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避難所は学校でした。
私は持ち運び用の物資と傘を抱え、完全な防寒スタイルですぐさまそこへ向かいましたが、途中で道を間違えてしまったらしく引き返す羽目になりました。
と、そこで歩道に立つ自販機の異常に気付きました。
お茶です。お茶がすべて売り切れています。それに水も。
変だなと思った私は住宅街の駐車場などに隠れている自販機を当たり、水とお茶とスポーツドリンクを確保しました。
その辺りでようやく気づきました。買い占めが始まっているのです。
私が幸運にも水とお茶を確保できた自販機には「釣銭切れ」のランプが点灯していました。どうやらお札でボトルを買い込む方が多かったらしく、結果として幾つかの自販機が売り切れを免れていたようなのです。
私は小銭を溜め込む癖があるのですが、それが功を奏した形でした。
ボトルを山ほど抱えて部屋へ戻った私は朝向かったコンビニのことを思い出し、そちらへ引き返しました。
店内の棚は空っぽでした。
残っているのは調味料と洗顔料ぐらいで、お菓子はもちろん、アイスや冷凍食品、レトルトの惣菜まで綺麗に無くなっています。もはや食糧を買い足すことは不可能です。今あるものだけでやりくりしていくしかありません。
たった数時間でここまで変わるのか、と驚く反面、もっと買っておけば良かった、という悔しさも感じました。
ですが私は成人男性です。心身に不自由はありませんし、家庭を持たず、親族も遠方に居ます。私が物資を買い込まなかったことで腹を空かせずに済んだ子供や高齢者が居る、と思えばそれ以上の欲は湧きませんでした。
それに一つだけ、私は幸運を拾っていました。
シリアルです。手元に牛乳が無かったので「買わなければ良かった」と思い始めていたシリアルですが、自販機を巡る内にカフェオレが大量に余っていることに気づきました。
自販機から消えていくのは決まって水とお茶、それにスポーツ飲料ばかりで、カフェオレや紅茶といった甘い飲み物とカフェインの入ったコーヒーはほぼ手つかずのようでした。
私はカフェオレを大量にかき集め、当座の主食を確保することができました。
再び部屋に戻った私は今度こそ本腰を入れて避難への移動を考えました。
既に昼を回り、雲行きは怪しくなっています。
雨は体力の消耗を招きます。雨が降り出す前に学校へ向かわなければなりませんでした。
荷物をチェックしていた私は、ふと、目覚めた時に握っていた黒いパーツの正体に気づきました。
あれはどうやら天井から吊るした電灯のパーツのようでした。
中央に割れ目が入っていたので、ぱかっと二つに割れたそれが布団の傍に落下し、私の手を打ったのでしょう。
今もそのパーツは私の手元に残っています。取りつけたいのは山々なのですが、椅子に乗るのが恐ろしいのです。
ともかく、スマホが十分に充電できたところで私は学校へ向けて出発することにしました。
ちょうどその辺りで活動報告を書いた記憶があります。
さすがに小説を書いている場合ではありませんでした。
ニュースは既に土砂崩れや地滑りへの注意を促すものへ変わっていました。
被災状況を伝えることも重要ですが、二度の地震で地盤の緩んだ土地に豪雨が降ればどうなるか、その恐怖を伝えることの方が緊急性が高かったからでしょう。




