~~~


――ヴィオ……私もヴィオの事……大好き……。


――カノン!


~~~~~


って、なると思ったのに……。


ヴィオは思っていた反応と正反対の態度で花音が走り去ってしまったので、ショックのあまり、しばし呆然と花音の背中を見送っていた。


「あ、ヤバい……」


花音が走っていった林はモンスターも出没する場所だ。暗くなって足元もよく見えないだろうし、花音一人では危険だ!と、ようやく頭が働きだす。


ヴィオは慌てて追いかけようとするも、追いかけたらもっと嫌われそうな気もして逡巡した結果、


「アルプ!!」



……さっき自由時間を与えたばかりの夢魔を呼び戻すことにしたのだった――。














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