R6 屋上昼休み
昼休みの屋上は、弁当組が大挙して押し寄せる。
屋上係は軽くつまめるお菓子や飲み物を、屋上の隅っこで販売している。
「この間さー、町内会の抽選で旅行当てたんだー」
「えっすごいじゃん!どこよどこよ」
「異世界」
「えっ」
「異世界1年間の旅」
「長くね?」
「長いけどあっという間っていうかー、行ってきたんだけどー」
「ん?1年前の話なの?」
「先週先週。家族で神隠しに挑戦つって異世界行って、1年経ったから戻ってきたら1日しか経ってないの」
「異世界っぽーい」
「でしょー、でね、これお土産ー」
「ありがとー、えー、なんかめっちゃキレイな石ー。ていうか中のキラキラ動いてるっぽいよ」
「世界の核?とか言ってたー。これ壊すと異世界消滅するんだってー」
「深刻」
「うん。怖くて持ってられない」
「おまえ」
「ごめん」
「もー!じゃー神様気分で毎日石に『我を崇めよー』とかやるわー」
「それ私もやったら、めっちゃ神様っぽいのがいっぱい家に来て、めっちゃ嫌味言ってきたよ」
「神様心せまっ」
女子生徒たちがケタケタ笑う中、突如雷鳴が響き空が割れて真っ黒な影が屋上を覆った。
『その核をよこせ』
『人間風情が』
『寄越さぬのならば、一人ひとりなぶり裂くまでよ』
「あ、あれ異世界でママが殴り倒した黒いやつら!」
「おばさん何してんの異世界で」
「うちのママ、魔法おばちゃんっつーニッチ産業のひとでー、異世界で変身したらなんかこう、ビックボインになって、アタックー、ぎゃあああ、世界は救われたー、女神さまーみたいな」
「まさかの救世主」
「もうねー、異世界初日で救世主わっしょいだから、大変だった」
「よく帰ってこれたね」
「弟は残ったよ」
「残ったの!?え、大丈夫なの!?なんで残った!!?まだ中学生でしょ!?」
「なんかー、聖剣が呼んでるとか言ってたー」
「おー救世主の息子ー」
「ねー。ただあいつ最終学歴が小卒ってヤバイよねー」
「えーじゃあこの核に願ってみちゃう?えーと『ごはんの時間よー!』」
影が覆った屋上に、突如光が差した。その光の中から飛びだしたのは、自分の背程ある大剣を掲げる少年がひとり。
「やっと見つけたぞ、影魔導士!」
「あ、弟だ」
「まじかー」
授業開始の予鈴が鳴り響いたので、生徒たちは慌てて屋上から立ち去った。
「昼休み明けの現国はキツイわー」
屋上係は売店の閉店準備をしながら、黒い影と少年から屋上入場料を取り立てた。
「弟くん呼べるって分かったし返すねー」
「いやいや、姉としてね、あいつの結論を支持したい」
「おまえ」
「ごめん」




