第15話 ユータ騎士を助ける
「彼らを、生き返らせることが、できるのですか?」
一言、一言を確認するように話す貴族の少女。
目の前にいるのが賢者だとは聞いてはいたが、蘇生魔法まで扱う賢者となるとおとぎ話で聞くような存在だ。蘇生魔法など回復特化の神官系でも、ごくごく一部しか使えない。
少女は目の前にいる男が得体の知れない化け物のように感じた。
貴族の馬車が襲われた責任を取らされるのと、貴族に蘇生魔法が使えると知られること、どちらが面倒ごとを引き起こすかと言われたら後者だろう。しかしユータは今の安定した職を失うのが嫌で後者を選択した。
そう決まればユータの思いは〝この貴族からいくら稼げるか〟これに尽きる。
「ええ、できますとも。もちろん私一人では皆さんを蘇生することはできませんのでいくつか条件があります」
これは嘘だ。ユータのMPは全員を蘇生できるだけは残っている。
「条件?」
「はい。一つ目は魔力回復ポーションがあるならあるだけ提供して頂きたい」
「わかりました。提供しましょう」
「ありがとうございます」
なくても問題はないが、とりあえず金目の物を巻き上げようという魂胆だった。
「二つ目は、私が蘇生魔法を使えることを、むやみに広めないと約束していただきたい」
まあ、ある程度広まるのは仕方がないが一応は口止めしておく。
「お父様には伝えますが、他の者には話しません」
「まあ、いいでしょう」
「三つめは報酬の相談ですかね。」
「報酬ですか、お父様に掛け合ってみます。これでいいですか?」
「駄目ですね」
「貴様? 無礼ではないか!」
レイモンドがほえる。
「申し訳ありません、しかし今ある程度価値のあるものを頂いておきたい。それを後で金銭と交換する証文といたしましょう」
これは貴族の娘に騎士の価値を自分で決めさせる行為だ。あまり価値のないものを渡せば、騎士にとって〝お前らの価値はその程度〟と知らしめることになる。
恥を知らない貴族なら喜んで価値の低いものを渡してくるだろうが、騎士の死に嘆いている少女なら、おそらく自分の持つもので一番価値の有るものを渡してくるだろう。
この少女はどんな対価でも払い、騎士を助けようとする。ユータはそう踏んでいた。
(その純粋さ、付け込ませてもらう)
やはりユータはGESUな男だった。
「ではこれでどうですか? 私がお婆様から頂いた魔道具です。持ち主に危害が加えられようとしたとき、障壁をはり守ってくれる、私が持つもので一番価値が有るものです。あとで返してもらえるなら今はこれをお渡しします」
「それなら問題ありません。あとでお返ししますよ」
少女から腕輪を受け取る。
まわりの騎士や侍女が驚愕しているがそれは無視する。金銭と引き換えとはいえ、どうせ返すのだ、問題ないだろう。
少女から腕輪、騎士から魔力回復ポーションを受け取ったユータは上機嫌で、騎士の死体を並べていく。
「それでは蘇生していきましょう」
ユータはこれまで通り、意識を自分の中に向ける。もう何回もしてきた行為だ。よどみなく目当ての魔法を選択する。
問題はリザレクションが本当に死者を蘇生する魔法かどうかと言うところだ。まあ試してみるしか調べる方法はないが、できれば一度適当な動物で実験したいところだった。
「リザレクション」
ユータが魔法を唱えると騎士の死体の一つが光に包まれる。
光が収まったときあたりは歓声に包まれた。死体となり、血色が悪くなっていた騎士はその赤みを取り戻し、息をしているのだ。
ユータは内心使う魔法が間違っていなかったことに安堵する。
もしこれで騎士が生き返らなければ、その時は生き残りの騎士と仁義なき戦いが繰り広げられただろう。
ユータは一人ずつ騎士を蘇生していく。たまに魔力回復ポーションを飲むふりをしながら。
しかし、蘇生される騎士によって歓声の大きさが違うのが少し悲しいところだ。女性の騎士が蘇生された時が一番大きな歓声が上がった。
同じ騎士でもこんなにも差があるのか……と歓声の小さかった男の騎士には同情を禁じ得ない。
一時間ほどで全員の蘇生が完了した。
「ユータ様!」
蘇生が終わって一息つくユータに貴族の少女から声がかかる。
「先ほどの暴言を謝罪させてください……本当に申し訳ありませんでした。それと皆の蘇生ありがとうございます」
「なに、気が立っていたのでしょう。気になさる必要はありませんよ」
最初の憤怒が嘘のようにしおらしくする少女に少しだけ、罪悪感を感じるユータ。
「私からも皆を代表して、ユータ殿に感謝を!」
男泣きするレイモンド。感極まったのかユータに抱き着いてきた。
(ぎゃああああああああ! それは女騎士の仕事だろうがぁぁぁ! 汗くせえぇぇ!)
ユータは内心悲鳴を上げるがどうしようもない。レイモンドが我に返るまで抱擁され続けたのだった。
おっさんの抱擁によってSAN値が大幅に削られたユータだった。
「ユータ様はケルンに戻られるのでしょう? 一緒に戻りませんか?」
ユータの心を救ったのは貴族の娘、メアリーだった。どうやらずいぶん懐かれたようだ。すっかりと素直になったメアリーはおっさんの抱擁で閉ざしかけたユータの心を救ってくれた。
「まだ盗賊が残ってますからね。やつらをきちんと潰してしまわないと」
「それならば、私どもも協力いたしましょう!」
(いやちょっと待て! 貴族のお守なんて冗談じゃねーぞ!)
「それは良いですな! ユータ殿がいれば我々には良き鍛錬となりましょう!」
ユータはレイモンドが止めることを期待したが、無情にもメアリーの考えに乗ってしまった。
レイモンドとしては死んでも蘇生が保証されているので、騎士を鍛える良い訓練としか思えないようだ。周りの騎士も盗賊相手に不覚を取ったのが悔しかったのか、レイモンドに賛同し復讐に燃えていた。
「お待ちください! お嬢様にそのような危険なことなどさせられません!」
唯一の例外はメアリーに付いている侍女だった。しかし数の力というものは恐ろしく、彼女の意見など誰も取り上げない。ユータとしても侍女の意見には賛成だ。
「優先順位をはっきりさせましょう。レイモンドさんは護衛と盗賊の討伐、どちらを優先させるのですか」
騎士たちと盗賊退治などご免こうむる。メアリーの護衛はどうするつもりなのだろうか。
「う、それはもちろんお嬢様の護衛です……」
「だったらさっさとケルンに戻るべきでしょう」
「……わかりました。我々は先にケルンに戻ります」
レイモンドは何とか納得してくれたようだ。侍女もほっとした顔をする。
「レイモンド! 裏切るのですか!」
「お嬢様! 申し訳ありません! しかしこの者の言う通りなのです!」
「うー、ユータ様! わかりました。私たちは先に戻ります。ユータ様なら大丈夫でしょうが、何とぞお怪我にはご注意くださいね」
「大丈夫ですよ、怪我一つなく、盗賊を殲滅して見せましょう」
にやりと笑うユータ。悪い顔である。
騎士たちが少し距離をとるがメアリーだけは〝すごい!〟と驚くだけだった。
ユータはメアリーたちと別れ、一人盗賊の掃討に向かった。
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