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第9話   ユータ仕事を探す

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 テルマエに入り、体の疲れを癒した後、ユータは猫の尻尾亭に戻っていた。時間はすでに夕方で、一刻も早くベッドに入り眠りたかった。


「いらっしゃいませ、ユータ様」

「こんにちは、部屋は空いてますか?」

「ええ、空いております。ご宿泊されますか?」

「1泊お願いします」

 大銀貨1枚を渡し、銀貨7枚を受け取る。


 今回、案内してくれたのはおとなしい少女のリリだった。とことこ歩く姿はとても可愛らしい、ユータの疲れた心を癒してくれたのだった。

 ユータはリリにお礼を言うと、あっという間に眠りについたのだった。


 次の日、ユータはギルドの酒場でコーヒーを飲みながらこれからのことを考えていた。


「迷宮探索はしたくないが……他にできることも少ないんだよなぁ」

 迷宮探索は命を懸ける割には安いが、手っ取り早く金を稼ぐ手段なのは確かである。迷宮都市だけあってギルドに張り出される依頼も迷宮関係が多く、それらの依頼を絡めて迷宮探索をすればそこそこの稼ぎにはなりそうではあった。

 冷静に考えてみれば昨日ユータは魔力を10分の1も使っておらず、体力的にもまだ余裕があったのだ。腐っても上級職という事だろう。精神的にはだいぶ追い詰められたが……。


「パーティを断ったのは早まったかもしれない……」

 そう思わないでもないユータだったが、いかんせん実力が離れすぎていた。足を引っ張られるのであれば遠慮したい。

 そうなると他の選択肢は実力の有るパーティに入れてもらうことである。しかし上級職とは言えFランク、冒険者になりたてで、魔法も完全には制御できない賢者である。先の探索では前に出てから魔法を使っていたからFFすることは無かったが……味方ごと吹き飛ばしそうな賢者など仲間にはしてくれないだろう。なまじ火力が高いので余計に始末が悪い。

 自分が受け入れる側でも御免こうむる。


 だからと言って、ソロで迷宮探索することは不可能だ。目は前にしかついていないのだ、不意打ちされれば賢者でも危険だ。それに日帰りならともかく一人で夜営することはできない。とても怖くて眠ることなど出来ないのだ。しかし日帰りで行ける距離のモンスターは刈られやすく、一泊して行く距離に比べればその数は圧倒的に少ない。つまり日帰りはあまり儲からない。


 迷宮の探索が無理なら市内、壁外の依頼ならどうか、と考えてみる。


 薬草採取……雑草と見分けがつかず、買い取り価格も高いとは言えない。ボツ。

 Fランク依頼……ドブ掃除に迷い猫探し? 子供の手伝いか?     却下。

 Eランク依頼……壁外の魔獣討伐。 悪くはないが良くもない。    保留。

 Dランク依頼……商隊の護衛。積み荷を吹き飛ばして捕まりたくない。 ボツ。


「今できることが少なすぎる」

 そう、できることが少なすぎるのだ。魔法の扱いが上手くなればできることも増える。まずは魔法を使いこなさなければならない。そしてランクを上げれば割のいい仕事も回ってくるだろう。


「そういえば回復魔法は問題なかったな……」

 迷宮内で前衛が怪我をしたときに何度か使ったが、別段体に不調を及ぼした様子はなかった。そのあと自分でも使ったが体に不調はなし。自分ではなく、他人で実験したユータだった。酷い男である。


「となると……回復魔法で稼ぎつつ、攻撃魔法の練習をするのが一番良いんじゃないか?」

 そう決まれば、まず何をするべきかを考えるユータ。


「まずはどこで回復魔法が受けられるのかを調べないと……」

 回復魔法で儲ける既得権益の有無を調べ、無い場合はそのまま回復魔法で儲ければいい。恐らくはあるだろうが……その場合は一言断りを入れ、ぶつからない様にする。向こうが望むならいくらか上前を撥ねさせてもいい。


「長いものには巻かれるに限る」

 心底そう思うユータだった。大学生活で大分汚れたようである。



「ああ、最悪の気分だ! くそったれめ……」

 ユータはギルドの酒場で酒を飲んでいた。


 調べた結果、回復魔法の既得権益は教会が持っていた。

 実際には商売ではなく教会に傷を癒してもらい、感謝の気持ちを寄付していく、という建前ではあるが教会に金が入っていることに違いはない。

 考えて見ると回復魔法の使い手は皆教会で修行している。一部魔導士系の賢者が回復魔法を使えるが、通常の回復魔法の使い手はほぼ教会の息がかかっていると思っていいだろう。教会を抜け冒険者になっても回復魔法で儲けようなどとは皆思わないようだ。

 そもそも教会と冒険者ギルドの掛け持ちも禁止されてはいないのだ、布教活動の名目で許可されている。

 この世界で教会は回復魔法で人々の怪我を癒し、教会騎士団で人々を魔物から守る人類の盾でもある。迷宮や野山の魔物が大量発生した時などに軍や冒険者と協力し事に当たるのだ。


 そのような既得権益を持っているにかかわらず、教会は暴利を貪っておらず、酷く良心的であった。部位欠損などを癒す、使える者が少ない高位の回復魔法ならそこそこ高いが、それでも金貨1枚程度だった。下位の回復魔法なら銀貨1枚から受けられるようである。

 回復魔法で大儲けしようとする行為は教会に喧嘩を売る行為に他ならない。


「マジでこれからどうしよう……」

 回復魔法で大儲けを企んでいたユータにとってこれ以上めんどくさい相手はいなかった。

 金、武力、名声を兼ね備えた連中と正面切って戦いたくなどないのである。


 教会は戦争とは無関係を貫いているため、軍隊の治癒士は高給取りではあったが、真っ先に狙われる職業でもある。迷宮より死傷率は多少マシだが戦争になど行きたくはなかった。

 最悪の場合は軍に雇われるか、迷宮を探索するしかないが、正直どちらも選びたくはない。


 思い描いていた計画が頓挫しやけ酒を煽るユータだった。


 そのビールに似た酒は苦かった。とてもとても苦かった。


お読みいただきありがとうございます。

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