3セオドーラ
リックはぼんやり目を開けた。
薄暗い部屋。慣れてしまった薬の匂い。
そこかしこに反射するブラック・ボックスの銀のきらめき。
「セオドーラ」
リックがそう呟くと部屋の空気がゆれた。
「起こしてしまいましたか?」
気遣いのこもる低い声が枕もとから聞こえた。
リックはゆっくりと体を起こし、首を横に振った。
「いることには気が付いてなかったよ。いつからいてくれていたの?」
「つい、先ほどです。お薬のお時間だと思いましたので」
セオドーラは落としていた明かりのいくつかを灯した。
淡い光がゆっくりと部屋に広がってゆく。
「夢を、夢をね、見ていたんだ」
セオドーラの不思議そうな視線を受けながらリックは笑った。
彼にこんなことを打ち明けることなんか今までしたことがないのだから不思議なのだろう。
自分でも不思議だと思う。
どうして今日まで打ち明けようと思わなかったのだろう? セオドーラはずっといてくれるのに。
「夢の中でぼくはティモシーという男だったよ。遺跡発掘を生業としていて、セルマってガールフレンドがいて、それで、ラモーナって言う病気の妹もいるんだ」
ティモシーは10代後半くらい……多分、ぼくと同じくらいだろう。
リックがそう思考しながらセオドーラを見ていると彼は少し眉をひそめて、リックを見つめていた。
「セオドーラ?」
「以前にお話したのかも知れませんね。ブラック・ボックス収集をティモシーという若者に頼んでいることを……。それでそのような夢をご覧になったのかもしれませんね」
リックは首をかしげ、やわらかく微笑むセオドーラを見た。
そんな話を聞いた覚えはない。
それでも彼の言葉を否定する気になれないリックは「そうかも」と呟くと彼の手から薬を受け取った。
口の中に広がる薬の味がリックを再び眠りの国へと誘ってゆく。
リックが眠りにつくとセオドーラは部屋の灯りを落とした。
「おやすみなさいまし、リック様」