喜びの種は悪の花を咲かせる(作者:朝永有様)
「どうした? チョロにメガネ。俺を呼び出して」
「とぼけてんじゃね~よ! ノッポ!」
「そうだそうだ! このメガネが曇らないうちは見逃さない!」
夕方の公園。男子3人が言い合いをしている。
「いや、何が何だか分からないんだが」
「単刀直入に言う」
チョロがノッポを睨みつける。
「彼女、できたんだろ?」
「……何を言っている?」
メガネがそのレンズをキラリと光らせてノッポに言う。
「ある女の子がな、筆箱にお前とのプリクラを貼っていた」
「何?」
「さらに、その女の子は友達との会話で度々お前の名前を出しては顔を赤くしていた!」
「ぐぬぬ……」
そして、メガネはにやりと笑って後ろに引き、最後の口撃はチョロが行う。
「白状しろよ。もう証拠は挙がってるんだぜ?」
「……そうだ。俺には……彼女ができた」
「認めたな」
「潔さはお前の良いところだ」
二人は頷き合いながら、うなだれるノッポを見つめる。
「そしてそんなお前に、俺らから送る言葉はこれだ」
チョロの言葉を合図に、二人は声を合わせて言った。
「「おめでとう、君は俺たちの英雄だ」」
ノッポは、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で二人を見上げる
「すごいよ! この3人の中からリア充が出てくるとはね! メガネが曇らないうちに知ることができて良かったよ!」
「よくやったよな、ノッポは!」
嬉しそうに語り合う二人を見て、ノッポは表情を緩めた。
その瞬間だった。メガネが口火を切る。
「しかし!」
「分かっているはずだ! この3人はある同盟で結ばれている」
二人が声高らかに、先ほどまでの穏やかな雰囲気を打ち壊す。
ノッポは呆気にとられ、何も言えない。
「それは、『彼女作らない同盟』!」
「お前はこの同盟を裏切った!」
「告白されて嬉しかったんだから仕方ないだろ!」
ノッポは必死に弁明する。しかし、メガネが理路整然とレンズを光らせる。
「『嬉しい』という一時の感情に流されてこの堅い同盟を破るなど言語道断!」
「お前は、ひで~男、なのだよ!」
チョロは憎たらしい悪魔のような表情をノッポに向ける。
「随分だな! お前ら! さっきまでの二人はどうした?」
チョロが一呼吸置いて、言葉を放つ。
「そんな二人など……死んだ!」
そして、チョロは言葉を続ける。
「しかし、お前がこの同盟における英雄であることは変わりない」
「だから我々は、君に称号を与える!」
「それは『ひでお』だ!」
空気が止まる。無音の世界が訪れる。
「ひでお?」
ノッポは声を搾り出す。
「そうだ。『英雄』と書いて『ひでお』。だが、本当の意味は『ひで~男』の略称だ~!」
チョロが大声で笑う。その隣で、メガネが人差し指を天に向ける。
「本日はこれを祝して、『ひでお祭り』を開催する!」
「「そ~れ、ひ・で・お! ひ・で・お!」」
二人はこの掛け声と共に、ヘンテコな舞を踊り続けた。
「やめろ! お前ら~!」
――こうして彼は皮肉にも英雄と崇められるようになった。
読んでいただき、ありがとうございました。