第10話 悶絶
次の日の朝、花音はベッドの中で悶えていた。
『ヴィオ……手、繋いでもいい?』
昨日の自分のセリフを思い出し、恥ずかしさでのたうち回った。
「あああああああああああああああああああ……バカバカ、私のバカ」
あんなこっ恥ずかしいこと、何で言っちゃったんだろう!! 恥ずかしすぎて、もはやヴィオと普通に接することが出来ない……!!
“トントン”
扉を叩く音がして、花音は思わず身を縮こめる。
「カノン様。もうすぐ朝食の準備が整いますが、お部屋にお持ちしても宜しいでしょうか?」
サマンサの声を聞いて、花音はガバッと起き上がる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
急いでベットから起き上がると、自分が恥ずかしいネグリジェを着ていたことを思い出した。
花音は少し逡巡しつつ、扉の外にいるサマンサに声を掛けた。
「あの……私の着替え、どこにいっちゃったんでしょうか?」
昨日の夜、寝る前にサマンサが用意してくれたのはかなりドリーミーな薄絹のネグリジェだった。
ドレスの時に負けず劣らずの衣装選択に、またもや花音は絶句したが、まぁ寝るだけだから……と思い、素直に着替えたのだった。
しかし、さすがにこのままで朝食を食べるのは嫌だ。はっきり言って恥ずかしい。
「も、申し訳ございません! あちらの服はまだ洗濯が終わっておらず……」
サマンサが慌てたように言うので、花音も慌てて言い直す。
「あ、いえ。であれば、何か着るものを貸していただけないでしょうか? この寝間着で食事をするのは……ちょっと」
するとサマンサは驚いたように言った。
「まぁ! そう言うことでしたら、昨日見ていただいた衣裳部屋の服は、すべてカノン様のお召し物としてご用意したものですので、お好きな服をお選びくださいませ!」
今度は花音が驚く番だった。
「え!? あの服、全部私のなんですか!?」
「ええ。もちろんですわ! 宜しければ、お召し替えの手伝いもいたしますわ!」
サマンサがありがたい申し出をしてくれたが、昨日のサマンサの趣味を見た後なので、恐縮しつつも遠慮する。
「あ、ありがとうございます! けど、大丈夫です。サマンサさんもお忙しいでしょうし。自分で選びますので!」
そう言って、花音はドリーミーな薄絹のネグリジェの裾をズルズルと引き摺りながら、衣裳部屋へと入っていった――。
10分ほど衣裳部屋を探索した花音は、大きくため息をついた。
「もっと普通の服は無いのかしら……」
煌びやかな夥しいドレスの中から自分にも着れそうだと思ってようやく発掘したのは、それでも豪華な飾りがついた派手なワンピースだけであった。
溜息をつきつつ、もう探す気力も無くなったのでそのワンピースに着替えることにする。
モソモソと花音がネグリジェを脱いだ時だった。
扉の向こうが急に何やら騒がしくなった。
「ヴィオ様!! カノン様は今、お着替えちゅ……」
と言うサマンサの叫びが聞こえたかと思うと、花音の部屋の扉がバターン!と大きく開け放たれた。
「カノーーン!! 朝食まだでしょ? 僕と一緒に食べよう!! ……ってあれ?」
ヴィオの瞳に飛び込んできたのは、下着だけの花音の姿だった――。
「……ご、ごめ……ん……」
ヴィオが謝ろうとした瞬間、花音の絶叫が響き渡った。
「き……きゃぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!」
花音はパニックになって、手当たり次第にヴィオに色んなものを投げつけた。
「カ……カノン! ちょ!! 待っ…!! ウブッ!!!」
ヴィオの顔には次々とモノが投げつけられ、言い訳をする間もなくヴィオは花音の部屋から撤退を余儀なくされたのだった――。




