第10話 魔法訓練
やっと10話、まだまだ先は長いです。
せっかく思いついた金儲けの計画が頓挫し、やけ酒に走るユータだったが立ち直りは早かった。まあ、意識を切り替えたというよりは、軽くなっていく財布に耐えられず仕方なくではあったが。実際未練たらたらである。
せっかくだから都市の近くの森で魔法訓練をしつつ、小銭稼ぎに薬草を採取したり、魔獣退治をしようと思ったのだ。依頼自体は受けてはいないが討伐対象の魔物を見つけたら倒したって良い。小遣い稼ぎにはもってこいだ。
「ここらでいいかな」
ユータがやってきたのは森の奥、希少な薬草も無いようで冒険者もあまり入ってこない場所だ。魔法の練習をするには丁度いい場所だろう。
「とりあえず、一番弱いのから……」
魔法について意識し使える魔法を脳内で検索、風魔法で一番下位の魔法を選択する。
「ウインドカッター!」
一抱えもある大木をいとも簡単に切り倒す魔法、とても下位の魔法とは思えない。
「狙いは良くなってはいるんだがなぁ」
確かに、以前より狙った場所に当たるようになってはいるが……これでは子供のおもちゃを打ち落とすためにミサイルを使うようなものだ、いささかオーバーキルが過ぎる。使い勝手は最悪である。
同じ魔法でも以前の迷宮探索で魔術師の少女が使っていたものはもっと弱い。どちらかといえばあちらのほうが使いやすそうだ。
ステータスで確認するとMPが20減っていた。MPが多いのであまり問題はないが燃費が良いとはいえないだろう。
「まあ、練習だ、練習。フィンランドの人も言ってたし練習あるのみ」
「エアカッター!」
「威力の調節がこんなに難しいとは」
魔法の練習はあたりの木々をなぎ倒すようにおこなわれた。既に三桁を超える木々を倒している。ステータスを確認するとMPはすでに1500ほど減っていた。計算が合わない分はMP回復強化の影響だろう。
とりあえず休憩しようと思い、アイテムボックスから水を取り出しあおる。この世界の水は硬水だが、それがどうして悪くはない。
「ステータス」
とりあえず能力の再確認をしようと思いステータスを開くユータ。
ユータ 20歳 男
人族 level:15
賢者 level:2(UP)
HP 12100/12000(100 UP)
MP 21700/23200(200 UP)
職業スキル
魔道六法 level:7
回復魔法 level:10
空間魔法 level:3(UP)
魔力操作 level:6
HP自動回復level:2
MP回復強化level:4
闘棍術 level:4(UP)
鞭術 level:4
身体スキル
言語理解 level:10
演算 level:5
「お、賢者のレベルが上がってる、空間魔法も上がってるぞ」
はしゃぐユータだったが、ある項目に目が行った。
「魔力操作?」
知らない子ですね? いらない子ですか? この全く役に立っている気がしないスキルは何だろうか。
でも空間魔法オサイフの件もある。少しイメージしてみても良いだろう。
「魔力操作……」
魔力操作をイメージしユータは愕然とする。なぜこのような便利なものを自分は知らなかったのだ、と以前の自分を叱責したい気分だ。
「アッハッハッハ! なんだこれ、なんだこれ! いやこれは凄すぎる、どんなスキルよりチートじゃないか!」
狂喜に陥るユータだった、魔力操作の正体はその名の通り魔力を操り、威力、打ち出す速さなど様々なモノを調節するスキルだった。脳内で魔法の威力や速さを調節するとそれを使用するためにかかるMPを教えてくれるのだ。いやはやこれがあるなら、いくら魔法を唱えることで威力の調節ができなくても納得である。
これをチートだと考えるユータだったが、中級職の魔導士以上になると、魔力操作による魔法の応用は初歩の初歩である。下級職の魔術師ですら使えることもある。
ユータは使い方を知らなかった、ただそれだけなのだ。
言ってみれば魔法を唱えるだけで使用することは、誰でも使えるようにマニュアル化されたことのみするようなものだ。魔力操作はマニュアルの応用。マニュアルが悪いとは言わない、非常に役に立つものではあるが、得てして現場では臨機応変さが求められることも有る。
「空間魔法も新しいのがあるな……」
新しいものを手に入れれば使ってみたくなるのが人のさがだ。
「スキャン」
スキャンは対象物や周囲の情報を文字通り〝細かく調べる〟という事だ。うまく使えれば周囲の情報把握に使え、奇襲などを防ぐことができる。
しかし便利なものは時に、使用者に考えもしない被害を起こすこともある。
スキャンの場合は……。
「ぎゃああああ!」
と、のたうち回ることになる。膨大な情報に脳が耐えられないのだろう。脳は普段から膨大な情報処理を行っている。そこに新たな情報をぶち込むのだ、焼き切れてもおかしくない。
いや焼き切れるというのは正確ではない、情報のオーバーロードを起こし、機能不全に陥ると言ったほうがいい。つまりは何をしたら良いのかわからなくなるのである。
「ヒール! ヒール!! ハイヒール!!!」
ユータが咄嗟に回復魔法を唱えたのは、生存本能の結果だろう。それほどまでに衝撃的な出来事だった。
「なんだこれは!? ふざけた代物だ!」
ユータは憤る、最高に気分の良い時に水をさされた。
ステータスを見るとこの魔法は200もMPを消費するようだ。とても実践では役に立たない、使えば魔物の目の前で悶絶である。このままでは使える訳がないのだ、このままでは。
魔力操作を用いてスキャンし送られてくる情報の取捨選択をおこなう。とりあえずは、魔力反応にのみ反応するようにする。 空気の動きなどの情報が送られても今は使い道などないのだ。
「スキャン」
先ほどと違い魔力反応にのみ反応するようにしたが、まだまだ情報量は多いようだ。脳内で処理できなくはないが、他のことが全くできなくなってしまう。
「そういえば演算もあったな」
駄目もとで演算のリンクができるか試してみる。答えはできた。
悲しいかな、演算などの計算スキルを他のスキルと併用するのもまた常識であった。
とりあえず、スキャンから送られてくる情報を演算で処理し、動物と思われるモノのみ情報が送られるようにした。これだけでもユータの負担は減り、だいぶん使いやすくなった。
「さて、サクサク改良していこう」
ユータはこの手の作業も大好きなのである。
ああ、効率化! 何という素晴らしい響きなのだろうか。
こうして魔法の効率化に励むユータだった。