勲章
いつもは、創作話ばかり書いている私ですが、
今回はノンフィクションの話をします。
私は、霊現象についてはかなり、懐疑的なのですが、
一つ、身内の話で不可解な話はあります。
その身内というのは、私の弟で、私と真逆の性格で、
思ったことはすぐに口にしてしまう性格で、短気で堪え性がなく、
中学生になったあたりから、何度かトラブルを起こしました。
そのくせ、小さい頃からかなり臆病で、夜は豆球を点けないと眠れないようなチキンでした。
別に、つっぱってるというわけではないのですが、その性格ゆえ、
生意気ととらえられることが多く、先輩にボコられたりしたこともありました。
野球をやっていて、勉強は大の苦手。
高校へは、野球で進学できたようなものです。
ところがやはり高校に進学しても、世渡りの下手な弟は、どうやら
部活で先輩達に苛められたようでした。
父は、とにかく弟が野球をやっていればいいという考えの人だったので、
弟が野球を辞めたい、と言った時には烈火のごとく怒り、
無理やり野球をやるように強制したのですが、弟は当時はまだ父親が怖かったのか、
どうしても我慢ができず、家出を繰り返し、しばらくすると、
とうとう野球は辞めてしまい、勉強も嫌いだったので、
高校を中退してしまいました。
高校中退者に、職などなく、弟は板前の修業をすべく、F県、K市で修行をすることに。
中学の同級生と一緒に、古いアパートに一緒に暮らすことになったのです。
親も半ば諦め、同級生も一緒に住むということで、安心していました。
ところが2年後、弟が泥酔して、泣きながら電話をしてきたのです。
当時は今ほど、飲酒に関しては厳しくなく、かなり緩めでしたし、弟は
180cm近く身長があるので、かなり大人びていたと思います。
電話の内容は、「仕事を辞めて、家に戻りたい。」という内容でした。
私は姉の立場から、情けない、根性なしめ、もう根を上げたのか、と思いました。
もちろん板前の修業は厳しくて、上下関係もかなり厳しいので、
辛いというのもありましたが、どうやらもう一つ理由があったことは、
弟が帰ってから聞きました。
「Fがな、帰ってこんようになったんよ。」
Fというのは、弟が一緒に住んでいた同級生です。
「わしもな、Fは仕事で遅うなったんかと思いよったんじゃけど、
ずっと帰ってこんようになったんよ。」
ある日から、一緒に住んでいたFが帰ってこなくなったという。
その頃は、まだ携帯電話も普及しておらず、固定電話もつけていないので、
連絡が取れない状態が続いたそうです。
弟も、まあ女でもできて、しけこんでるのかな、くらいにしか思わなかったそうです。
ところがある夜、弟は夜中に目を覚まし、初めて金縛りに遭いました。
起きているのに、体が全く動かない。
弟は人の気配を感じて、足元を見ると、軍人のような格好をした男が立っていたそうです。
男の胸には、勲章のようなものがたくさん着いていて、中でも鳥の形をした勲章が目に焼きついたそうです。
そのあくる日、同居していたFが久しぶりに帰ってきたので、すぐさま、
その話をFにしたそうです。
「軍人の幽霊が出た。」
そう言うとFは、
「鳥の形の勲章が、ついてなかったか?」
と言ったそうです。
Fが帰ってこなかったのは、実は弟と同じものを見たからだそうです。
弟とFは別々の職場だったので、シフトによっては、それぞれが、
一人寝の日もあり、Fは弟が居ない夜にそれを見たということでした。
Fは、怖くてもう、そのアパートに帰りたくなくて、友人の家を
転々としていたようです。
ほどなくして、弟は、板前修業の辛さと、そこから離れたさで、
電話をしてきたという運びです。
怖がりの弟が夢でも見たんだろう、くらいに思っていたのですが、
Fが同じものを、しかも特徴を覚えているというのは、
やはりそういうものって、存在するのかもしれませんね。