第8話 初迷宮探索
やっと迷宮に潜るけど一瞬で終わります。
更新は続けつつ一度内容を見直して、各話の修正や統合を行いたいと思います。
少し変わるところも有ると思います。
朝、六回鐘が鳴り響き目が覚めた。起きた時にここはどこだ? と一瞬パニックになりかけるが異世界に来ていることを思い出す。
「夢じゃなかったんだな」
夢であって欲しい、と思う傍らで夢でなくてよかったと安堵する自分に苦笑する。
とりあえず朝食を食べに行こうと思い一階へ向かった。
「おはようございます!」
元気よく挨拶してきたのはミミだった。ピコピコと動く耳がとても可愛らしい。
「おはよう、朝食をお願いできるかな?」
顔が緩みかけるのを必死で我慢しつつ答える。
「わかりました! 今用意しますね」
食堂に座り食事を待つ。運ばれてきたのは、パンをいくつか入れた小さなかごと、チーズ、ハム、サラダ、ゆで卵、バターの乗った皿にコーヒーのような飲み物だった。
ミミにお礼を言い食事に取り掛かる。パンにバターを塗り、チーズやハムを載せてかぶりつく。
「旨い!」
つい声が出た。異世界の食事だろうとあまり期待はしていなかったが、中々よくできていた。パンは焼き立てだしバターも新鮮。昨日の屋台もなかなか旨かったが……存外異世界の料理も捨てたものではないようだ。
食事を終えて冒険者ギルドに向かう。少し迷ってしまったが時間には間に合ったのでまあ良いだろう。
冒険者ギルドは活気に満ちていた。みな少しでもいい依頼を探しているのだ。迷宮探索のメンバーを集めたり、自ら売り込んでいる者もいる。
受付に行き講習のことについて聞きに行く。受付は昨日と同じイヌミミさんだった。
「おはようございます。迷宮講習のことなんですが……」
「おはようございます。お早いですね、二階の4番の部屋に集まるようにとのことです」
「わかりました、ありがとうございます」
頭を下げ受付を離れる。少し話したかったが忙しそうだったのでやめておいた。
二階に上がり4番の部屋に行く。部屋には二人の中年男性がいた。
「おはようございます、迷宮講習をうけるユータです」
「おはよう、俺はBランク冒険者のベントだ。職は剣豪。今日はお前たちの指導を行う」
「おはようございます、教会から派遣されました、神官のキールです。一応Bランク冒険者でもあります」
Bランク冒険者に神官とはなかなかに豪華な指導員である。
しばらくすると他のメンバーが集まってくる。ユータを入れて男4名、女2名であった。
「全員集まったようだな。迷宮講習の説明を行う。迷宮で1泊して帰ってくるだけだ。簡単だろ?」
1泊するのか? 聞いてなかったぞ。
「聞いてないぞ!」
若い男がほえる。他のメンツは頷いているところを見ると知らないのはユータとこの男だけのようだった。
「受付で聞けば教えてもらえるぞ、聞いてないお前が悪い。準備ができてないやつは置いていく。」
とベントは文句を受け付けない。
「ユータ、お前も受付で聞いていなかったようだが準備は大丈夫なのか?」
「はい、アイテムボックスに入っています」
(昨日のうちに準備していてよかった~!)
ユータは心底そう思った。
「そういやお前は賢者だったな。じゃあ迷宮に出発するぞ、自己紹介は各自行っておけ」
迷宮に潜るメンバーはユータと指導員を除いて剣士2人、戦士1人、魔術士1人と全員下級職だった。
一人を置いて残りのメンバーで迷宮を探索することになった。
迷宮の門の前にユータたちはいた。
迷宮から出てくる魔物を防ぐために迷宮の入り口には壁が築かれている。門には水晶があり、ギルドカードをかざすことによって通行許可が出るのだ。
迷宮の門番にギルドカードを渡し通行許可を付与してもらう。
そしてユータ達は迷宮に潜っていった。
迷宮内はまさに壮絶だった。上層は冒険者が比較的多く魔物は狩られ易いとはいえ、魔物はすぐに湧いてくる。倒しても、倒してもどこからか現れてくるのだ。
戦闘も最初は楽だった。出てくるのが精々コボルトやゴブリンであり下級職のメンバーも楽に倒せていたが。2時間、3時間とたつと前衛の剣士や戦士がばて始めたのだ。ずっと戦っているわけではないが、疲労は溜まりだんだんと武器を振るうこともままならなくなってくる。
迷宮に入ってから半日で前衛はほぼ機能しなくなり、ユータが前衛に交じり戦っていた。
魔術師はとっくに魔力切れを起こし杖で魔物を殴ることしかできなくなった。幸いMPが切れても動くことは可能なようだ、もし動けなくなっていたら補助と護衛に2人とられ合計三人が動けなくなる。そうなれば迷宮探索などできる訳がない。
教官2名は誰かが怪我をしなければ助けに入ることは無かった。
しかし本当の地獄は夜だった。
「モンスターが来たぞ!」
「またか! くそったれめ」
「眠い……やっと寝付いたところだったのに……」
夜は突然のモンスターの襲来にたたき起こされるのだ。疲れて眠ったところをたたき起こされるのは本当に辛い。
そもそも石などでゴツゴツした地面では寝る事さえ辛かった。地面は体温を容赦なく奪っていくのだ。他にもノミかダニがいるらしい、寝ていて体がかゆくなる。だが、まだノミやダニならましな方で……
「お前! ヒルに噛まれてるぞ! 首についている!」
「ぎゃああああ! とってくれぇ!」
「無理やりとるな、タバコの火を使え!」
「もういやぁ!」
ヒルに噛まれることもあるのだ。
まさに阿鼻叫喚である。平然としている教官らがうらめしい。
迷宮から出るころには全員返り血を浴び、その返り血に入るつく砂や泥によりめちゃくちゃになっていた。
ユータの服は女神の加護でもあるのか汚れることだけはなかった。そのせいでパーティ全員から少し羨望の目で見られたが……特に女子の目が凄かった。ユータから服を奪いかねないほどに。
迷宮から出られた時には全員その無事を喜んだ。この世界の人間からしても迷宮は凄まじく過酷な場所のようだ。
ギルドに戻ってきたユータたち。周りを見るとなぜか優し気な目で見られていることに気付く。
皆同じような地獄を経験した仲間だと直感的に思った。
「お前ら、わかったか? これが迷宮だ。軽い気持ちで入れば死ぬだけだ。しっかりと地上で経験を積み仲間を探せ! さもないと二度と戻ってはこれん……。一攫千金を狙うのはやめておくんだな」
「皆さんが無事に帰れたことを神に感謝しましょう、くれぐれも無茶はやめてくださいね」
教官二人の声も地獄を経験した後では素直に受け入れられる。迷宮は魔窟だと。
「これは今回の成果だ、よく頑張ったな」
ベントから渡されたのは、大銀貨2枚だった。今回の迷宮で手に入れた魔石(コボルトやゴブリンからは魔石しか使えるものが採れない)を売却した金額を5人で割ったものらしい。
命を危険に晒して一日大銀貨一枚、これに経費を合わせたら上層の迷宮探索は割に合うとはユータには思えなかった。
ギルド内で今回探索に行ったメンバーでパーティを組もうという話が始まっていたが、ユータは丁重に断り、ギルドを後にする。
二度と迷宮なんかに入るか! ユータの思いはこれに尽きる。
ギルドを出て速足でテルマエに向かうユータだった。




