第1章(9)
今日は日曜日と言うこともあって、二人で練習を続けていると、チームメイトが続々とやってきた。最初に現れたのはキャプテンの大坪さんで、次に草薙さん夫婦がやってきて、そのすぐ後に城崎親子とトモノブさんが現れた。
ベンチから千種さんに見守られながら、俺たち7人はひたすらグラウンドで身体を動かし続けた。今朝に聞かされた話のせいか、いつも以上に練習には気合が入る。
だが、お昼も過ぎてだんだんと集中力が切れてきたころに、ふと一つのことに気が付いた。
「そう言えば、いつもこのメンバーしかいないですけど、この前の試合の時はもう少しいましたよね?」
ノック中の大坪さんに、ふとした疑問をぶつけてみる。
すると、大坪さんをはじめメンバーの表情は曇っていった。
「ああ、いるにはいるんだが……一人はギックリ腰で寝込んでるよ。それと、この前の試合に出てた残りのメンバーは、みんなその日のためだけに集めた助っ人だ」
一週間前、俺が助っ人として急きょ呼ばれた、あの日の様子を思い出す。そう言えば、俺は負傷したメンバーの代わりに呼ばれたのだった。一週間前のギックリ腰が、未だに直っていないと考えると、容体はなかなか深刻なのかもしれない。
ふとグラウンドの向こうへと目を向けると、見たことがあるような無いような、結構な年齢の男性が歩いてくるのが見えた。男は腰に手を当てて、ずいぶんと苦しそうに歩いている。
「おっと、噂をすればってやつか。うちの最年長メンバー山根さんの登場だ」
「あの人が山根さん……」
――ていうか、あの人何歳だ?
たっぷり蓄えた顎髭は真っ白に染まっていて、頭の方の毛はほとんどなくなっている。身体は細くなっていて、歩き方にも力がない。これで野球ができるのだろうか……
「山根さん!もう歩いて大丈夫なのかい?」
心配そうに草薙さんが駆け寄っていくと、それにつられるように他のメンバーもついていく。あっという間に山根さんの周りには人だかりができて、俺もこっそりその周りに立ってみた。
「おいおい、まだ腰曲がってんじゃねえか。ちゃんと安静にしとけよ」
「う、うむ……さすがに一週間以上練習を休むのはよくないと思ったんじゃが……この身体ではキャッチボールの一つもできそうにない」
「分かんねえけど、あと一週間くらいは安静にしといた方がいいと思うぞ」
「すまんの。この老体、ちっとも思い通りに行ってくれんわ。ただでさえメンバーが足りないと言うのに、迷惑をかける……」
山根さんは本当に申し訳なさそうに、ただでさえ曲がっている腰をさらにまげて頭を下げた。
きっと、思い通りに回復してくれない身体がもどかしくてしょうがないのだろう。
「ところで、そこの青年は?」
頭を上げた山根さんは、俺の存在に気づいたようだ。大坪さんに腕をつかまれて、むりやり山根さんの目の前まで連れてこさせられた。
「ほら、こいつは先週の試合の時に急きょ助っ人として連れてきたやつだよ。いろいろあって、正式にうちのメンバーとして加わってくれたんだ」
「そうか、あの時の少年が……なら安心だ」
満足したように、うっすらと目を細める。
「こいつは、やるときはやりますよ。ちゃんと戦力になるように俺が鍛えますから、安心してください」
そう言ったのは東野だった。
「ふむ。ベッドで寝込むだけの生活にも飽きてきたころだ。せっかくだから、たまにはベンチで見学でもさせてもらうとするかね」
山根さんは相変わらずおぼつかない足取りでベンチに向かうと、そこにゆっくりと腰を掛ける。その様子を確認すると、俺たちの練習は再開された。
ベテランの監視の効果もあるのか、今度の練習は引き締まった空気の中で行われた。
「っしゃあ、来おおおーい!!!」
河川敷のグラウンドに、男たちの熱い声がこだました。




