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短編&恋愛

僕はずっと君だけを見てた

作者: 鈴音 梨花

体育館裏。

僕は、先生に押し付けられた体育の後の片付けをするために体育館に居た。

「こんなの自分ですればいいじゃん。どうして僕に押し付けるのかな…。学級委員はパシリじゃないんだけど…はぁ…。」

体育館の戸締まりをしようと扉を閉めようと、僕が扉に触れた時だった。


「ねぇ、(たける)。私と…付き合ってくれない…?」

扉を挟んだ反対側から女の子の震える声が聞こえた。

声が震えるのは緊張のせいだろう。

そう、僕は告白の現場に居合わせてしまったのだ。


(最悪だ…。告白現場って気まずいじゃん。そりゃ、上手くいけばいいけどさ?相手は健でしょ?無理に決まってるじゃん。あいつは、告白してきた相手を、全員振ってきたんだよ?可能性あるわけないじゃん。なのに告白するだなんて、勇気あるな…すごい。僕は…ずっと気持ちは伝えられずに居る…。でもまぁ・・僕なんか、無理だよね。こんな女の子らしくないんだもん。告白してもふられるに決まってる。)

僕は、扉を閉めるのを諦め2人から見えないようにそっと物陰に隠れた。


健が発した言葉は案の定、NOだった。

「悪いな…。俺、好きな奴居るんだよ。今までも、これからも俺はずっとそいつだけだ。他の女は眼中に無いんだ。わりぃな。」健は迷いの無い声ではっきりとそう告げた。

「そっか…ごめんね。」女の子は涙声でそう言うと、走り去った。

パタパタと彼女の足音だけが、体育館に響いた。


(ほらほら!でた!この気まずい空気!僕、これ大嫌い。だからこそ、健に告白出来ずにいるんだけど…はぁ。)

僕は、そろりと物陰から脱出し健が居るのも気にせず、勢い良く扉を閉めると、体育館から逃げ出した。


「だから嫌なんだ…。」僕は体育館を出て、誰にも聞こえないようにぼそりと呟いた。

…ハズだったのだが。

「何が嫌なんだ?まひろ。」と、上から声がふってきた。

「健…。」僕が顔をあげると、そこには健がいた。

健は身長が180もあるから、160センチの僕は必然的に見下ろされるのだ。


「何してんの?体育は、もうとっくに終わってるだろ?」

「体育の後片付けしてたんだよ。君こそ、何してるの?」僕は、何も見ていないふりをするためにそう問いかけた。

「お前だったのか。さっき、体育館に誰か居るのは気づいてたんだ。でも、確認しに行けなかったから、スルーしてたけど。」

(なんだ。バレてたんだ。)


「モテる人間は辛いねー。君は、ほんとに昔からよくモテる…。」僕はそう言って笑った。

ほんとはそんなこと思ってない。

だけど、こう言わなければならないと僕は思った。

「嫌みか?まひろ。お前だって、ボクっ娘やめたらもてるんじゃないの?」


僕達が、こうして話せるのも幼なじみだから。

「ほんとっ。まひろは可愛げが無いなぁ。」

「うるさいな。僕はこのままが僕なんだよ!」

(違うよ…そんな事が言いたいんじゃない…。)

「あーそうか。よしよし」健はそう言って僕の頭を撫でた。


「健?」僕は少しいつもより高い女の子らしい声をだして彼を呼んでみた。

「えっ?なに??」案の定、健は少し戸惑った声をだす。

「うざいって。やめて。」僕は頭に置かれた健の頭を叩いた。

「いってぇー!」

「ちょっと、身長高いからって調子に乗るな。ほんとに、君って人は。身長が高いからって…。うざいんだよ。君の好きな人、誰だか知らないけどさ・・・そんなにも、うざいから、好きな人にも振り向いてもらえないんじゃないの??」僕がはっきりとそう言うと、健は少し悲しそうな顔をした。

(違う・・。そんな事がいいたいんじゃない・・。そんな顔しないでよ…。好きなんだって…。でも、言えない…。今の関係が壊れるのが怖いんだ…。)



健は無言のまま、僕の手を引いて、誰も居ない体育館の裏に連れて行き壁際に私を追い込んだ。

握られた手は力強く、手が手首に食い込んで痛い。

「ちょ…痛いんだけど!」僕が健の手を降り解くと彼は少し怒った顔で、僕の顔の横の壁手をついた。

(まさかの壁ドンー!!!???いくらもて男の健に壁ドンされても…どうせ女の子皆にこんな事してるんでしょ?信じられない・・・・・・。)


「お前さ。あんまり好き勝手言わないでくれるかな?俺さ、本気で好きな奴いるんだよ。だから…やめてくれるか?そういうの。」健は低い声で苦しそうにそう言った。

「分かった。じゃあ、こうしよう。僕はもう君…健とは関わらない。だから、こういう鬱陶しいこと、やめてくれるかな?他の女の子と、僕は違う。じゃあね、健。好きな女の子に振り向いてもらえるように、頑張って。じゃあね。」

僕は、健の壁に着いた手を払うとその場から立ち去った。

(これ以上一緒に居たら辛くなる…。素直になれない…。でも、健は好きな人が居る。だから…だめ。)



僕が制服に着替えて教室に戻った頃。

「ねぇ、まひろちゃん!」僕が振り向くと、そこには同じクラスの高宮奈央が立っていた。

「なに?」僕は冷たくそう言った。


だいたい、こうして僕に話しかけてくる人は健の事を言ってくると分かっているから。

それ以外で僕に話しかける人なんて居ない。

「あのねー?ちょっといいかしら?」高宮さんはそう言うと、わざとらしくもじもじとした感じでこちらを上目遣いで見てくる。

(こんな事して、私かわいっとか思ってるのかなぁ…。あーやだやだ。どうして上目遣いを女子に使うんだよ。使うところ違うよね?)


「なに?廊下いこう。」僕は高宮さんを廊下に連れ出した。

(教室で面倒ごと起こすと、健に知られたら嫌だから。)

彼女は廊下に着くなり、僕を睨みながら「健君に近づかないで?」彼女と言った。

先程までとは全然違う雰囲気を醸し出してくる。

「はっ?」僕は思わず聞き返していた。


「見ちゃったの、私。まひろちゃんと、健君がいちゃついてるとこ。あのね?分かってないだろうから言っといてあげる。あなたと、健君はお似合いじゃないの。健君は皆の王子様なのよ?だから、あなたみたいな人が近づくのはやめて欲しいわけ。わかる?」彼女は僕の耳元でそう言うとにこりと笑った。

「はぁ…ほんと。なんなの。」

(僕だって好きなのに。この人達よりもずっとずっと健をみてきたというのに…。どうしてこんな事言われきゃいけないの?)

「まひろちゃん?何か言った?」

僕は大袈裟にため息をつくと、はっきりと告げた。

「僕、健なんて興味ないから。鬱陶しいから、いちいちそんなことで話しかけてこないで。ほんとに、これだから幼なじみなんてやなんだ。」

(ほんとはそんな事思ってない…。でも、そう言わなきゃ、きっと僕は健を好きな女の子に酷いことされるんだろな…。どうして、僕も素直に健が好きって言えないんだろう。)


「へー。あなたは、健君に恋愛感情持ってないんだ?分かった。じゃあ、もうあなたには何も言わないわ。だから、健君には近づかないで。」

「言われなくても、そうするから。これ以上、面倒な事に巻き込まれたくないんだ。」

「ふふ、物わかりがよくて助かったわ。じゃあね?」高宮さんはにこりと微笑むとくるりと反対を向いて去っていった。

(違うよ…ほんとはそうじない。好きなの…。僕は健が好き…。どうして素直に言えないの?)

僕は、高宮さんの背中が遠ざかっていくのを見て、教室に戻った。




次の日の昼休み。

僕が、教室で本を読んでいると、いきなり本が誰かによって奪われた。

「何するんだ!!」僕が怒って顔をあげると、そこには面倒事を起こして下さる健が立っていた。

「どうもっ!」そう言うと、健は僕が読んでいた本をペラペラとめくって、内容を確認した。

「へー。この人の本読むんだ?俺もこの人の本好きだぜ?」健はそう言うとにっこりと笑い、私に本を差し出した。

私は、健から本を奪うと「君、もう僕に関わらないでって言ったよね?聞こえてなかったの??鬱陶しいんだって。君のせいで、女子絡まれたんだからね。」と言った。

(違う。普通に話がしたいだけなのに・・・。そんなことが言いたいんじゃない・・。)

「あー。そりゃ、悪かった。でも、まぁいいじゃん?」健はそう言うと、楽しそうに笑った。

その笑顔を見ると胸が苦しくなった。

(これ以上話したくない・・。苦しくなるだけだ・・・・。)


僕は読書体制に戻った。

「えー。無視かー?嫌だわ。なぁ、放課後デートしてよっ!」

(ほんとは一緒にいたい・・。でも、一緒に居たいなんて言えない・・・・。)

「ねぇ、君はどうして僕に構うの?鬱陶しいんだって。」僕は冷たい言葉と態度で健を突き放そうとした。


「えっ?」健はきょとんとした顔で誤魔化す。

「ほっといて!僕は、誰かと関わりたくないの。」

「俺ら幼なじみじゃん。なにが可笑しいんだ?」

「はぁ…うざい。」

私は席から立ち上がった。

「どこ行くの?」

「うるさい。」僕はそう言うと、黙って廊下に出ようとした。


その時だった。

急にふらりと目眩がして、廊下の地面が近くに見える。

「あれ…?」

ばっ。

誰かが、僕の肩をぎゅっとにぎって、ぎりぎりの所で助けてくれたようだ。

おかげで僕は、倒れずに済んだ。

「大丈夫かっ?まひろっ!」

この声は…健だ。

僕はそこで、意識を手放した。



次に目覚めたとき、僕は保健室のベットの上だった。

薬品くさい部屋と、なにも個性の無い部屋。

(あれ?僕・・・。どうしてこんなところに??)

僕は記憶をたどった。

(そうだ・・倒れたんだった・・・僕。)


そのことを思い出した僕はゆっくりと起き上がろうとした。

(早く帰りたい・・。)

その時、僕が寝ているベットの横の椅子に座って僕が寝ているべっとに伏せて寝ている健が視界に入った。

「健・・・?」僕がそっと声をかけると、健はぎゅっと僕の手を握った。

「まひろ・・・・。好き・・・。」

「寝言・・・。」

「どこにも・・・いかないで・・・・。」

「どこにもいかないよ。僕はここに居る。」僕はぎゅっと健の手を握り返した。

「ん・・。まひろ・・・。」

(僕はこの人が好き。好きなのに・・・素直になれない。どうして素直になれないんだろう・・・。振られるのが怖いから?僕はずっとこの気持ちから逃げるの?そんなんじゃ、だめ。今、言わなくちゃ!ふられたっていいや。健に気持ちを伝える。好きだから・・ずっと一緒に・・隣で笑っていたいから。だから僕は・・・今、君に伝える。)

「健・・・。おきて。」僕は健の肩をそっとゆすった。

僕よりも大きくて、たくましい健の背中を。


いつの間にこんなに大きくなっていたのだろう。

いつの間にこんなにも、たくましくなっていたのだろう。

いつからこんなに好きになっていたんだろう・・。

かっこよくて、優しくて。

僕の一番・・・大切で大好きな人。


「ん・・・。おは。目が覚めたのか!?もう身体は平気なのか?・・・・良かった・・。このまま、お前が起きてくれないんじゃないかって・・・俺・・・不安で・・。」

「大げさだよ・・健。」

「うう・・だって・・・。」そう言った健の頬には涙が伝っていた。

頑張って堪えているのが伝わってくる。

「ずっとついててくれてたの??」僕はそっと健の頭をなでながら問いかけた。

「うん・・。心配だったから・・。」健は涙をぬぐいながら笑う。

そんな少しのしぐさでさえ、僕には愛おしい。


「あのね?健。聞いて欲しい事があるんだ。」僕は笑ってそう言った。

「うん?なに?」

「僕はずっと君だけを見てた。」

「うん。」

「好きだよ。健。素直じゃないから今まで言えなかっけど。僕は健が好きだよ。」

「うん・・・う・・・ん。」健は今度は堪えきれなくなったのか、僕をぎゅっと抱きしめて、僕の肩に顔を預けた。

「泣いていいよ。」

「言われなくても、そうさせてもらうつもりだ。」

「うん。」


健は泣いた。

こんなにも泣いている健を見るのは久しぶりだ。

最後に彼の涙みたのはいつだっけ?

忘れちゃったな・・・。


「健・・・?」

「なっ・・・に・・・・?」

「僕のそばに居てくれてありがとう。大好き。」

健は顔を上げて笑った。

「俺も。」


大好きだよ、健。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は,僕っ娘の主人公なんですね!  人の心の揺れというのは美しくもあり,醜くもありますね。蒼い心同士で蛇行する,恋模様が良く描かれていると思います!  そして最後に⋯⋯お,女の子っ…
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