R1 屋上デスゲーム
T高校ではデスゲームが大流行している。
ルールはこう。
1、屋上で硬球ボールを買う。
2、ボールに名前を書く。
3、屋上からグラウンドに向かってボールを投げる。
人へ当てずにボールが落ちたら勝ち。ボールに書いてある名前の人に、豪華賞品が贈られる。
人へ当たったら負け。ボールに書いてある名前の人に、ボールを当てられてた人が慰謝料を請求する。
豪華賞品を貰いたい人は、人のいない場所目がけてゆっくり遠投するし、慰謝料をぶんどりたい人はそれを狙ってスライディングする。
高校に入り、労働の対価として金銭を得ることを覚えた子供たちにとって、慰謝料は対価を伴わない魅惑の錬金術なのだ。怪我をしたとして、そこはそれ。若さと勢いでカバーする気満々だ。
故に、今ではグラウンドの総人口が当たり屋と化している。
と、なると結果は目に見えている。
「見事に校長の名前しか書かれない」
屋上係が感嘆する。明日からは事前に校長の名前を書いたボールを用意して、1割増で売ろう。
「どんだけ校長恨まれてんだよ」
ガチさんも思わずいつもよりフヨフヨしている。
「最初は理事長の名前書く人もいたけど、桁が違うんだって」
「校長も所詮、中間管理職かあ」
ガチさんは、やだねえ大人ってとまたフヨフヨした。
昼休みが終わり、今は屋上係と授業を受け持っていない国語教師とガチさんのみが屋上にいた。
「あー、君、さっきから誰と話しているの」
国語教師は恐る恐る屋上係に尋ねる。
「ガチさんです」
「誰もいないけど」
「幽霊なので」
「幽霊」
泉鏡花を信望している国語教師は瞳を輝かせた。
「君は幽霊が見えるのかい」
屋上係は胡散臭そうに国語教師を見た。見覚えのない顔をしている。そういえば体調を崩した教師の代わりに、代理教師が来ると聞いた気がする。
「ねえガチさん、代理教師ですよ。どうですか」
「どうって何が」
「ガチさんセンサーは反応しませんか」
ガチさんはうなりながら国語教師の周りをグルグルまわっている。
「ガチさんセンサーって何?というかガチさんって誰なの?」
なぜか急に悪寒が走り、国語教師は自分の体を抱きしめた。
「ガチさんはここの卒業生で、死後、体育棟に住み着いた幽霊ですよ。ガチさん、柔道部が好きなんです」
「でも今、屋上にいるんでしょう?」
国語教師は言い知れぬ不安を抱えた。柔道部、それは国語教師も学生時代熱中した部活だ。
「3年に寺の息子がいるんですけど、屋上に行けって追い立てたんです」
「そこは成仏させたりとか」
「ガチさん、ガチゲイなので。寺の息子がビビって学校中にスプレーでお経を書いたんですよ」
あの時は呪いの高校としてワイドショーが取材に来た。寺の息子は465個のスプレー缶と内申点を消費させて、やり切った笑顔でインタビューに応じていた。
国語教師は戦慄した。先ほどから尻に視線を感じていたのだ。
「一次審査は通過。二次審査に入りたいからズボンを脱いでほしい」
ガチさんセンサーの第二出力が始まるらしい。
「二次審査に入りたいのでズボンを脱いでください、ですって」
「ひえええ」
国語教師は股間と尻を手で押さえ、例え幽障によってズボンが切り裂かれたとしても我が手は我が身を守るであろう、と全身で主張した。
「そんな先生に朗報です。このお札を守りたい場所に貼れば、あら不思議。ガチさんの魔の手から逃れられます」
国語教師は目にも止まらぬ速さでお札を買い、体中に貼りつけた。そしてボールを1つ買い、校長の名前を書いてグラウンドへ投げた。わらわらと当たり屋がグラウンドへ集まり、ボールの進行方向へ駆ける。時には罵倒し、相手を蹴り飛ばしながら。
「人とは醜い虫だ」
国語教師は呟いた。
「それでこそ我が高校の教師です」
屋上係とガチさんはハイタッチした。
「ちなみにガチさんの死因はエイズです」
「ガチだね」




