架空のインタビュー記事
──新十両氷河先生、本日はよろしくお願いします。
氷河 よろしくお願いします。
──まずは先日発売になった新作、『砕き屋セレナ』がどういったお話なのか説明願えますか?
氷河 舞台は近未来の退廃した超高度技術世界です。砕き屋と呼ばれる特殊な職業に就く主人公のセレナは、文明の光が生み出した影であるシャギー(影の歯車、シャドウ・ギアー)と呼ばれる化け物を砕き続ける、パワフルでバイオレンスな作品ですね。
──今回新しい挑戦があったと聞きましたが。
氷河 そうですね。今までの作品では、たとえば『廃棄滅却のパニッシュメントドライヴ』(注1)では明確な最終目標が決まっていたじゃないですか。ヒロインと主人公の恋愛がストーリーの焦点であり目的でもあったわけです。自分の場合そうやってある程度終わりを示して物語を動かすやり方が多かったのですが、今回は情報を断片的に出し、どこに転ぶか分からないような作劇を意識して行っております。
──ということは、今回はハッピーエンドではないかもしれない?
氷河 そこはノーコメントで(笑)。ただ、読み終わった後、全てが終わった後に納得が出来る結末を考えています。理由の薄いハッピーエンドよりは、物語として説得力のあるバッドエンドの方が正しい結末になると思うので。
──バッドエンド至上主義ですか?
氷河 ああいや、そこまでではないですよ(笑)。ただ、『馬鹿が戦車でやって来る』『ソナチネ』『蝶々夫人』はバッドエンドですが、それぞれ名作として今も語り継がれていますよね。『風林火山クライシス』(注2)はハッピーエンドを意識した作品だったので、同じことをやっても仕方ないだろうな、と。新しいことに挑戦している、とだけ考えてもらえれば嬉しいです。
──他に影響を受けた作品にはどのようなものがありますか?
氷河 多かれ少なかれ様々な作品から影響を受けていますが、自分でも分かるほど強く影響を受けているのは『ジョジョ』ですね。どんな状況でも勝利を目指す精神の強さ、不利な相手にも諦めず戦う人間の強さ、そしてサスペンスのような緩急。大きなところではこんな感じですかね。
──先生の作品には、時に過激な描写が見られますね。そのことに対する批判もあるようですが、どのようにお考えですか?
氷河 『廃棄滅却』の3巻が発売された時には、友人から「お前よくこれ書いたな」と言われたことを覚えています。物語を通してもあの巻は重大な転機でしたし、そういった意味でその先の物語から生じるカタルシスのために必要だ、と担当さんを説得したことも覚えています(笑)。
──では、そういった意見は的外れだ、と?
氷河 流石にそこまでは言いませんが(笑)。ただ、そこだけを切り出してみれば、確かにそういうご意見が出るのはもっともだと思います。ですが、通してストーリーを見てもらえれば、その描写が作品に必要なパーツだったということが分かっていただけるはずです。まあ、『風林火山』は……一種のファンサービスと考えてやってみたんですが、今考えるとかなり危ない橋を渡ってましたね(笑)。
注1:デビュー作。現代に生きる主人公と、創造主に棄てられた世界から来たヒロインとの恋愛を描くファンタジー。
注2:突如魔法の生じた世界で、力と運命に翻弄される様を描いたファンタジー。