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7新たな主治医

 




 ぼくはベッドの横に見知らぬ青年を見つけた。

「誰?」

 今までその位置に立つことがあったのはセオドーラだけだった。

 両親にはここ4年か5年会ってないと思う。

 時間感覚に自信のないぼくが思うのも何なのだろうが。

 彼は灰色の服を着ていた。そのまなざしは冷たい。

「だれ?」

 ぼくは少し恐怖を感じた。

 ……怖い……。

 灰色の服とは対照的な見事な赤毛が視界をよぎる。

 赤毛というより金褐色だ。瞳は服と同じ薄い灰色。ぼくは必死に彼の情報を集める。ぼくの脳にインプットされるのは嫌悪感の隠されない冷たい瞳とその外見情報だけ。

「君の主治医だ。不満があるならセオドーラに言うといい。君は私に会わずにすむ」

 彼はそれを望んでいるようだった。

「ぼくを診たくないのだったら診なくてもいいよ。先生」

 ぼくは提案してみる。今までだって先生は薬を調合してくれるだけだ。

 酷くならないかわりに良くもならない。そして薬は強いものへと変わっていく。それだけ。

 そりゃ、ヴィエの事とかがあるから今すぐには死にたくないけれど、……先は短くてもかまわない。

 そう思うと彼が怖くなくなった。

 彼の何を恐れなくてはならないというのだろうか?

 彼がぼくを殺す? ぼくは気にするのだろうか?気にしないだろう。

 それに彼がいきなりBBを壊そうとするなんて突拍子もない行動にはでないだろう。

 なにしろお医者様だ。

 そう、ぼくが怖いのはBBを取り上げられることだ。

 なぜそう思ったのだろう?

 変な夢を見たせいだろう。ぼくはそう納得すると彼を見上げた。

 彼は苦々しげな表情をしていた。

「このままなら君は薬に殺される。薬を止めれば病に殺される」

 彼はそう言ってぼくを見ていた。

「そぉ、それがわかっているから父さんや母さんは来てくれないんだね」

 母さん達がそう判断したのは理解できる。

 父さんはぼくが病気を持って生まれてきたことで母さんをなじり、罵倒した。

 母さんは黙っているような人じゃなかったらしい。父さんをなじり、罵倒し返したらしい。

 そして二人はぼくを守ろうとし始めた。

 数々の医者や薬。

 ぼくのためのこの屋敷の購入に改装。

 5年くらい前まではぼくとセオドーラと両親がこの館に住んでいた。

 母さんはぼくのベッドわきにいつも花を飾ってくれていたし、父さんは元気になったらできることの計画をぼくに話してくれていた。

 そう、毎日。

 でも、ぼくはそんなことどうでもよかった。興味がもてなかった。

 今はそのことを申し訳なく思っている。

 来てくれなくなって、はじめてそう思った。

 来てくれない理由がぼくの死に立ち会うのが嫌だからだとして何の不思議があるのだろう。

 両親はまだそんなに年じゃない。

 ぼく以外の子供も作れるだろう……死ぬしかない子供より健康に育てる子供が……。

「知らないのか?」

 彼は怪訝そうに呟いた。

 ぼくは彼を見上げた。

 瞬間的に凍結させた思考をもう一度解凍する。

 知らない?

 ぼくが何を?

 彼は信じられないものを見るようにぼくを見下ろした。

「君の両親は……」

 聞いてはいけない気がした。

 聞くべきではないことなのだと……。

「死んだ。もう3年になる」

 ぼくはその言葉を追い払おうとして必死に頭を振った。

「レギス! 君はリック様に何を言ったんだ!」

 セオドーラの怒声。

 彼は何か応えたようだがぼくの耳には届かない。

 ただ、しばらくして彼がセオドーラに言った言葉は聞こえた。

「……出て行け」

 疲れたような呆れたような声だった。

 セオドーラは出て行ったようだった。戸口での会話だったらしい。

「落ち着きなさい。ちゃんと説明するから……」

 うんざりした口調だった。

「君の両親は3年前に死んだ。多分セオドーラが黙っていたのは当時の主治医が君を興奮させてはいけないと口止めしたせいだろう。そして死ぬ前に君の父親は私を買った」

 彼のまなざしは変わらず冷たいが、その冷たさの中にくすぶるような何かがある。

 怒り……だろうか?

 それより買ったって?

 人って買えるものなのだろうか?

 物は買うものだということは知っているけど、人もそうなのだろうか?

 それとも……。

「先生は人じゃないの?」

 ぼくの問いへの応えは身も竦むほどのまなざしだった。

「リック・クレイン。私は人だ。人は買えるモノではない。道徳的には。ね」

 彼の言葉はどこか自嘲的だった。

 つまり、道徳的には許されざることをぼくの父さんはしたのだ。死の直前に。

「つまり、私は君の父親から君へと残された多大な遺産の中のひとつというわけだ」

 だから彼はぼくを嫌っている。父さんが彼を買ったからだ。ぼくのせいじゃない。

「先生が遺産?」

 ぼくが内容を飲み込むのを待つかのような時間。その沈黙を経て彼は口を開いた。

 聞くべきじゃない。

 それなのにぼくはその口元から目が離すことができないんだ。

「それに……私の心臓と皮膚は君の父親のものだ」

 ぼくは息が詰まった。心臓が止まるかと思った。

 父さんのしんぞうとひふ?

 彼は意地悪な笑みを浮かべていた。

「そしてこの瞳は君の母親から……」

 ぼくはもう何も聞きたくなかった。

 ぼくはただラモーナ達に会いたかった。

 夢に逃げたかった……。



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