いつもの朝
拙い文を許してください(・_・、)
「もー、兄ちゃん!起こしてって言ったじゃん!」
シャッターを開けて見ると、なんと空には輝かしい太陽様がいらっしゃった。
でも、兄に昨日起こしてと頼んだし、そんなに焦る時間でもないと思ったのだが。
「いやだってお前、俺が部屋に入ったら起こるだろ」
「でもあと30分で家でないとなんだよ?入学式なのにどうすんのよ」
時計を見て唖然とした。まさかこんな大事な日に寝坊とは。髪型気合い入れようと思ったのに、これじゃあ化粧もろくにできない。なんてことだ。恨むべし兄。
「お前こそ、そろそろ自立しろよ……」
「むりだもん」
そう言いながら急いで髪を結ぶ。いつも通りのストレートのおかげで、寝癖は手ぐしでどうにか成るのが救いだ。
秒で支度を終えてリビングに行くと、既にできた兄作の目玉焼きとトーストがある。
「今日午前で帰る」
初日となる今日、新入生は入学式とクラス編成以外に特に用事はない。だから午前帰宅だ。そのことを伝え忘れていたのでトーストを頬張りながら伝える。兄は私を見て落ち着けと言わんばかりの視線を投げつけるが、無視だ。急ぎなんだから許してよね。すると、少し悩んだお馴染みの仕草をしたあと、兄は口を開く。
「俺は友達と少しやることがあるから、いつも通りかな」
「また遅いの?」
「まぁな」
あ、この表情。
「友達ってさ、あの目立つ人達でしょ」
この顔は、それしかない。
「えっ、なに。よくわかったな」
「だってその困り顔。お兄ちゃんの世話焼き顔。私にする顔とそっくりだもん」
「こんな顔」と言って兄の困り顔の真似をすると、兄にも自覚はあったようで、否定せずに苦情が返ってきた。そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべこちらを覗き込むように見てくる。
「自覚してんのか」
やばい自爆した。あにが少しまゆをぴくりと動かすのを、私は見逃さない。どうにかして話題を変えないと面倒なことになる。朝からそんなこと嫌だ。
「そ、それより、その用事ってそんなに大事なもの?」
どうやら苦しい誤魔化しは通じたようで内心ほっとする。こういうとこが妹のずるさだなぁ、と目玉焼きを一口サイズにしながら感心する。でも使えるものは使っておかないとね。妹権限は便利ですな。
お兄ちゃんは行儀よく箸を置いてコップに手を当てながら少し考えていた。お兄ちゃんとそのお友達の事をあまり話したがらないのは前からだから、もう気にしないけど。
「んー、そこそこかな」
そこそこの用事ってなんだ。もっと別にあるでしょ。それ私以外の人なら絶対疑うからね。
というか、そんなそこそこに私は負けたのか。どうせなら入学祝いで夜ご飯一緒が良かったのに。そこそこにのせいで1人なのか。
流石にこのがっかり顔は見せられないので違和感なく下を向くが、こらえきれずに下唇をかんだ。
もう高いお弁当でも頼もうかと思っていた時、「美希」と鈍感お兄さんが私に声をかけた。
「なに、ばかにぃ」
ブラコンですよ。えぇ、知ってますもん。八つ当たりしても仕方ないけど、ムカつくものはムカつくんですぅ。
「ひどいなぁ。……わかったよ。入学祝いもあるし、早めに帰るな」
そんな私の態度に呆れつつも、兄は先程の予定をいともあっさりキャンセルした。
私もブラコンは否定しないが、兄の陽介も負けず劣らずのシスコン。だからこの返しも半分は予想していたりする。明らかに今の私拗ねてるもんね。態度でバレバレだよねあは。
この間の卒業祝いだって、結局早めに抜けて来てくれたし。私の兄はとても優しいのだ。
「うん、ありがとう」
私は兄に笑顔をこぼした。兄も、そんな私を見て嬉しそうに微笑む。
母親は病気で他界し、父親は海外赴任でいない。さらにここは駅から遠いバス停すらない過疎地。近所は畑だ。だから自然と兄弟中はいい方になった。もちろん近所の農家さんたちとも親しくしてもらっている。
「そういや、花火ちゃんも同じだっけか」
「あれ、花のこと知ってたっけ」
ポツリと言う兄の言葉にお茶を飲みながら以外だと内心思う。
そんなに関わりないと思ってたんだけど。もしかして花火に興味あったりしてたのかな。
「よく家に来てたメガネの子だろ?美希と仲がいい」
兄はお皿を片付けながら思い出すよに首をかしげている。
あ、そっか。確かに何度か家に呼んだっけ。その時に見かけたのかな。兄がいない時に連れてきたはずなのに。
もしかして空気を読んでくれたとか?うわ、なにそれなんかムカつくんだけど。
「そーその子、同じだよ。頭いいのに楽したいんだって」
「ははっ、真面目そうなのにそういうとこお前と似てるな」
「え?どこが」
「ずる賢い所」
あぁ、納得した。そこは私も思うもん。だから気が合うし、一緒にいて私も楽なんだよね。
さて。
朝食も食べて、少し余裕もできたので化粧もしっかりする。ナチュラルメイクがいいとお兄ちゃんに言われたのでそれに従って薄くだけど。個人的にもベタベタなのは好きじゃないし。
「行ってくるね」
新しい茶色のローファーに足を入れて、振り向く。それに合わせて、結んだポニーテールもふわりと揺れていた。
「おう、馴染めるといいな」
私のこの性格だと、大丈夫だとは思うけど、初日の知らない人に囲まれる感覚は少し怖い。女子なんて特に、第一印象で今後のクラスポジションが確立されるようなものだ。
「んー、ちょい緊張する」
そう言いながらドアを開けて外に出る。背中からクスクス笑う声が聞こえる気もするが、困っている余裕はないのだ。
「がんばれよー」
感情入ってない言葉にイラッとした。
兄とは登校時間はずらす。これは常識。仲良しと言っても、今どき一緒に登校するなんてありえないし、恥ずかしい。それに、私は去年の文化祭で兄がどれだけ目立つ存在なのかを知っているのも理由の一つ。今日のそこそこの用事とやらもその目立つ集団に関係することだろう。
「今日はあんまり風なくていいな」
自転車に乗って駅まで少し急ぐ。風の抵抗も春の穏やかな感じがあって心地いい。あいにく桜は散りかけているが、そういう景色が見れるのは自然の多い田舎の特権だ。駅から家から自転車だとだいたい15分くらいで着く。その間にかける音楽は最近流行りのバンド、『Extend Sky』通称エスカ。女性バンドで、ボーカルの雲が作詞作曲をしている。疾走感があって、何より私の感情と時々合うことがあるから、やめられない。
エスカの曲を口ずさみながら自転車をこいでいるとあっという間に駅についた。ボーとしてたから気づかなかったよ。
「おはよう」
自転車を止めていると、綺麗なソプラノの声が耳を通り抜ける。振り向かなくても、その特徴的な声で誰だかわかった。
「花」
天野花火。私が花、と呼んでいる彼女は中学時代からの親友。そして、勉強をサボるために私と同じ高校に入った曲者。そんな花は、もと音楽部だからか才能からか、声が透明感があって私の耳に馴染む。この声は私のお気に入り。
「おは。花メガネ変えたの?」
確か中学の頃は黒縁だったはず。それに、前髪も分け目を作って大人っぽさが増している。なんというか、色気がでてるんだけど!
「気づいた?赤にしてみたの。入学祝いで買ってもらったんだ。ほら、私推薦すっ飛ばしてこの高校に来たし」
「あー、かなり荒れてたよね。あの頃」
「でも最後は私の気持ち優先してくれて、結局親バカなのよね」
出ました。これが兄が言ってた私と似てる部分。
「相変わらずの腹黒さ」
「別にこれは計算じゃないから。素直な感想」
電車の乗り換えで降りた花について、私も人に飲まれないように降りる。この駅は乗り換えとかで多く人が降りるし、線もゴチャついてるから慣れるまで大変なのだ。
「そういえば、お兄ちゃんが花のこと知ってたよ」
「えっっ!?それホント?」
「うん。家に来たメガネの子って。花が同じ高校てことも知ってた」
まぁ、あまり興味は無さそうで、認識としては妹の友だちという感じだったけど、そこは良心に従い心に留めておく。
「まじか」
少しだけ、花の頬が朱に染まったようだった。
実は真面目に見えて花はイケメン好き。中学時代から私の兄にひとめぼれだ。この時ばかりは、少し驚いたけど、親友の可愛い姿を見て応援しないわけがない。まぁ、あの兄とはまだちゃんとした面識はないけど、それも私を利用しないから、余計に嬉しい。
「なんか元気でたわ」
表情はいつもの花に戻ってたけど、テンションは少し上がったかな。あんまり花は顔に出さないけど、やっぱり緊張してたんだろう。
「それはよかった。私はこれからの学校に緊張だよ」
「へぇ意外」
「それ偏見。失礼だよ。あぁー、花と同じクラスだといいけど」
そうしたら少しは学校生活安心できるんだよなぁ。だけど、そんな私の気持ちを無視して花は綺麗な声で呟いた。
「まぁ、可能性は低いと思うよ」
ですよね。知ってるよ。なんてったって同中だもんね。それに私たち以外にこの高校受けた人あの中学で聞いたことないし。まぁ、ほとんどエスカレーターで高校だもんね。当たり前か。
「ほら着いたよ。いつもの美希のノリはどうしたの」
ばしぃぃぃっ!!!
い、痛いよ花。この音でわかるよね。これまじでやばい、涙がっ……。
若干ヨタヨタしながらホームに降りる。気合入れて押してくれるのはいいんだけどこれ紅葉にならないよね。
「うぇっ。やりますよぉーだ!行くぜ相棒!」
「それはそれでうざい」
じゃあどうしろと言うのです花火様。