第1話 ある日の地球
ノリと勢いで書いてみました。
つたないと思いますがよろしくお願いします。
喧騒に包まれた空間がある。
とある駅前の商業ビルをワンフロア改装し作られた居酒屋だ。
間接照明のオレンジの光に照らされる居酒屋で、人々は泣き、怒り、哀しみ、そして笑っていた。
様々な感情が飛び交う空間で、ひときわ大声で騒ぐ集団があった。
「我らがゼミの後輩諸君! 日本語はわかるな? 杯を乾すと書いて乾杯だ! それでは!」
「「「かんぱーい!!!」」」
あちこちでグラスが澄んだ音を立てる。
中身を溢さぬように、それでいて力強く打ち付けられるグラスの中身を、皆一気に飲み干していく。
大学4年目の始まりに中条悠太はとある居酒屋にいた。所属するゼミの新歓が今日行われていたのだ。
ゼミ室で顔合わせをし、大学構内のバーベキュー場で健全な新歓を催した後、有志で居酒屋に来ている。
悠太は酒が好きであったし、酒もある程度飲めたので参加していた。
会話を楽しみつつ何杯目かわからぬ酒を飲む。
いくら酒が飲めたとしても酔いは回り思考は鈍っていくものだ。
少し周りをみると会話が成立しているように見えて、成立していない者、壁にもたれて眠る者など様々である。
姿が見えない者はおそらくトイレで唸っているのだろう。
そんな状況のなか悠太の席に声がかかった。
「からあげお待たせいたしました!」
元気な声をあげるのはこちらの状況などまるで気にした様子のない店員だった。そして揚げたてのからあげがテーブルに置かれる。
ああ、からあげ、この時からあげが来なければ運命は変わっていただろう。
悠太はからあげが好物だ。手を伸ばさずにはいられなかった。
グラスが傾き中の酒を溢す。こぼれた酒は机の上から悠太の太腿めがけて流れていく。酒好きな悠太にとって一生の不覚だった。
ここまで酔っていたのか、と自分は酔い加減を自覚することはできたが、時すでに遅し、だ。
「「「あ……」」」
悠太を含めた幾人かの声が重なる。
おしぼりお持ちしますね、と店員の優し気な声が響く。
「こ・れ・は?」
「「「粗相だぁあああ!!!」」」
「「「イヤッハー!!!」」」
粗相である。
この理不尽な制度は一体だれが考えたのか? 少しでもミスをすれば罪に問われる。いささか濫罰濫刑が過ぎるのではないか。
この罪の償い方は一気飲みだ。
幾人から歓声が上がった。
人の不幸を喜ぶ、GESUどもだった。
悠太にしてみれば償うことはやぶさかではないが、寝ているやつは良いのだろうか? と思はないこともない。
「「「粗相! 粗相! SOSO粗相!!!」」」
粗相コールが始まる。こうなったら誰にも止めることなど不可能だ。
(あ~、やっちまった)
内心でぼやくがどうしようもない。かくなる上は飲むしかないのだ。
「すみませーん、ビー、「待て!」ルを」
仕方がないのでビールを注文しようとしたとき、待ったがかかる。
「後輩が見ている前でビールでいいのか?」
衝動的に「うるせぇ」と言いたくなったがグッと堪える。
人の不幸を喜ぶGESUどものことだ、そんなこと言えば「へー、そんなこと言っちゃうんだー。ふーん」と言われ、より酷いことになるのは目に見えていた。
言えば言うだけ状況が悪化するのでさっさと飲んで終わらせたほうがいい。
いまだに多少の理性が働く自分の脳みそに感謝しつつ、あいつが粗相したときには同じことをしてやろうと悠太は密かに誓う。
類は友というか……悠太も十分GESUの一員であった。
「いやっしゃあぁぁぁぁぁ! ウイスキー! いやスピリタスをお願いします!」
こうなったらやけくそである。少しでも場を盛り上げようと衝動的に叫んでいた。居酒屋ではスピリタスなど滅多にお目にかかれる物ではない、と内心打算もあったが。
「「「おおお!」」」
場は盛り上がったのでよしとする。
幾人かは少し引いた眼でこちらを見ているがそれは気にしない。気にしてはいけない。この状況で冷静になるとSAN値がガリガリと削られるのだ。
彼らはGESUではないようだ。あとで家に帰ることをお勧めしよう。GESUとつるめば常識人ほど損をするものだ。主に後始末という面で。
「かしこまりました!」
(え、あるの?)
無情にも告げられたのは元気のいい了承の言葉だった。
ほどなくして来たのは透明な、一見水にも見える液体だが、冷凍庫でも凍らない化け物だ。
消毒液よりアルコール純度が高いものなど飲むべきではない、と悠太は思う。
(くそったれめ!)
悠太は内心で毒づくが自業自得である。
みずからにおきた不幸を嘆き悲しんでも、短時間では目の前の液体が無くなることはない。
息を整えグラスを持つ。
精神を統一し味覚、痛覚などを鈍らせなくてはこの化け物にはけてない。
そしてあまり時間もかけられない。下手に時間をかけ体温でアルコールが蒸発し量が減ったとしよう。GESUどもの事だ、嬉々としてもう一杯注文するだろう。悠太は確信していた。
イッキコールを含めた居酒屋の喧騒がどこか遠くに感じる。
「うおぉぉぉ!」
大口を開け一気に飲み干していく。この手のものは流し込むに限る。
味わってしまったら負けるのだ。
そして飲み切り拍手が鳴る。悠太はガッツポーズをしつつ席に着いた。
(ぎゃああああああ)
口中にアルコールが猛威を振るう。悠太は眉を顰めるができるだけ表には出さないようにしていた。少し見栄っ張りな男のようだ。
タバコが吸いたかったが、火が点きそうで怖かったのでやめた。
(気分が悪い)
体内で異変は起きていた。今まで散々飲んでいたのである。体の許容値はすでに限界だった。そこにスピリタスを流し込んだのだ、十分にラストストロー足りえた。
これがウイスキーや焼酎ならまだ運命は変わっていたのかもしれないし変わらなかったかもしれない。
友人が自分を呼ぶ声が聞こえるが悠太に返事をする力はなかった。
悠太は眠るように息を引き取った。
お読みいただき、ありがとうございました!