三瀑の隕石(作者:YUMEZ様)
地球上空・・・
凄まじいスピードで・・・
巨大な塊が・・・・・・
x日午前x時ごろ、x県x平野に10m級の巨大隕石が落下、その衝撃波によって、半径100Kmに渡り死傷者、建物の損壊が相次いだ。落下現場の周辺は、大規模な農地であったため住宅や住民への被害は少なかった。しかし、人的被害の大部分は、偶然通過していたx新幹線に、衝撃波の最も強力とされるその中心部分が向かい側より直撃し、全車両、全乗客もろとも跡形もなくなるほどに、爆破されたものによる被害であった。乗客、ただ1人を除いて全乗客が死亡とされた。その数推定968名。奇跡的に救出されたのは、山田昌平さん(93)
・・・さっと新聞記事に目を通した男は、テレビのリモコンを握った。
・・・・・・画面にはタイミングよく緊急記者会見が映し出されていた・・・それは国内史上最悪の、且つ隕石の落下との巡り合わせという、前代未聞の鉄道事故として大々的に報道され、国民はみな驚愕し、話題にせざるを得ない緊迫した高揚感に全国が包まれていた。中でも、瞬時に見舞われた潰滅という絶望的な状況の中で、その無残な車両の残骸より、たったひとつだけ遺された生命は、一方でよりその生々しさや凄惨さを際立たせ、人々に不謹慎な興味を助長させてしまったが、多方では、生命の尊さを実感させるまたとない契機を与えたといえる。奇蹟の老人として彼は一挙に国民の注目を引き受け、その奇蹟を更に引き立てるように、次々と神秘的な事実が浮上していくこととなった・・・原爆の10倍ともいわれる破壊力を正面より受け、老人は、あろうことか傷一つ無く救出されたのであった・・・
世間の注目を一身に集める中、本人たっての希望で、事故からまだ日が浅い本日、開かれたのが緊急記者会見である・・・・・・
・・・・・・なぜ・・なあぜっ・・・この老い先短かいいのちがああ・・・・・・パシャ!パシャ!パシャ!・これから・・・・未来のある・・・パシャ!パシャ!アオジロクブキミニヒカルロウジン・・若いひとたちに・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!スキンヘッドノアップガヒカル・・わしのこの・・いのちいをおおっ・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!シロイヒョロナガノアゴヒゲモテンメツ・・・ああっ・・うっ・うっうっ・・・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!オオツブノナミダトロウジンノテンメツガハゲシクブキミニツヅイテイッタ・・・・・・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・・・・
・・・後にこの会見は、凄まじい高速にて、青白に点滅するスキンヘッドの老人の映像が原因となって、多くの国民に光過敏性発作を引き起こしたとされている・・・あのポケモンショックと同現象である・・・
--かつて無謀にも若き時代の老人は英雄になる事を夢見ていた。
それとは矛盾して、山田昌平青年は、平凡な暮らしを、妻と過ごすばかりであった。
子供は居なかった・・・
結局彼は、妻と子と、三人での生活を送ることはできなかった・・・
しかし、ある面で、彼は既に英雄であったに違いない・・・
彼の父は、彼がまだ、ほんとうに幼き頃にx戦争で戦死した。
そして、英雄として凱旋したのを覚えている。
以後彼は、父の影を追って人生を潜り抜けて行った。
病弱であった彼は、青年となって、皮肉にも一切の兵役を潜ることはなかった。
成人してすぐに縁談があった。
美しい少女であった。
病弱な彼にはとても不釣り合いな相手であった。
戦死した彼の父の、戦友であった人の娘だと聞かされた。
そしてそればかりか、彼の父が戦場にてその戦友たる彼女の父を、命の恩人となって救ったのだということを・・・
父が・・・
この、目の前にいる美しい娘の誕生を産んだ・・・
それからひ弱な彼は、奮起することとなった。
父を追い・・・そして美しく可憐な少女を手に入れるため・・・内面的には逞しく、彼は堂々とした面持ちで一年後に妻を娶った。
彼は、英雄であった・・・
幸せだった。
ところがひとつの幸せは儚い・・・
子が産まれた。
とても可愛い息子である。
難産であった。
母の命と引き換えに・・・
母は、新たな生命を自らの生命と引き換えにした。
それから息子とふたり暮らしを続けた。
後妻は、当時の風習に習わず、娶ることはなかった。
いつまでも妻を愛していたのだ。
息子が幼年になった頃、父子は行楽に出掛けた。
花見の季節であった。
近隣に住んでいる知り合いの席で、息子もまだ幼いからと、ハメを外すことも無かった。
たくさんの、歳の大きな子や息子よりも少し幼い子が集まって、彼の息子を迎えに来るのだった。
向こうの方へと消えていった・・・
遠くを見ている。
あんなにたくさんの友達がいるのかと、少し感心していたのだった。
ぼんやり何かが見えた。
不穏なイメージが宿った。
黒い、人のような塊が、遠くに立っているようだったが、しかし黒いばかりなので、人であるはずはなかった。
いずれにしても、遠くだったためにはっきりはしなかった。
「溺れているぞー!!」
花見の席を怒号が引き裂いた!
駆けながら彼は不思議だった。
こんなところに川などないはずだ、そう思いながらも、息子が心配であった・・・
川が流れている。
激しい流れが。
あろうことか、彼の目の前を凄まじいスピードで、彼の息子が通過していった。
あっけにとられて彼は硬直し動けなかった。
すると、息子よりやや大きな幼児が飛び込んだ。
救けようとして・・・
それから更に大きな少年が飛び込んだ。
続いて更に大きい少年が。
続いて更に、更に、更に・・・・・・
一番大きい青年を尻尾として、龍が如く、長~い人間が一本に連なって向こう側へと泳ぎ去っていく・・・
我に返った彼は、息子を・・・息子たちを、追って、ようやく川へと飛び込んだ。
激流とはこのことである。
彼は飛び込んですぐに溺れていた。
溺れているが流れていった・・・
ゴチーーーーーーーーン!!!
黒い大きな岩に頭をぶつけた。
真っ黒で、奇妙な岩、川の真ん中に突然大きく突き出した・・・
気を失った彼は、しかし違う世界にて、何かを話しかけられていた・・・
黒く、人のカタチをした、岩に・・・
「あなたが飛び込んでどうなるというのです?」
「たくさん流されていましたよ。一体あのうちの、誰を救けようというのです?」
「あなたが生命を捨てて、もしひとが救かったとして、あなたはたったひとりしか救けられないのですよ・・・」
彼は黒い岩に、次々と話しかけられていた・・・
「それに・・・」
「仮にあなたが飛び込んでいなければ、あなたはもっと多くの生命を救けることが出来たかもしれません・・・」
「これを見なさい!!」
・・・・・・
パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・
跳ね返った水の勢いが音を立てていた!
彼は黒い岩に腰掛けていた。
彼は硬直していた・・・飛び込みたくとも、動けない・・・・・・
彼の目の前を凄まじいスピードで、彼の息子が通過していった。
龍が如く、長~い人間が一本に連なって向こう側へと泳ぎ去っていく・・・
すると、向こう側でポ~ンと飛び上がるものがあった・・・
彼の息子であった。
またしても、ポ~ン・・・ポ~ン・・・
次々に陸へと上げられていく子供達・・・
最後に、最も大きな青年がポ~ンと、上げられた。
パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・
「・・・どうです?」
「救かりましたよね~」
「あなたが飛び込まなかったお陰で、皆~んな無事でしたよ・・・」
「そうです・・・あなたが皆を救いあげたんです・・・・・・」
ワシは・・・
パシャ!パシャ!・・・
ワシには関係ないわ~~~~パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・・・なぜ・・なあぜっ・・・この老い先短かいいのちがああ・・・・・・パシャ!パシャ!パシャ!・これから・・・・未来のある・・・パシャ!パシャ!・・若いひとたちに・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・わしのこの・・いのちいをおおっ・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・ああっ・・うっ・うっうっ・・・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!いのちをあげたかったああ・・・・・・パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!パシャ!・・・・・・
その後、この老人は、国内で会見当時に生存していた誰よりも長く生きながらえ、(新生児を含む)そして亡くなった・・・
会見より130年後・・・
享年、223歳。
・・・マジっすか??
・・・・・・誰だテメエ。
いやいや、育美っすよイ~ク~ミ。
司会)名乗られても。わからんもんはわからんぞ。それよりナレーションに割り込んで入るとは分厚い根性してんじゃねえか!
育美)まあまあ、そう熱くならずにさあ~。それにしても、生き過ぎじゃねえ?ジジイ・・・この老い先短かいいのちがああっとか、マジで受けるんだけど・・・
司会)不謹慎なやつだな、テメエ、言っとくがこのジイさん、これから大活躍だからな・・・
育美)え~~~、マジ??ジイさんなのに活躍?223歳まで生きる!!ちょっと、パネ~くらいの興味だわ・・・鬼っしょ。てか、聞かせて~!
・・・うるさい女だな・・・説明してあげるからちょっと引っ込んでなさい。
隕石落下の中心部、衝撃波に撥ねられて、原っぱで見つけられた無傷の老人は、その後数多くの奇蹟を産み、数多くの人命を救う運命にあった。
・・・朝。
分厚い布団を突き破って、ぶるぶる硬直させる冷気だった、道を向かいながら一時間ほど前のことを思っていた。
ブウウウウーーーーンンン・・・
家の近所を唸り声がこだましている・・・
いつものことだ。
ぼんぼん時計であるな・・・たいして気にも止めずに歩いて行った。
「いらっしゃ・・あ、お早うございます」
「おはよう」
若い従業員に声を掛け返す。
牛丼店に勤めて3ヶ月になる。
10年の隠居。
世間はすっかり奇跡の老人の存在を忘れきっている。
見た目は70代前半くらいにまで若返って、それ以降ぴたりと老けていくことをやめていた。
肉体的には更に若返っていたのだ。
老人であれ特別な枠を設けて雇用をする時代。
少子高齢化のひとつの象徴かなと思う。
老人はただの老人ではなく、労働者としての老人であった・・・当時104歳、年齢を30以上偽って。
夕方、家でテレビを見ていると、
「おじいさん、危ないから窓を締め切ってくださいね」
みると近所の住人だ。
「いや、おじいさんも年だから締め忘れているといけない、安全なところに避難しよう・・・」
連れられていくと、
ブウウウウーーーーンンン・・・音がしている。
「ウチに避難しましょう、向こうの。完全密室だよ」
住人ががやがや集まっている。業者がいた。
老人が真下を通りかかったと同時に、
ストーーン。
スズメバチの巨大な巣が、老人の頭で割れていた。
「きゃーーーー」
次々と現れ出る凶暴なスズメバチ・・・混乱するギャラリー、脳震盪で気絶した老人。
ブウウウウーーーーンンン・・・
ぶす、ぶす、ぶす、ぶす・・・・・・
老人の肉体のみを一点集中して、スズメバチの大群は刺しまくった・・・・・・
大量の・・・
スズメバチの残骸が・・・
老人が目を覚ます、住人が驚きで目を丸くしている、ギャラリーはすべて無事だった、老人が全てを引き受けたのだ、老人だけが、途中、腫れで全身をぷくっと膨張させていたという・・・
目を覚ますときにはもう、腫れは引いていた。
その後病院は日帰りだった。
オーナーから店に電話が入る。
「スマンがもう一コマだけ続けで働いてくれませんかね」
個人経営ながら24時間体制の牛丼店は繁盛はしていた。
近頃従業員が皆休みをとる・・・
これも世のため人のため・・・
それが、続いた・・・
1週間後、不眠不休状態・・・
疫病である。
全国から人が消えていた。
長~い潜伏期間・・・
ここで感染者は爆発的に拡大していた。
後の研究で発覚するのは、その期間他に空気感染を含め、あらゆる経路の接触も、感染の原因となっていた。
約2ヶ月間の潜伏期間、ちょうど1ヶ月して発症、激しい症状に苛まれ、確実に死亡する、そんな恐ろしい病だ。
そして、ワクチンが生成不可能だった。
従業員が一人消え二人消え・・・
その度にオーナーからの電話。
とうとう老人一人となった。
その間、客も一人消え二人消え・・・
不眠不休でもなんとか持ちこたえた。
これも世のため人のため・・・
とうとう客も消えていた・・・
もはやただの不眠。
老人は牛丼店に居続け、牛丼を食べて生きていた。
近所の肉屋と、冷凍ストックの肉だけが唯一の命綱。
経営の意味など皆無、しかし続けていた。中止の決断を下すべき、オーナーも消えていたからだ。
ついに肉屋も消えた。
2ヶ月、いつまで続けたらいいものかなどというまともなことはもう忘れていた。終わりなき不眠、頼るは食糧のみ・・・
意味もなく煌々とした24時間営業の建物。
2ヶ月後、それも途絶えた・・・
ついに老人が発症した・・・
老人はいつまでも死ななかった・・・
タイムリミットの1ヶ月を越え2ヶ月を越え・・・国内から、いや、世界中から人々が消えてゆく中で、1年、2年・・・なおも生きのびていた・・・
そして、やっと・・・老人からワクチンが生成されて・・・老人は、全世界の生命を救った・・・・・・
育美)ヤリイっすね~ジジイ!
司会)またお前か。
育美)ヒック、ヒック・・・感動しちゃった。
司会)泣いてんじゃねえぞ。
育美)ジイさん、ついに世界を救ったんだよねえ・・・
司会)まあ、これはまだその途上に過ぎんが・・・
育美)まだあるんだ、楽し~み~・・・
司会)いつ疫病が始まるかわからんからな。じいさんは実際、その後のありとあらゆる流行的疫病にかかり続け、そしてその肉体によって、特効薬を生成していった。
育美)マジイ?一個だけじゃなかったのぉ~??感動通り越してビビッてんだけど・・・でもさでもさ、ジジイスゴ過ぎるんじゃね?最強じゃね?
司会)とはいえ、その後100年以上は植物状態として、人類のため生かされ続けたんだ・・・
育美)残念・・・って、寿命の概念はないんか~い!!
司会)そう、そこが神秘なのだ・・・
育美)でも、さすがのマイティジジイもベッドの中で機械に生かされていくだけとはね・・・
司会)そう思うのも当然だが・・・見なさい!
育美)延命装置・・・ジイさん、人類のためとはいえ、ちょっと可哀想すぎるんじゃ・・・?
司会)そのコードを抜いてみなさい・・・
育美)えっ?ジジイ死んじゃうじゃん!
司会)いいからやりなさい。
育美)チョッ、知らないよ、プツッ・・・えっ?死んでない・・・
司会)ダミーだよ。
育美)はっ?
司会)プラシーボ効果さ。
育美)いやいやいや・・・プラシーボって、意識があってこそ効果があるものでしょうよ!
司会)ジジイは最強だ。延命装置など、実は元から必要などない・・・気休めに過ぎん。
育美)マジっすか~~~~!!やっぱジジイ、スゲエ。見直したわ!
??)・・・それは寒さで息ができないくらいのレベルかな?
司会)誰だ貴様!
育美)うぃーっす!
司会)受け入れてんじゃねえよ!それよりテメエどこのどいつだ!
??)渡辺和男だ。心機一転よろしく頼むぞ。
司会)素性も明かさずに、イキナリよくそのセリフがブッ込んでこれたもんだ。これ以上増えられても困るだけだ、帰ってくれ。
渡辺)おいおい門前払いは勘弁してくれよ。このためわざわざ引っ越してきたんだぜ~。
司会)そうされる筋合いなどない。頼むから勝手な行動はやめてくれ。
渡辺)心配すんな、礼には及ばん。
司会)ただの懸念だ。
育美)どうします先輩?コイツめちゃめちゃ怪しいですけど・・・
司会)こっちも商売でやってるんだ。これ以上人件費を割くことなどできるものか。
渡辺)失礼な。金で動いている訳ではないぞ。強いて言うなら社会福祉だ。
司会)だったら今すぐこの場を去れ。
渡辺)家族ぐるみのお付き合いになりそうですね。
司会)消えろ。
育美)すでに家族っす。
渡辺)あ~~楽しいぞー。
司会)うっせー!
渡辺)ますます混乱するぞ~
司会)黙ってろ!
育美)うっほ~ラッキーラッキー・・・
渡辺)カオスだぞ~
司会)気分悪りぃ!三人同時の語り部って何なんだよ・・・DVD特典のコメンタリーじゃないんだぞ!!
渡辺)なら、この小説がヒットして、DVD化された時、また集まろう!
司会)断る!!・・・だいいち何なんだよ、小説のDVD化って・・・ほとんど一時停止じゃねえか!!無駄にも程があるだろうが!・・・
地球上空・・・
凄まじいスピードで・・・
巨大な塊が・・・・・・
老人は搬送されていた・・・
ジゴラが襲来したのである。
咆哮と恐怖の炎が街という街を包んだ・・・
怪獣の凶暴な口から吐き出されていた。
津々浦々が潰滅していた・・・
燃えていた・・・
ギリギリ、とうとう老人の大病院は大炎上。
100年間、世界中の疫病たる疫病を食い止めたる奇蹟の老人は搬送されていた・・・
が、すでに、搬送車のなかで、ついに息絶えていた。
キキーーーー!!!
「な、何事だ!危ないじゃないか」
「い、院長!アクセルを踏んでいたのに・・・停まってしまいました」
「何を馬鹿な・・・」
ウーーーーウーーーー・・・
実際、アクセルは空回りするばかりであった。
「もうジゴラはすぐそこだ!逃げるぞ・・・」
「い、院長!」
「何だよ!次から次に。しつこい!」
「ジ、ジイサン・・・」
ジジイから何か、根のようなものが伸びている・・・
すでに、植物状態から本物の植物へと移行していた。
車外の地面に癒着して、びっしりと離れなかった・・・ブレーキの原因である。
「うわっ、臭っせ~!!もう死んでんじゃねえかよ」
生物学的にいえば、ウンコをクサヤの汁に漬け込んだものを、ドリアンと一緒にミルサーの中へ投入しミキサーしたものを、息を止めずに飲み込んだ時のニオイが吐き気と同時に充満していた。
「おえええ・・・い、院長・・・ジジイの根が・・・強力過ぎて搬送不可能です」
「ほっとけそんなジジイ・・・ジゴラが~~、ほら、急ぐぞ~~~」
ふたりの医者は飛び出した・・・
道の中央に搬送車と奇蹟の老人の死体を置き去りに・・・
燃えている。
咆哮と恐怖の炎が街を包んでいる・・・
キキーーーーーーーーーーードーーーーーーーーーン!!!!!!!
・・・はいどうも~、路上駐車です、よろしくお願いしま~す。
ボケ)突然ですけど
ツッコミ)はいはい
ボケ)実は俺、新しい戦隊モノの英雄を考えてきてんけど、聞いてくれへん?
ツッコミ)それを言うなら戦隊モノの英雄やないか!そんなん聞いたことないわ。お前どこの世界に戦隊モノの英雄をやりたい、言うて始める漫才師がおんねん。
ボケ)うわっ、恥ずかし!!俺、明日から息できるかな?
ツッコミ)死にたい願望を遠まわしに言うてる場合か!!そんなんじゃアカンで。もう少し言葉を追求せえ!
ボケ)ホンマに嫌になるで、思春期なんか当に過ぎてんのに、自分に腹たってイライラするいうか・・・
ツッコミ)簡単な話しやで、悔しかったらそのイライラをオモロいボケで笑いに変えていかんかい!
ボケ)そんで自問自答の結果、不合理ゆえに我信ず・・・
ツッコミ)自動律の不快やないかい!お前のはそんなん真面目な問題ちゃうで
ボケ)この前、タコを食うた時気づいてん
ツッコミ)だからそれは自動律の不快やないかい!
ボケ)謎の奇病にもさいなまれてやね
ツッコミ)何がいな
ボケ)イボ病いう病気で・・・イボを食うたら必ず顔面に吸盤が生えてくんねん
ツッコミ)なんやねんその病気は!
ボケ)生きていくことと一緒で、生きていくいうことは生きていくしかあれへんわ
ツッコミ)同じこと三回聞かされたよ~。お前悩みすぎやねん!考えんといたほうがええんとちゃうん?
ボケ)あ~、頭痛たなってきた~
ツッコミ)空回りいう奴や
ボケ)頭痛薬の飲みすぎで頭痛いわ~
ツッコミ)そんなんアホな症状はじめて聞いたで。お前が殺人事件やったら高知東生やぞ!あの人家でゴロゴロし過ぎてヘルニアになったことある言うてたで、昔・・・そんなん難事件やったら捜査班も一発でお手上げや!いうたら諦め悪すぎてすぐ諦めてまうパターンやで・・・
ボケ)つまり砂漠の真ん中にいきなりニョキニョキ水道管と蛇口が生えてきた時の心境の心境小説やねん
ツッコミ)それはどっちか言うたらショートショートやで。お前それともアレか?ソイツ喉が乾き過ぎで逆に中々蛇口を捻らへんいうひと捻りを入れてくるパターンやろ
ボケ)そやねん
ツッコミ)なぜなら蛇口の栓が熱されて熱々や!火傷覚悟やで。ほんでそいつはどうしてもキンキンに冷えた氷水を飲みたい衝動を抑えきれへんねん、どうせ捻っても熱湯しか出てけえへん蛇口や!やっぱり心は氷水を諦めきれへん・・・お前、脳味噌どうなってん?見してみい
ボケ)頭蓋骨のなかでぷかぷか浮いてるよ・・・熱湯に
ツッコミ)お前そんなんやったら脳も萎縮して冷静な判断は出来へんのとちゃうんか?
ボケ)出来てるいうねん・・・アレや、不合理ゆえに我信ず・・・
ツッコミ)出来てへん出来てへん・・・やっぱり自動律の不快やないか!もうええわ。
パチパチパチパチ・・・・・・
・・・・・・パチパチ、パチパチ・・・
燃えている・・・音立てて・・・
誰かが集まっている・・・
スーパーマーケットが燃えていたのだ。
ジゴラはもう目と鼻の先というのに・・・
所構わず・・・いや、ここを目掛けて・・・
燃えていた・・・
精肉コーナーの大量の肉のストックと焼肉のタレが燃やされて・・・
貧乏学生と、春日である・・・
焼肉店の入口のような魅惑的な匂いに釣られて・・・
皆は、白飯を食べていた・・・炊飯ジャーを持参していたのだ。
・・・つまり、またとないこの機会、焼肉気分を味わおうと、せめて、ニオイだけでも白飯に絡めて胃袋に収めたかったのである・・・壊滅の街中で・・・
「うまし」
春日が悠然とした面持ちで、ゆっくりと優雅な挙動にて、箸を運んでいった・・・
・・・??
・・・なぜだろう・・・とんでもなく・・・強烈な違和感を覚える・・・
!!!
エアー白飯!!!
春日の茶碗にだけは、一切の白飯が入ってはいなかったのだ・・・
ケチも、ここまで徹すれば、尊敬に値する・・・
UGOAHHHHWAAAAAAAAAGYAAAAAAANNNNNNNN!!!!!!
ジゴラが気づいた・・・
搬送車に置き去りにされた・・・哀れな老人の死体・・・
しっかりと根を地面に張ってびくともしない状態で・・・
NOSHIIIIIIIIINNNN・・・
NOSHIIIIIIIIINNNN・・・
・・・GOWWWAAAAAAAAAAAAAAAA・・・・・・
怪獣の凶暴な口から吐き出された咆哮と恐怖の炎・・・
一瞬にして、搬送車は高エネルギーに蒸発させられていた・・・
!!!!!!
ジゴラが衝撃を受けた・・・
びくともしない、ジジイの死体・・・・・・
・・・GOWWWAAAAAAAAAAAAAAAA・・・GOWWWAAAAAAAAAAAAAAAA・・・GOWWWAAAAAAAAAAAAAAAA・・・・・・
・・・・・・何度やっても、何度やっても・・・何時までも燃えずにびくともしないジジイの死体だった・・・
いつの間にか、街の破壊など忘れ、ジジイを燃やす為だけに、怪獣、宇宙太古よりの歴史のプライドと意地を賭けて・・・
ジゴラは懸命に、少しずつ、黒く色味を帯びていくジジイの死体のみを燃やし続けた・・・・・・
変容していた・・・
ジゴラの周縁を、真っ赤なドロドロなリング状の渦世界が取り囲んでいた・・・
ジゴラの肉体はもう、すでに消えていた・・・
透明な膜・・・
それだけがジゴラのすべてであり、それは肉体を含めたすべての魂の権化であった・・・
燃やすことへの意志・・・リアクションとしての黒い人間のカタチをした何か・・・
それが、透明な膜であり、その全てであった・・・
遠くから・・・
透明な膜の奥行から逼る何かが・・・
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン・・・粉々に・・・粉砕・・・薄いガラスの膜・・・パリイイイイイイイイインン・・・地面に・・・落下・・・・・・グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン・・・・・・
衝撃波の衝突はあっけなく列車ごと中空へと放り投げて・・・それは乗客もろとも・・・・・・
~~~~~ッダンッダンッダン・・・
地面に弾むジジイの・・・
平野・・・
転がっているジジイの素っ裸の肉体・・・傷一つなく・・・
・・・その傍らで、黒い、人間のカタチをした物体が立っていた・・・そして、ゆっくりとした足取りで・・・景色の奥へと去っていった・・・・・・
街・・・
またしても奇蹟の老人が、世界を救ったのだ・・・
ジゴラは消えていた。
そして老人は、漆黒の仏像のような出で立ちで、美しく炭化していた・・・
飛んでいる・・・光の渦世界の内奥に飛んでいる・・・・・・
黒い隕石がインフレーションの時空を泳いでいた・・・
黒隕石は文字通り様々な時空を旅して、英雄としての力を与えゆくのであった・・・
望まざる、受身な、しかしながら如何なる悪疫にも屈さない、逃れようのないそれは最強の力であった・・・
ひとつの神性がある、様々な世界や角度によって、たくさんの神々や英雄たちが見い出され生まれゆくのと同じで、ひとつの黒隕石は、万華鏡で覗いたようにそれは様々な黒隕石へと伝播してゆくのであり、やはりそれは黒隕石である・・・
黒隕石に力を与えられしものは、数多くの同朋を救う運命を担い、結果極めて自らがその、黒隕石になりゆく、という、望まざる、受身な、そして逃れようのない最強の運命を秘めていることだろう・・・
--こうして皮肉にも彼は英雄として崇められる事となった。
短編企画に参加させていただき、ありがとうございました。
とても有意義な経験となりました。
内容としては、ひとつ、代表作が出来上がったな、と自負するくらい、満足の出来です。
シリアス、ギャグ、存在論がバランス良く配置され、しかも実験的に纏め上げることが出来ました。
よく解らなかった方がもしいらっしゃった場合のために、ヒントとして、ドグラ・マグラな「市民ケーン」を頭に描いて書き続けました。
特撮風な感じも、少しは出せたと思います。
それでは、またの機会に、いつかお会いしましょう。
異常、終末 英雄、ゆめぜっとでした、ありがとうございました。