第2章(2)
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普段は朝の陽ざしに起こされるのが日課になっているが、今日は俺のことを起こしたのは朝日ではなく、やかましい声と身体をゆすられる不快感だった。
「起きてください!いつまでも寝てたらダメ人間になっちゃいますよ!いい加減起きましょう!」
この段ボールハウスには鍵なんて言う現代的な防犯設備は取り付けられていないが、今まで誰かが中に侵入してくることなんてなかった。だが、どういうわけか、今の俺はこの段ボールハウスの中にいるはずなのに、少女の顔が目の間に迫っている。
寝起きでまだ視界がぼやけているが、誰がいるのかなんて考えるまでもない。昨日、友達の作り方の相談を持ち掛けてきた、俺と同じ記憶喪失の少女だ。
同類――そう呼んでも差し支えのない関係にある少女を相手に、ある種のシンパシーを感じてはいるが、朝起こしに来られるほど親しくなった覚えはない。
「とりあえずここから出ろ!」
全力で少女を家から追い出すと、自分もそれに続いて外に出る。そして、外に出て改めて少女の顔を見ると、少しだけ浮かない表情をしていることに気づく。
「で、わざわざ人の家にまで押しかけて何の用だ?」
その問いかけに少女はしばらく黙っていたが、やがてその小さな口を開き、つぶやくみたいにぽつりと言葉を漏らした。
「公民館、行ってみたけどダメでした……やっぱり、私じゃ友達なんてできないんですかね」
落ち込む少女を励ませるだけの気の利いた言葉なんて、人生経験の少ない俺は持ち合わせていない。できることといえば、昨日みたいに苦し紛れの言葉でごまかすことだけだった。
「なに一回ダメだったくらいで悲観してるんだよ。俺だって詳しいことは分からなけど、こういうのはきっと時間がかかるものなんだ。だから、根気強く続けていけばなんとなるさ」
我ながら適当なアドバイスだとは思いつつも、それでも少女は目から鱗だと言いだしそうな表情で俺のことを見上げている。
「ありがとうございます!私の考えが甘かったです……またもう一回頑張ってみますね!」
落ち込んだ表情なんてすべて吹き飛ばして、すっかり昨日と同じようなやる気に満ちた顔に戻っていた。
――本当、単純というか素直というか。
そこからは昨日の焼き増しを見ているようで、少女は小さく頭を下げたあと駆け足でこの場を走り去っていく。きっとまた、今から公民館へ急ぐのだろう。
当然うまくいく保証なんてないし、ひょっとしたら公民館にだって心ない人がいるかもしれない。それでもあの少女の人柄なら、きっとどこかに自分の居場所を見つけることができるんじゃないかと、そう信じられた。




