R5 屋上保育園
T高校の校長には隠し子がいる。
全校生徒と近隣住民が知っている公然の秘密だ。なぜなら隠し子を高校に連れてくるからだ。
「あたしさあ、おかしいと思うわけ。せめて保育園よね?あたし4歳なんだけど」
隠し子はヤクルト片手に管を巻く。
「子供も大変だよね」
ガチさんは適当に相槌をうつ。
「高校でなにすればいいわけ?『えーん、パパがお仕事でかまってくれないよー』とか泣けばいいの?」
はあーっと大仰にため息をつく隠し子に、屋上係はお煎餅を差し出す。
ガチさんはそうだなあ、と考えながら言った。
「何をしても良いんだよ。そう、例えば今2年生が体育の授業を受けているね。みんな更衣室で着替えるから、今更衣室へ行けば女子生徒の制服が手に入るよ。それを校長室に置けば」
「タイムリーすぎるわそのネタ」
「じゃあ今すぐ男子生徒の後ろに回りこんで転んだ振りしてパンツごとジャージ下ろしてきて」
「本能か」
隠し子は、屋上の柵をつかんであーあー言いながら体を揺らした。
「ひまだよーひまだよー!保育園に行ってみたいよお!」
「なるほど、つまり同年代の子供と愚にもつかないお遊戯などに洒落込みたい、と」
屋上係は納得した。そして校長にいくらまで出せるか聞いておいで、と隠し子を取り立てに向かわせた。
「出し渋るから股間に頭突きしてやったわ」
隠し子は札束を屋上係に渡した。屋上係は笑いながら頷いた。
「これだけあれば大丈夫でしょう。明日を楽しみにしてください」
翌日、隠し子は逸る気持ちを抑えきれず、屋上まで駆け上った。
「みんな!おはよー!」
「おはよう」
「やっほー」
「ういーっす」
おはよう、おはようと囀る大量の子供たちをしり目に、隠し子は屋上係にしがみ付いた。
「ちがう、ちがうわ。そうじゃないわ」
「おや、違いますか」
「そこはお金を掴ませて職員の子供連れてくるとか、生徒の弟妹を連れてくるとかじゃないの!?」
「君はまだ子供だから分からないだろうね。複数の人間にお金を掴ませると必ず歪みが出るんだよ。特にこういうことにはね。だから一人だけに大量のお金を渡したほうが効率が良いんだ」
「だからってなんで全員わたしと同じ顔してるの?人間なの!?」
「違う細胞を用意するにはお金が足りなくてね。でも生物学的には人間だよ」
「なんで生物学を出すのよ!ていうか人間ならまずいじゃない!わかるわよ!いくら4歳児と言えど生存本能がアラーム鳴らして訴えてるもん!こんな、こんな確実に私のクローン人間っぽいのが大量にいたら、どれかが私に取って代わって生活をするんでしょう!?そして本物の私は人体実験をされるか、精肉工場みたいなところで処分されるんだわ!!」
さいあくだー、と泣きながら隠し子は屋上から出て行った。
「きみ、子供嫌いでしょ」
「ガチさんよりは好きですよ」
「それでこの子供たちどうするの」
「そろそろバイヤーが引き取りに来ます」




