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R3 屋上修羅場

 パンッと小気味良い音が屋上に鳴り響く。


 「あんたこれで何人目よ!ふざけるのも大概になさいよ!」


 「待ってくれ、これには訳が」


 1年で有名な幼馴染カップルが屋上でもめている様を、屋上係と数学教師が観戦していた。


 「あいつらはなあ、近所でも有名な幼馴染でさあ、やっぱりさ、希少価値があるじゃん。幼馴染って。だから町内会総出で見守っててさあ、じいちゃんばあちゃん連中も結婚式を見るまで死ねないっつーね、希望の象徴なのよ」


 「お詳しいですね」


 お煎餅を口に入れながら屋上係は笑う。数学教師はへなへな笑いながら自分を指し、近所のお兄ちゃんなのよとため息をついた。

 町内会は幼馴染カップルが別れることを決して許さない。しかし高校に入って少し世界が広がった彼らには、その広がった分だけ距離ができたようだ。


 「何よ訳って!どうせまた空から降ってきた女の子に協力したら超古代遺跡で空飛んで大隊壊滅させたとか、お風呂に入ったと思ったら知らない女の子のお風呂と繋がってて妖怪と一緒にダンスバトルとか、肝試しに行った森の中で白く輝く狐にあったと思ったら女の子に変身してそれからはじまる魔法大決戦だとか、急に背後から蹴とばされたと思ったら高飛車な女の子がパンツ丸見えで決めポーズとってて実は魔王さまでしたとか!」


 「落ち着いてくれ」


 なんでも、町内会は異世界と秘密裏に癒着していて、地球にはない力や技術でお金を儲けて左団扇なのだそうだ。その資金は国家をも揺るがし、地下に軍事施設もある。ちょっとした独立国家だ。


 「はあ!?あんたがどこでどんな女の子と知り合いになるかは最早どうでも良いのよ!ただね!なんで女の子をこっちの世界に連れ帰って、私の家で養わなきゃいけないのよ!」


 「なんと」


 屋上係も意外な展開に驚きの声をあげる。


 「私の家がなんて呼ばれているか知ってる?大奥よ!?」


 町内会は考えた。異世界の技術を定期的に得るには何か一番スムーズか。婚姻である。そして白羽の矢が当たったのが幼馴染(男)だったと。反対意見も勿論あった。幼馴染カップルに必要なのは小さい一戸建てと雑種犬と二人の子供であり、ハーレムではないと。しかし町内会長は言ったのだ。ハーレムを築いた後、幼馴染(女)を手に入れてこその幼馴染だと。そして敗れ去った異世界の姫たちは町内会長が頂いちゃおうと。


 「信じてほしい。一番大切なのは君だ」


 「う、そ。うそだ…」


 幼馴染(女)は茫然と幼馴染(男)を見上げた。


 「今は町内会長の言う通りにしているけれど、僕たちは僕たちで力をつけている。いつか町内会長を倒し、君と二人でいる未来を手にしたいんだ」


 「信じて、いいの?」


 「信じられなくても良いよ。ただ、僕の心は君だけのものだ」


 屋上に歓声があがった。

いつの間にか屋上には生徒たちが集まって、二人に声援を送っているのだ。

 屋上係はオーディエンスから見物料を取るのに忙しく動き回り、幼馴染カップルは恥ずかしそうに笑い合っていた。


 数学教師は眩しそうに顔をしかめた。

「まあ町内会長側の人間なんで、レジスタンス活動は筒抜けなんだけどね」

「先生最低ですね」

「大人はみんな最低だよ」

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