入学式(後編)
1話でおわるはずったのですが、思った以上に長くなってしまった。
主にあの男のせいで笑
「新入生代表、秋乃蘭」
そんなセリフを聞くのもやっとなくらい、私は今大変な状況なのである。
篠村美希、ただいま睡魔に襲われています。
舐めてたよ。2時間くらい余裕とか思っちゃってたよ。過去の自分もうちょい早く寝ておいてよ。もう国家斉唱の時点で怪しかったよ。呼名とかもみんな返事しないし、先生もそれが当然という感じだったからつまんないし。名前というお経を永遠と唱えられていたようなものだった。まじで、300人くらいの名前を聞き続ける修行。あれは辛かった。
そして私は思った。
これもしかして普通の学校より退屈じゃないか。
「はい」
なんてことを寝ないように悶々と考えていたら、かろうじて聞こえる感じで返事がした。
何故そんなに聞こえないのかと言うと、みんなおしゃべりしているからです。決して耳が老化している訳では無いです。
らん……って言ってたっけ。一応県立志望だった私より成績いいってことは、本当に凄いんだな。女の子かな。何でここ入ったんだろ。私と同じくこの学校を甘く見てたとかかな。可哀想に。
その時は気にはなったけど、違うクラスの子だし別にいいかな、なんて思っていた。他クラスだし、絡むこともないから。それと、別に私は成績にこだわりはないし、むしろ上位だと目立つからあまり狙ってはいない。だから、その場で秋乃蘭が立った時も、私は特に気にすることもなかったのだが。
「え、ちょっと!?」
「あの人が学年主席?」
途端、体育館内がざわついた。主に、女子によって。
「な、なに」
なんでこんな騒いでんの。
おもわず肩をびくつかせつつ、その矛先の人物に目を向ける。そんな見る気無かったけど、これほど騒がれるって、何かあるのかな。
私と同じく興味がなさそうにしていた人たちもそれに目を向け、中には人目で確認しようと身を乗り出す人もいた。
みんなの視線の先には、名前を呼ばれ堂々と壇上にあがる、生徒。
「男子なんだ」
今どき、名前だけでは性別の判断は難しい。さっきは声も聞こえ無くて女子かと思ったけど。彼は歴とした男子だった。品の良さそうな歩き方に、人柄の良さそうな顔つき。爽やか系?けど、何方かと言えば、男っぽくないというか。スタイルがいいし、表情も柔らかい感じ。
「王子」
誰かが不意に言った言葉に、納得せざるおえなかった。
なまえ、何だっけ。あぁ、アキノくんだ。
アキノランくん。
アキ、ノ、ラン、くん。
秋、野?いや、之?もしや、乃か。
らんは……。らん、ラン、藍、RUN、蘭ーーーーーー
秋、の、らん。
秋の、乱?
ぶぉぉぉぉぉぉぉん。(ホラ貝の音)
『突撃ぃぃぃい!!!』
私の脳内で、よく分からない戦が開戦しました。
あ、やばいどうしよう。これ発明したかも。こんな名前ないのは知ってるよ。わかるけど、浮かんじゃったものはどう使用もないよね。
いや、これはまずいっ!
「……。っっ」
ツボったかも。
「ぷっ!あは、はははっ!へ、変換みす、やっば……!あははっ」
む、無理!堪えられるわけないっ。私のツボの浅さ舐めないでよね。
水たまり並だよ!
「?なんだこいつ……」
「急に笑い出したね」
もちろん、周囲で気味悪がられていたことには気づかない。耳に入らない。私はいま戦国で戦う一武将何ですからね。そんなものに構っていはいられないんですよ。
まぁ、ギャル女子の歓声がちょっとうるさいのもあるけど。
それにほら、止まらない妄想によってお腹痛いし。
いやはや、この退屈な式でまさかの大発見。やるねアキノくん。後で名前の漢字確認しておくね。
「……さて」
少し精神状態が安定し始めたので、改めて舞台の上に立つ秋乃蘭くんに目を向ける。初めて見た時も思ったけど、なんかこの人、お兄ちゃんたちのパターンぽいよね。いわゆる、この学校の様付される人みたいな感じ?
あれだ。要するに、女子が騒がないはずがない。
「めっちゃカッコイイ!!」
「きゃーーー!あの子何組!?」
「あの子もKの関係者かなっ」
彼が前に出た途端、空気が変わった。女子は目を輝かせて騒ぎ出した。かったるそうにしていた生徒達が前を向き、その人物に視線が集中している。それは男子生徒も例外ではないことに少し驚いた。男子は女子と違って、敵視、という感じがするけど。
てか後ろの女子たち。さっき話してた声と違うんですけど!どっからそんなに甘いキャンキャン声でるの。
「顔がいいのはわかるけど、さ」
なんだろうこの感じ。品定め、みたいな。
まだ1時間くらいしかここに来てたってないけど、見た目とか、立場とか。この学校は極端にそういうのが見た目で表れている気がする。みんなそれを求めて必死、みたいな。
そう言えば、前に陽兄に学校での上下関係について聞いたとき、言っていたっけ。
「オーラが違う、か」
誰にも聞こえない声で呟いて、改めて彼を見上げる。
確かに、彼は周りとは違う。
それがわかってしまうのは、何も私だけではないということかな。だからきっとこんなに注目を浴びる。彼が代表として前に立つことも、もしかすると必然のことなのかもしれない。
男子たちの目は、このよく分からない『オーラ』とやらに無意識に惹かれてしまった結果なのかもしれない。
「麗らかな春の日差しを浴びて、僕達328名はこの与座宮高等学校の生徒として……」
淡々とした調子で、詰まることなく式辞をよんでいく。その姿も、このボロボロの学校には正直不釣り合いと感じてしまう。
でもなぁ。なんだろうこのざわついた感じ。私もしかしたら、あの人苦手かも。
あの笑顔、分からないけど腹立つなぁ。良くない意味でね。たしかに容姿は整っているけど、変な感じ。まぁ、気のせいだとは思うけど。
「ていうか、眠い」
式辞を聞いていると、いい感じに子守唄のように聞こえてくる。そもそも私はイケメン、とかいう分類にあまり興味が無い。
どちらかと言えば、B専、というやつだね。あと、割と美人に弱いかも。
かわいい女の子はwelcome!
……。だれかツッコミしてくれたら嬉しいなぁ。
ゴホんっ!んんっ!そんなことはさておき。
なんて言ったって兄があの容姿だ。アレを超える人なんてそうそう出会うものではない。むしろ、簡単に出会ってしまったら世の中を疑うよ私は。
それに、今私の傍に花はいない。
受付が終わったらさっさと自分の席を確認していなくなってしまったのだ。相変わらずのクールさ。ほんとに自分を貫くから、私はそんなところが大好きだ。
他人をしっかり見てくれるところとかも。
そんなこんなで、今私が起きているのが奇跡であるほど退屈なのだ。この後のラスボス、校長の話もあると言うのに。どうせなら校長禿げててくれないかな。禿げてたらそのツルツルで20分くらいは精神が持つかもしれない。それか、カツラとか。
ま、どうでもいいや。
私は私が眠い時に寝る。それに変わりはないもんね。
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「うゎ……こいつホントに女子かよ。周り男子なのに普通に寝てるぞ」
「さっき変に笑い出した子?警戒心ないねー。んー、でもレベル高くね?」
「たしかに?……おぃ、こいつ遂に寝言いいだしたぞ」
「ていうか、入学式で寝るとか根性あるよね。目ぇ付けられるの怖ぇじゃん」
「それな。俺無理だわ。だってよ、噂だとアレだろ?この入学式」
「あぁ。たしか先輩が言ってたよなぁ。マジなのかなやっぱり」
「こいつ、案外、上のヤツにになったりしてな」
「ははっ。……悪いジョーダンだといいけど」
「まじで勘弁」
登場人物増やしすぎたかも知れませんな。
ちゃんと次は花火の出番あるからね!!