15真実?
立ち並ぶ建物。
舗装された大通り。
走る車。
道路に出された傘のついたテーブルに向い、洒落たカップを弄ぶ白い帽子の少女。
風船をたくさんつけたワゴンを押す少年。
階段に腰掛けてタバコを吹かす青年。
犬の散歩をしている老婦人。
高い建物の窓から街の様子を見下ろしている青年。
……ここは街?
―――そして、あの建物がポイントのひとつ―――
ヴィエの指が指し示したのは青年が街を見下ろしていた窓のある建物。
―――彼はオルディ……あそこに定めを持つもの。彼はあの建物から出られないの。そして、それを理解しているわ。彼のところに行きましょう―――
青年はにこやかに窓から一歩離れた。
―――ごきげんよう―――
青年は少し、首をかしげ、その手を手元にある丸いBBに伸ばした。
「ごきげんよう。お嬢さん」
彼はそう言い、優しくぼくとヴィエに向い手を伸ばした。
ヴィエは小さく微笑み、ぼくをそっと押し出した。
「やぁ、キミは……何を、何を聞きたいのかな?」
ぼくは彼をじっと見つめた。
灰色の髪はふわふわと柔らかそう、ほっそりとした体を包んでいるのは灰色のスーツ。
『ぼくはなに?』
口を突いて出た言葉。
彼は表情を曇らせた。
「……ここを見たかい? この街を……」
ぼくはそっと頷いた。
彼はそれを確認するように頷いた。
「君の住んでいるところとは違っただろう?」
ぼくはただ頷いた。
聞いてはいたけれどここまで違う社会があるだなんて信じられなかった。
彼が少し微笑んだ。
「世界は狭いんだ」
ただ、その一言だけを彼は言った。
ぼくは分からなくて理解できなくて彼を見つめた。
彼はコップを幾つかテーブルの上に並べた。
そのうちのひとつを指して
「このカップがこの街。こっちのコップが君の住む世界」
近く寄り合ったカップのひとつを指して彼はそう言う。
「カップとカップの間には薄いけれど破れない壁が存在する。壁があるといっても、行き来は可能だよ。
ただし、それはとっても選ばれた存在だけになる。能力的に劣るものはこの壁を乗り越えられない」
ぼくは頷き、首を傾げた。
カップには空いてる部分がある。上だ。
そして、カップはぴったりとくつっき合ってる。繋がっている。
「繋がってる場所は見極める者でなければ見ることすら出来ない。だから選ばれた者。これはさだめられしものとは違う」
ぼくは頷いた。
彼は優しく微笑み言葉を続けた。
「さだめられしモノとはこのカップを維持するために必要な要素。そこが存在し続けるための絶対条件。キミという存在が不当に消えれば君の住む世界は崩れ去る」
『崩れ去る?』
彼はさびしげに笑った。
「そう、すべてのものが生まれることなく始まることすらなく、終わる」
彼は少し間を開けた。ぼくが理解するのを待つように。
「キミは世界を維持する絶対装置。BBはその補助存在。キミが病なのは君をそのポイントから動かさないため。自覚したまえ! それを望むのならば……キミはベッドに縛られている必要性はなくなる。この世界は新たに現実に生まれ出る為の空間……そして、魂を喰らうモノ達のための……放牧場だ!」
彼は興奮したようにコップをテーブルに叩きつけた。
ぼくはぼんやりとその言葉をかみしめた。
『放牧場?』
―――オルディ! なんという事を言うの!!―――
ヴィエが声をあげる。
彼は軽く手を上げた。
「申し訳ない。お嬢さん。少し感情的になったようで、確かに言葉を選ぶべきだったと思っている。キミもあまり気にしないで」
そして柔らかく微笑んだ。
ぼくの意識はもう彼をとどめてはいなかった。