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第13話  働かずに飲む酒は美味い

「あ~、この世界でもやはり酒は美味い」

 ユータがギルドの執行隊に入ってから1週間、ユータは昼間からギルドの酒場で酒を飲んでいた。

それもにやけながらである。はたから見て気味の悪いことこの上なかった。

 周りの目が少し冷たい気がするが、ユータが気にすることはない。

 ギルドの拘束費は月に金貨3枚、これだけで毎日酒を飲んで暮らすことができる。執行隊の事について喋れなくするため魔法契約を結ぶことにはなったが問題はない。

 契約書に血を垂らすというのは少し怖かったが何も問題は起きていないので忘れていいだろう。


 働かずに飲む酒は美味い、心の底からそう思うユータだった。

 よく考えてみれば、金の事やこれからの事に頭を悩ませ、ゆっくり酒を楽しむ余裕がなかった事に気が付く。なればこそ、今は酒を純粋に楽しんでも良いではないか。

「気分によって酒の味が変わるのは本当の事かもしれないな……」


 今のところギルドからの指令である指名依頼も来てはいないのだ。恐らく指令を出したくてもFランク冒険者に依頼する内容ではないのだろう。無理に指名依頼を出し執行隊の事が露見することを恐れているのだ。


 ギルドとしては早くランクを上げて欲しいのだろう、アデーレという名前(最近知った)のイヌミミ受付嬢さんが「こんな依頼がありますよ?」と散々言ってきたものだ。ユータとしては働きたくないので、すべてはぐらかしていたら昨日から来なくなった。最後には泣きそうな顔になっていて少し罪悪感を感じたが……平穏に暮らすためである、泣いてもらおう……。異世界に行ってもGESUゲスなユータだった。


「ユータさん、副ギルドマスターがお呼びです」

 声をかけてきたのは少し恨みがましい顔をしたイヌミミ受付嬢こと、アデーレさんだった。

「わかりました、今行きます」

 ユータにとってこの呼び出しは、自分のだらだらとした生活の終わりを告げるものなのであまり歓迎できるものではないが、給料を貰っている以上給料分は働かなくてはなるまい。

 勤務態度はお世辞にも真面目とは言えないが。


「副ギルドマスター、ユータさんをお連れしました」

「ご苦労だったね、受付に戻ってくれ」

「はい、失礼します」


 サーシャは少し不機嫌そうな顔をしている。金貨3枚を使ってニートを養っているのと様なものだ機嫌も悪くなるものだろう。


「私はね、君を奴隷にしてからギルドで雇ったほうが、コストパフォーマンスが良かったのでは……と後悔しているところだよ」

「そうかもしれませんね」

 しれっと答えるユータ。最近になっていろいろと吹っ切れたようだ。

 疲れたようにため息を吐くサーシャだった。


「奴隷は仕事の効率が悪いから君は雇い入れたのだが、君は奴隷より働かないようだね」

「それは酷い冗談です」

「……まあそれはいい、それより依頼達成おめでとう。これで君もFランクより格上げだ」

「はい? 耳が悪くなったようです。俺がランクアップなど……あり得ませんよね?」

(依頼など一つも受けてはいないはずだが?)


「安心していいよ、君の耳は正常だ。依頼されたのは護衛依頼扱いのギルドでの警備任務だ。君は毎日ギルドで待機していただろう? それが5日で5回達成になっている。君の戦闘力はギルドでも評価していてね、実力は十分という事でCランクまで飛び級だ。良かったじゃないかこれでひとかどの冒険者だよ」


(Cランクだと? 冗談じゃないぞ!)


 Sランクがほぼ名誉ランクになっている今、依頼のランクは最大でもAランクになる。しかしAランク依頼など天災級のドラゴンでも出てこない限り、依頼にはあがらない。つまりBランクまでの依頼が受けられるCランクになれば、ほぼすべての依頼が受けられると言っても良い。


「……それは認められるのですか?」

 内心、横暴だ! と叫びたいユータだったが自重する。


「問題ないとも、書類の上では君は既にCランク冒険者だよ。ギルドカードに反映するのは少し遅れるが、問題ないだろう」

 ユータよりサーシャのほうが何枚も上手のようだ。


「さて、執行隊の話をしようか。現在人を集めてはいるが芳しくはない。まず話を持ち掛けられる冒険者が少なすぎてね。何かあったときに逃げるようなやつは信用できない。そういう意味では君の魔法実験は良いふるいになったよ」

 確かにいざという時、逃げるような奴は信用できない。しかし借金漬けで働かせている者は信用できるのだろうか?


「でも、それで少し問題が起きていてね。逃げ出した冒険者の中には強盗に身を落とす奴もいるんだ。軍や都市執政部、商業ギルドに散々文句を言われてるんだよ。退治に冒険者を動員しようにも、ただでさえ冒険者が減っていているのにこれ以上減るとなると……都市の経済にも影響を与える」

「つまりは?」

「君が原因だ。自分で何とかしてくれ」

「了解」

 お前が原因なのだから自分で解決しろとは、なんと明快で簡潔な指令だろうか。


「盗賊の位置と規模は?」

「都市より北方にある街道に出没しているらしい。規模は現地の盗賊団を吸収し30人は超えているそうだ。軍が来ると森に逃げ込むので討伐は上手くいっていない。これを殲滅してくれ」

「報酬は?」

「1人につき金貨1枚、首を持ってきたら交換する」

「首ですか?」

「ああ、盗賊になるとどうなるか、見せしめも必要だろう。冒険者を引き締めるいい機会だ」

「了解、金貨を用意して待っててくださいね?」

「手早く頼むよ、流通が滞っている」


(人を殺したことは無いが、まあ大丈夫だろう。さっさと終わらせて晩飯までには帰りたいものだ)


 さっさと賊を退治すべく、都市を出て北方へ向かうユータだった。


ありがとございました。

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