R8 屋上秘密会議
『本日の屋上は貸し切りのため、入場できません。明日のご利用をお待ちしております。』
屋上係はホクホク顔で、屋上の入り口に張り紙を貼った。まんまと買収されたのだ。
相手は生徒会及び一部教職員。権力者が金を持ってくるなら黙って受け取るのが礼儀である。
「今年の体育祭と文化祭について、皆と意見を交換したい」
生徒会長が口火を切った。
「あの、何か問題でもあるんですか?」
1年の会計はひたすら怯えている。
「……君は去年の文化祭を知らないのか?」
1年の書記が軽蔑しきった目で会計を見た。
「ラスベガスでやったと聞いたけど…」
「そうだ。21歳未満立ち入り禁止区域で文化祭をやって、大使館職員が血相を変えて中止を叫んだのを見て、僕はこの高校に入ると決めたんだ。1年生の大半は、あの場で文化祭を楽しんだ連中だぞ」
「どうりで同級生の面子がおかしいと思ったよ」
「まあちょっとやりすぎましたけど、楽しかったですよね」
2年の副会長が微笑んだ。副会長にかかれば、連日の校長室自然発火現象も10分アニメを見るが如くクッキーと紅茶を片手に楽しく鑑賞できるのだ。
「ベガスはね、正直生徒よりも保護者と我々教師連中が楽しんだからねえ」
生徒会顧問の数学教師も苦笑している。
「でも今年はベガスは無理なんだっけ?」
「ええ、外務省から正式に渡航禁止が出ました」
「大使館の人も外務省の人も、すごい剣幕でしたもんねえ。当時の生徒会長をひたすら張り手してて、ふふっ、あまりにも見事な張り手だったので、動画に撮って皆と共有していたら、何故か外務大臣が更迭されてましたっけ」
あれは楽しかったですね、とまた副会長は微笑む。副会長はなんでも楽しむ人なのだ。
「じゃあマカオで良いのでは」
「そうですね、マカオなら融通が利きそうです」
異議なし、の言葉によって今年の文化祭はマカオで開催されることとなった。
「では次は体育祭について」
「あの、去年は何を」
1年の会計は若干青ざめている。
「村の焼き討ちをしたよね」
「なんの侵略ですか」
多数決で焼き討ちが圧倒的だったんだよ、と数学教師は優しく諭した。これが民主主義だよ、と。
「田吾作さんが手強かったですよねえ、鍬を構えた姿は敵ながら天晴でした」
「大丈夫だったんですか、補償とか」
1年の書記は瞳を輝かせている。
「補償というのは補償する者がいなければ成り立ちませんよ」
副会長も優しく1年を諭した。安心なさい、村民たちはすでに我が校の配下です、と。
「でも今年は無理なんでしたっけ」
「ええ、村という村が同盟を結び、田吾作流鍬術を極めてしまって」
それは攻め落とされそうだなあ、と数学教師はうめいた。
「あの、普通に校内で体育祭するのは無理なのでしょうか」
1年の会計は泣き出した。高校選びに失敗したことをついに認めたのだ。
「昔は校内でやってたんだけどね、ほら、体育祭ってどうしてもみんな熱中しちゃうでしょ?最終的に地獄の門が開いて、亡者を追い返したり、引き込まれそうになった生徒を取り戻したりの、陰陽大戦争みたいになってさあ」
数学教師はうんざり、というように白目をむいて、日本中の塩が一時的に流通ストップしたの覚えてない?あれうちの高校のせいだよ、と言った。
「いや、待ってください。逆に最初から地獄でやれば良いんじゃないですか?地獄スタートで学校がゴール。亡者が勝手に障害物となってくれますし、武器などは去年のを使いまわせますよね。体育祭の予算が抑えられれば文化祭へ回せますし、どうでしょうか」
1年の会計は立ち直りがはやかった。電卓を片手に概算を出し、生徒会の面々も満場一致で地獄行きを決定した。
「やるじゃん!」
1年の書記は会計の肩をたたき、今度1年で販売している小麦粉っぽい薬の価格を一緒に決めないか、などと勧誘をしている。
「今日はみんなのおかげで有意義な会議をすることができた。では来週からはその方向で関係者を脅していこう。では解散」
屋上係は、またのご利用をお待ちしてます、とにこにこ笑った。
「新校舎の踊り場にある銅像、あれが田吾作さんですよ」
「新月の夜にだけ人間に戻るんだ」
「それ今のうちに破壊した方が良いですよ」




