いざクラスへ
小説投稿ばかりはかどるなんて。
やること溜まってるのに。
無事入学式を終えた私達は、体育館から教室へと向かう。女子たちは先程のと有る生徒達のおかげか短いスカートを気にせずうきあしだっている。男子達もキラキラした憧れの目を向けていたが、そのナリはカラフルな髪に崩した制服。見た目からして、気の強そうな不良ばかりだ。
私と花は、そんな同級生たちがつぎつぎと教室へ向かうのを少しは見送ってから、その後をゆっくりついていくことにしたのだ。
「それにしても荒れてるなぁ」
ポツリと呟いた言葉は、すぐに隣りの親友に拾われる。
「当然でしょ。このヨザ高は不良で有名じゃない」
だから私の偏差値でも入れたんだけどね。
私立与座宮高校。通称ヨザ高。だいたい察する通り、不良校である。偏差値なんてものがあるのかも怪しい所だ。五教科120点で入れたよ。これでも頭いいほうだったよ、やった。
なんて思うと同時に、随分前に消したモヤモヤがあることに気が付き、私より背の高い花の顔を見上げる。
「でも、ほんとに良かったの?」
不安に思っていたことがついつい漏れてしまい、花は私を怪訝そうに見てくる。
「なにが」
「そんなの花が一番わかって、」
「しりませーん。こんな時にネガティブ発言しないで」
でも、だって。花はいつも努力してて、かっこよくて優しくて、皆からも期待されていたのに。ヨザ高なんて、花の印象が落ちるだけなのに。
私が花を巻き込んじゃったから。
こんな天気のいい入学式前なのに、1度思ってしまった私の黒いもやは、更に増して溢れだしそうになる。
「だって花、あの北王学園合格圏内だったんでしょ?それが、こんな県内有数の不良校にき……」
「いまさらじゃない。いちいちしつこい女は嫌われるよ。特にこのギャルさんたちの学校だと」
「うぅっ!」
ここぞとばかりに傷を抉られた。
分かってる。確かにこんなジメジメした女は私も嫌いだ。特に、何でも強気なギャルさんたちにとって、これほどまでにうざい奴はいない。花の言っていることは確かだし、花はこんなことを気にするような子じゃないことも、長い付き合いのうちに気づいている。
でも、本当に罪悪感ありまくりなんだよ。だって花の家ってアレじゃん?俗に言う財閥。そんな家の子供をこのヨザ高に入学させてしまったのは紛れもない私なんだよ。めっちゃワルじゃん。
「ほら、早く行くよ。私は私のやりたいようにしてるだけだから」
そんなことをグルグル考えていると、そこから救い出すように花がこちらを見た。相変わらずクール。でも仲間思いの優しい子。他人に流されずに私といてくれる花だから、結局私は離れられない。
私が、離さないんだ。
「もうー私には花しかいないっっ!」
こらえ切れずにギュッ、と花に抱きつく。
「うざい」
はい、その毒舌ももはや心地よいと感じてますよ。花は嫌そうにまゆを寄せるけど、私を離れさせようとはしない。だから、甘えちゃうんだよね。あ、勘違いしないで、私M質は持ってないよ。
「それにしても花と同じでよかった」
「そこに関しては同感。思った以上に私は馴染めそうにないからっ!?……て何よ。いたい」
少し曇った表情をした花の背中をぼんっと叩く。鋭い視線を浴びたけど、私はそれをはねのけるようにして花に向かって笑った。
「大丈夫!私がいるし、困ったらお兄ちゃんのコネでどうにかなる」
「最後の方はかなり頼りになりそう」
「私も頼ってよね」
「はいはい」
なんて2人で他愛も無い話をしていると、いつの間にかクラスについた。やはり私達は遅い方で、クラスの中は随分と人が集まっていた。
「1のA、ここだね」
もう悩んでもしょうがないので、平然を装って普通に教室に入る。花は少し緊張しているのか、私の1歩後ろを無言でついてくる。
「席どこかな」
「美希、黒板に書いてあるよ」
ほら、と花の指したほうの黒板へ目をやる。まず目に入ったのは、その黒板。やはり元気のいい先輩方のおかげで、至る所に傷が。この黒板で授業をする先生も、やる気を無くしても無理はないな。
次に、その黒板に書いてある座席順を見る。担任が書いたであろうその字を見て私は少し驚いた。綺麗だったのだ。この学校には正直似合わないと思ってしまった。しばらく自分の名前を見つけるという目的を忘れ、書かれた文字を追いかけるように見つめる。
「流石に出席番号順ね」
黒板のボロさに不釣り合いな綺麗な整った文字に少し気を取られていたので、横から花が話しかけたことに気づかなかった。
「え?」
「席のことよ」
「あ、ほんとだ」
途端に花は訝しげに私を見つめる。
「そんだけ黒板見てるのに、美希は何見てたの」
綺麗な文字です、なんちって。
「えーとねぇ」
しょうがない、と理由を答えようとした私の言葉を無視して花の声が重なった。
「じゃあ、私窓側の前だから」
えー、ちょいまち。聞いたの花火様じゃないっすかぁ。
私がボーとしてるのなんてどうでもいいらしく、花はスタスタと自分の机の元へ行ってしまった。私の言葉なんて無視だよ。ひどすぎやしないか。でも昔から行動力は人1倍ある子だから、もうあまり驚きはしないけど。でも、さっき教室に入る時は緊張してたとは思えないなぁ。
と言うか、いいな窓側の後ろじゃんか。私もいい席だもいいなと思い、改めて黒板へ視線を戻す。私の名前は出席番号が安定しないから、毎回席もかなり変わったりするんだよね。
「私の席は、と」
あった。端から探したからすぐに見つけられた。廊下側から2列目の一番後ろ。まぁまぁいい席だ。そう思ってちらりと自分席の辺りを見回す。
「……」
いい席だよ。うん。
隣の金髪くんがものすごい不安要素だけども。
入学して初めての友達って大事だとは思う。だから初めは関わりの多い隣の子とか話せればいいなと思っていたけど、出来れば女子であって欲しかった。とりあえず最終確認しよう。もしかしたら見間違えて別の席かもしれない。隣が実は女の子かもしれない。
そう思って黒板の番号をしっかり見たけど、結果は同じだった。
もう私のお隣さんいるし。男子だし。明らかに不良だし。金髪じゃなくてあ、赤ですか。いいセンスっすね。
仕方がない。現実を受け入れよう。
黒板を向いていた私は、振り返って自分の席へ行こうと足を動かした。その時に視界に入ったのは、顔を机に伏せている赤髪くん。隠れていない右耳には髪とは正反対の青いピアスがついている。
隣は男子だった。もしかしたら隣の子と友達になれるかな、なんて朝は思っていたけどそれは無理そうだ。
「むりだよね」
心の声をため息とともに小さく呟いた。
この私にあの赤髪くんとCommunicationをとれと?
一般生徒の私が?
顔伏せてわかんないけど、絶対いかついかチャラいよね。いくら不良でも赤髪って!
きや、覚悟はしてたし、私そんなに不良を嫌いとかはないよ?じゃないきゃこんなとこ意地でもこないから。
でもさ?
神様ハードル下げてよ。
席について隣りの赤髪くんをちらりと盗み見る。タイミング悪く、赤髪くんはもぞもぞと体を動かして何やら寝言を言っていた。そして、小さいながらも聞こえたのは。
「ちっ……」
寝言で舌打ちしたぁぁぁぁ!
むりむりむりむりむり。生理的にむりぃ!
起きてはいないようだけど、起きた時にどう接すればいいのだろう。
そんな不安バリバリなお隣さんの対処法を考えていると、廊下から足音が聴こえた。初日ということもあって静かな教室に、緊張が走る。きっと、新しい先生が来たのだろう。皆が自然と合わせてクラスの閉じられた前の扉を見る。これから1年間関わる相手だ。とても重要だよね。
ガラララッ!
「全員揃ったかぁ。そこ、席つけ席」
突然開いた教室のドアに思わず視線を向ける。どこかけだるげで、だけど少しの殺気のようなものを含んだ声に、ざわついた教室は一気に静寂が支配した。その人物をゆっくりと見る。
教室に、しばしの沈黙。そして。
『きゃぁぁぁぁぁあ!!』
「うぉ、まじかよ!」
「俊二さんのクラスかよやべぇ!」
「つーかかっけーー!」
女子の悲鳴あーーんど、男子達のざわつきでクラスはあっという間に大盛り上がりだ。その注目の的の本人はうるさいと言わんばかりに耳を塞ぎ、教卓へと移動する。どうやらこの男が1年間お世話になる担任らしい。
こんな有名人のような人が担任なのか。まぁ、わかるよ。容姿は格好良いと思う。でもね、絶対疲れる気がするよこのクラス。何故こんなにも運がないのだろう。このお隣の不良のことといい、先が見えないよ花。
そう思って視線をずらすと私の席から微妙に見える花の後ろ姿は、あきれを通り越してどこかへ行ってしまっている。なんか悟りが見えそうだ。
「うるせぇぞ!耳壊れるだろーが。てめぇら黙って席つけ」
そうそう、先生注意してくれ。じゃないと花が本当にどこか行っちゃう。別人になっちゃうから。
人気者の先生は耳を片方の手の指で塞いで、シッシ、とまるで犬に向けるかのように興奮する生徒達を追い払っていた。扱いが雑すぎだと思うのは、きっと私だけじゃないだろう。ま、過去してきたことがアレだしなぁ。
このクラスに馴染める気がしなく、騒いでいるクラスの子たちを見ながら、私は深いため息をついた。
「やってけるのか私……」
もう誰が誰だか設定ぐちゃぐちゃになってきたような笑