見えないおもいを、(作者:空音様)
お葬式の描写があります。設定では異世界ですが、日本風となっております。
「私、おまえの父親がかわいいのよ…」
まだお祖母様が亡くなる半年ほど前にお祖母様に言われた言葉だった。
今思えば、それは私に対して「おまえのことなど私は認めていない」と遠回しに言っていたのだろう。
私がそれを悟ったのは、お祖母様が亡くなり、一年も経たずにお祖父様が亡くなった次の日のことだった。
お通夜が終わり、弟は他の従兄たちと遊びたいらしく、弟のことは父に任せて私と母は家に帰った。
それから、どうしてそんな雰囲気になってしまったのかはわからないけれど、母が私と弟の知らなかった事実を話し始めた。
正直、複雑な心境だった。
母の話を聞いてしまった後、今までのような、孫としてお祖母様とお祖父様を慕うことはできなくなってしまったのだ。
それは、寝ただけでは消えず、朝から私の心にまとわりついていた。
「どうしたの?サイカ」
葬儀会場に着いて、一人うろうろしていると後ろから名前を呼ばれた。
「キース兄さま…」
後ろを振り向けば、自分より5歳年上の従兄キース兄さまが立っていた。
「かわいいサイカ、君をそんな顔にさせる輩は誰なんだろうね…」
たくさんの女子に気を持たせるのが得意らしいキース兄さまは、時々私にも同じようなことを言ってくる。
「もう、キース兄さまったら!ふざけている時間があるなら恋人でも作ってきてくださいな。従妹にちょっかいかけてる時間なんてありませんよ」
そう言って、素早くキース兄さまから離れた場所に座った。
キース兄さまといえば、始めはやれやれと言ったような様子だったが、式が始まるとさっきまでの表情が嘘だったかのように顔を引き締めて式に臨んでいた。
式が終わり、お祖父様との最後のお別れのとき、私はお祖父様に最後の言葉をかけるかどうか迷った。何も知らない弟はお祖父様に最後のお別れをしている。そんな弟を見て、「この子は、お祖父様とお祖母様にどう思われていたのか、知らなければいい」と思った。
弟に、あの子にそれを言ってしまえば、きっと私と同じように苦悩に苛まれてしまうから、今だけは何も知らない無垢な気持ちのままでお祖父様の死を悼んであげて…。
私ができるのは、そう思うことだけだった。
「それでは皆様、これにて故・ジョン・ギルバート様のお葬儀を閉式とさせていただきます。お疲れ様でございました」
そうして、お祖父様のご遺体は燃やされて土に還った。
親戚一同が帰る中で、私だけがお祖母様とお祖父様のお墓前にいた。
今なら誰もいないから、聞いておきたいことがあったのだ。とは言っても、骨になった二人が答えてくれるはずもないのはわかっている。でも、聞いて欲しかった。
「ねぇ、お祖母様、お祖父様。私はあなた方に聞きたいことがたくさんあるのです。あなた方は、結局のところわたしや弟を憎んでいたのでしょうか」
それだけが聞きたかった。
嘘でもいいから、違うと否定して欲しかった。
「……サイカ」
聞こえたのは、馴れ親しんだキース兄さまの声だった。
「どうして…」
振り返ろうとすると、それを阻まれ、逆に抱きしめられた。
「朝、何か思い悩んでたのはこのことだったの?」
キース兄さまは優しく語りかけるように私に聞いた。
「はい…」
「お祖父様やお祖母様がサイカのことをどう思っていたのか、知りたい?」見上げると、キース兄さまの顔はいつものふざけるような顔ではなくて、真剣だということがわかる。
「はい…っ」
「わかった。教えてあげる」
そう言われてホッとしていると、頭をぐしゃぐしゃに撫でられた。
「ちょっ、キース兄さま!」
そろそろ離してもらおうと思ってキース兄さまの胸に手を当てて押すが、びくともしない。逆にさらに強い力で抱きしめられる。
「キース兄さま!」
「うるさいよ、サイカ。僕の話を聞く気があるの?」
「あります!早く話してください!」
「離すじゃなくて?」
からかってくるキース兄さまに、私は止めをさすことにした。
「もう…私、キース兄さまのこと嫌いになりますよ⁉︎」
「えっ、まじ?それだけは勘弁かも」
と、焦りだしたキース兄さまをよそ目に、ざまあみろと清々した気分のサイカがいたことは言うまでもない。
「で?全部話してもらえるのよね?」
怒りを露わにサイカがキースを問い詰める。
取り調べされてる気分のキースは、さっきまでの自分の行動を反省していた。
「はい…」
キースは半分あきらめ、連々と話し出した。
「僕がサイカのお母さんやサイカ、サイカの弟に対してお祖母様やお祖父様の態度が変だと思い出したのはサイカがまだ2,3才のころ、12年くらい前かな」
「そんなに前から…」
キースが知ったのは最近だと思っていたが、もっと昔から知っていたのか。
「ねぇ、どうして変だと思ったの?」
聞かずにはいられなかった。母以外の人は知らないはずの真実だから。
「…偶然、サヤカさんが締め出されているところを見たんだ。そのあとも従兄妹の中でお祖母様がサイカだけ構ってあげなかったのを見て、僕がよくサイカと遊んだんだけど、サイカは小さかったから覚えてないよね」
キースは切なそうに微笑んだ。
「そういえば、お祖母様よりキース兄さまと遊んだ記憶のほうが多いかも…」
そう言うと、キースはさっきまでの表情とは一変して、ぱぁっと満面の笑みに変わった。
「まぁ、そういうことだよ」
そういうことって…。結局、二人が私のことをどう思っていたのかわからなかったじゃない。
私がキース兄さまを睨んでいると、キース兄さまは意地悪い笑みを私に向けた。
「で、言ったから何か一つ僕のいうこと聞いてくれるんだよね?」
「は?そんなこと言ってな「嘘はダメだよ、サイカ」
反論しようとすると、キースに手で口を塞がれた。
「んん〜!」
「はいはい、静かにしないと苦しいだけだよ。はやく観念しなさい」
「むぅ〜」
不満そうな視線を送ると、ますます嬉しそうな顔をした。
「よし、決めた!」
もうどうでもよくなって、隣でなんか言ってるキースを無視していたが、それもできなくなってしまった。
「サイカ、僕のところにお嫁においで」
「むぅ⁈」
私はキース兄さまの口の拘束を無理矢理解くと、喚いた。
「何考えてんの⁉︎ただでさえ親類縁者同士の婚姻は控えるようにと陛下からお言葉をいただいているのに…。キース兄さまなんてもう知らないんだから!」
そう言って、力一杯走って逃げた。
「あっおい、待てよサイカ!」
あとでキース兄さまに捕まってしまうのは目に見えているけれど、今だけでもいいから逃げたいサイカであった。
――こうして皮肉にも彼女は不憫な、しかし幸福な英雄として語り継がれる事となりました。
最後までありがとうございました!