第5話 城郭都市ケルン
「待てやぁー!」
野兎を追いかけるユータ。
城郭都市に向かったはずのユータであったが、最初に転移した林に戻ってきていた。
理由は単純明快で金がないからである。
銀貨1枚の入場料が払えなかったのだ。
少し安くなるが門にいる商人が持ち物を買い取ってくれるらしいのでこの森で金になるものを集めに来ていた。
並んでいる人から入場料のことを聞けたのは幸いだった。いざ入る時に金が無くて入れませんなど時間の無駄すぎる。
ユータはそこら辺の木の枝を拾いこん棒として使っていた。魔法は威力が調節できず使い物にならなかったのだ。
売却するのだからあまり傷をつけないようにしなければならない。
火魔法は論外として、風魔法や土魔法で仕留めようと思ったのだがウインドカッターを使えば一抱えもある木々をなぎ倒すわ、目つぶしにサンドショットを使おうとすればそこら中の砂を集め、木を根元から掘り起こすわで、さすがに使うのを止めた。
そして獲物には当たらないのだ。
慣れの問題だと思うが今は練習する時間すら惜しい。
そこで木の枝である。ゴブリンになった気分だとユータは思った。
薬草採取? 薬草なんてユータからすれば雑草と見分けがつかない。
さすがに上位職の賢者なので身体能力はそこそこあるようだ。かなり走っているのにもかかわらず息切れなどはしていなかった。
ちょこまかと逃げる野兎に対し少しずつ距離を詰め木の枝を投げつける、野兎はうめき声をあげ動かなくなった。最初は投げずに振り下ろしていたのだが全く当たらなかったのだ。投げればいいと気づくまでに時間がかかったのは内緒である。
「これで5匹目か……」
野兎一匹につき平均大銅貨5枚で買い取ってもらえるらしいので、合計2銀貨5大銅貨になる。
多少買いたたかれても何とか都市に入り何か食うぐらいはできるだろう。動物を殺すことにあまり嫌悪感はなかった。命がかかれば人間は大抵のことはできるようだ。
「夜になる前に戻らないと」
どこの町でも夜は門が閉ざされ入場はできなくなる。運悪く入れなかった場合は門のそばで夜営するしかない。
5匹ともなると運ぶのも一苦労だ、仕方がないのでマントの上にのせて運ぶことにした。血は出てないがあまり気持ちの良いものでもない。
早く手放したいユータだった
「間に合ったぞ」
少し息を切らせたユータが都市についた時には既に日が傾きつつあったが何とか列に並ぶことができた。鐘がなる前に列に並べば中には入れてもらえるのだ。
並んでいる間は暇だ。やることといえば周りの人間としゃべるくらいしかない。しかしユータにとっては大事な情報収集になった。
周りの人間も暇なので誰でも知ってるようなことを言っても初めて聞いた様な顔をして驚くユータは良い暇つぶしの道具だった。
聞けた内容は、
城郭都市の名前はケルンで迷宮がある。
ケルンはフロスト帝国に所属している、帝都は別にあるらしい。
ケルンは帝国の中でも経済の中心地であるらしいことがわかった。
帝国の周りにはズッファ王国、都市国家共同体、海を隔てたところに獣人連合王国がある。
帝国と王国は何かとごたごたしているらしい。
などの情報を聞くことができた。
そうこうしているうちにユータの番がくる。
とりあえず金と身分証がないことを伝え物納をしたいという旨を衛兵に伝えた。ウサギは査定の結果1匹3大銅貨にしかならず、合計でも1銀貨5大銅貨にしかならなかった。血抜きをしておらず、肉が使い物にならないらしい。
ユータは涙目になった。
全部引き取ってくれたので手間が省けたことは確かだが、多少ぼられた感が無くもない。
お馴染みの犯罪者を調べる魔道具で調べられ中に入ることが許可される。
実をいうと地球でのスピード違反がこっちで引っかかったりしないか少しヒヤッとしたユータだった。
既に減点済みだが。
ようやくユータは城塞都市ケルンに入れたのだった。