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第12話 ドラゴン退治?


「という訳で、本題なんだけど……」


花音が朝食を食べ終わったところを見計らって、ヴィオが突然話を切り出した。


コポコポ……


一瞬、部屋に沈黙が満ちて、花音のティーカップにアルプが紅茶を注ぐ音だけが響いた。


「え? 何?」


急にヴィオが真面目な雰囲気で話し始めたので、花音は少しドキッとする。


「国境の村の近くの山にドラゴンが住み着いたそうなんだ。普通、ドラゴンはもっと高い山に住んでいるはずなんだけど、なぜか人里近くに来てしまったみたいで。しかも厄介なことに炎の属性を持つドラゴンらしくて、激しい山火事が起きてしまっていると報告が入ったんだ」


「ドラゴン……」


花音は話の内容的に不謹慎だとは分かっていつつも、『ドラゴン』というワードに目を輝かせてしまう。


「で、昨日の諮問会議で決まったんだけど、僕とカノンでそのドラゴンを何とかしてきなさいって」


「……へ?」


急な展開に花音はポカンとする。


「と、いう訳でさっそく今から出発しよう、カノン!」


「ちょちょちょ……待って。何とかって? 何とかって何するの?」


「まあ、手っ取り早いのはドラゴンを退治する、かな。もちろん、現場に入ってみてから方法は考えるけど。ドラゴンが居なくなって、山火事を止められれば方法はなんだっていいと思うよ」


「二人で??」


「ドラゴンは魔法生物だから、普通の兵士が居ても邪魔になるだけだよ。魔力の高いメンバー数人で対処するのが一番効率的なんだ」


いやいやいや……。


ドラゴン退治って、いきなり? ドラゴンってラスボス級じゃないの? 普通、こんな序盤で戦わないでしょ?


花音が更に溢れだす疑問を口にする前に、ヴィオは花音の手を取って席を立たせる。


「大丈夫! 僕とカノンならなんだってできるよ!」


明るくヴィオがそう言い放つのを聞いて、花音はなぜか『そうかもしれない』という気持ちになってしまい、自分の単純さに思わず苦笑してしまう。


「ドラゴンなんてめったに見られないんだから、チャンスだよ!」


更に重ねられるヴィオの言葉に、花音はハッとする。


そうだ、この世界を楽しむって決めたんだった。ヴィオがこういうからにはきっとほんとに大丈夫なんだろうし……。そう思い始めた花音は、勇気を出してヴィオに言ってみた。


「……せっかくだから……その……冒険者っぽい恰好がしたい……んだけど……」


「え?」


一瞬、ヴィオがキョトンとした顔をする。


それを見て、花音は少したじろぐ。……あれ? 引かれた?


しかし、すぐにヴィオは満面の笑みで答えた。


「うん! 分かった! すぐに準備させるね!」


花音が自分から要望を言ってくるなんて……。


ヴィオはカノンが少しづつ、ヴィオに心を許してくれていることに浮足立った。


カノンの初めてのおねだりには全力を持って答えねばなるまい!! 


ヴィオは熱い闘志を燃やして、部屋の外に控えていた侍従にすぐさま指令を出した。


「城下のすべての武器屋・防具屋から最上級の効果・デザインの女性向けの装備を探してこい!」



――こうして、小一時間後には花音の部屋に数種類の女性向けの装備が運び込まれていた。



花音は何げなく口にしてしまった自分の欲望が、こんなにもすぐに、しかも多くの人たちを巻き込んで実現されてしまったことに、穴があったら入りたいほどであった。


ヴィオが大げさにし過ぎるから……と言いそうになって、必死で押さえる。


ヴィオを責めるのはお門違いだと重々に承知している。しかし、この最高に恥ずかしい気持ちをどこへぶつければいいのか、花音は苦悶した。


「さあ、どれにする? カノンが選んでいいんだよ」


ヴィオが満面の笑みで、花音を促す。


ま、いっか……旅の恥はかき捨てって言うし。ヴィオのドヤ顔を見て可笑しくなった花音は心を切り替える。


改めて見れば、用意された装備はどれもこれもカッコカワイくて、花音の爛れた厨二心をキュンキュンさせる逸品揃いだった。


その中でも一つの鎧に心が奪われる。それは白銀の鎧だった。ドレスに併せて着るタイプのもので実用性は?だが、デザインは最高に花音の好みであった。


「さすが聖女様はお目が高い」


侍従と一緒に入ってきた髭面のおっさんが突然口を開いた。花音がビクッとして、髭面のおっさんを見つめる。


「私は城下で装備品の商いをやらせていただいているトーリンと申します」


おっさんは花音に自己紹介をした後、鎧の説明をし始めた。


「その鎧はミスリル銀製の魔法の鎧です。魔力が強すぎるため、着用する者を選びますが聖女様ならば心配なかろうとお持ちいたしました」


ミスリル銀!? ――花音にはそれだけで十分だった。


けど、物凄い高そうな気がする……。私が勝手に選んでいいのかな? などと、花音が一人悶々と考えていると、ヴィオが花音を覗き込んで聞いた。


「これにする?」


急にヴィオの顔が間近に迫ってきて、驚いた花音はパッと顔を上げる。


ち、近いよ! ヴィオ……。


「う……うん」


動揺しつつ、花音はこっくりと頷いた。


「では、トーリンとやら。こちらの鎧をすぐに調整してくれ。すぐに出発するので急いでな」


「畏まりました」












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