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半分こ

「はい、半分こね。」


 お姉ちゃんはいつも、ヒナコにそう言って、何でも半分、ヒナコにくれた。

お姉ちゃんが、誰かに一人だけお菓子をもらった時でも、すぐには食べずに必ず家に持って帰ってきて、半分こしてくれるのだ。自分ひとりでおつかいに行って、お駄賃をもらった時も、かならずヒナコに買ったお菓子を半分くれたし、お金を半分もらったこともある。

 

 自分で行ったおつかいのお駄賃なんだから、全部自分で使っちゃえばいいのに。ヒナコがそんなことをお姉ちゃんに言ったことがある。でもお姉ちゃんは笑いながら

「だって、ヒナコはお姉ちゃんの特別なんだよ。ヒナコと喜びも全て分け合いたいもの。」

と言って、ヒナコの頭を撫でてくれる。


 優しいお姉ちゃん。大好き。

いつだって、お姉ちゃんはヒナコに優しかったし、ヒナコのわがままを全て笑って許してくれるのだ。ずっとずっとそんな日が永遠に続くと思っていた。


 最近お姉ちゃんに彼氏ができた。

お姉ちゃんは高校生だけど、彼氏は先輩で大学生だった。

ヒナコとお姉ちゃんは1歳しか年が違わないので、その先輩の事はヒナコもよく知っていた。


 特別イケメンというわけではないが、背が高くて、どこか儚げで優しい印象の人。ヒナコは密かに、彼に憧れていた。やはり、お姉ちゃんのような、聡明で美人が男の人は好きなのだ。


 ヒナコの心の中を、真っ黒な墨のような感情が満たした。


 ある日、先輩がうちに遊びに来た。いよいよ、二人は親公認の仲に発展しそうだ。お姉ちゃんが照れくさそうに、両親とヒナコに彼を紹介する。表面上ヒナコは、二人を祝福するフリをしたのだ。ヒナコは、二人っきりにしたくなかった。だから、邪魔を承知で、お姉ちゃんの部屋にずかずかと入り込み二人っきりの時間を無くしてやったのだ。


 さすがに、お姉ちゃんも、戸惑っているようだ。先輩も、口には出さないけど、そわそわして何とかヒナコを部屋から追い出す方法を考えているに違いないのだ。ヒナコをまた真っ黒な感情が満たす。


 二人っきりになんて。させるものですか。お姉ちゃん、約束したじゃない。何でも半分こ。そうでしょ?お姉ちゃん。


「あ、お姉ちゃん。この前、お向かいのおばちゃんからいただいた、いい匂いのするお茶。あれ飲みたい。先輩も飲みたいでしょ?お願い、お姉ちゃん。あのお茶、淹れてきて!」

ヒナコは、お姉ちゃんにそう言った。すると、お姉ちゃんは、ニコニコしながら

「もう、ヒナコはわがままなんだからぁ。じゃあ、お菓子もいっしょに持ってくるね。」

と言い、下のキッチンへ向かった。


 お姉ちゃんの部屋のドアがパタンと閉まった。

その瞬間、ヒナコは、先輩に抱きついて、いきなりキスをした。初めてのキスなのに、情熱的にヒナコは舌をからませたのだ。


「な、何を・・・!」

そう言いながらも、先輩は真っ赤な顔をしていた。

「お姉ちゃんはね、何でもヒナコに半分くれるんだよ。だから、先輩も半分もらうの。」

そう言いながら、ヒナコは、先輩を押し倒して、唇を奪った。


「ダ、ダメだよ。」

そう言いながらも、先輩の下半身は固くなっていた。

ヒナコは、そこに触れ、小悪魔のように笑った。


 お姉ちゃんが階段を昇る音を聞いて、慌てて先輩はヒナコを突き放した。

「お姉ちゃん、ありがとう。」

ヒナコは満面の笑みで、お姉ちゃんにお礼を言った。


 先輩は、難なくヒナコに落ちた。お姉ちゃんの携帯を盗み見て、先輩の電話番号とアドレスを知り、ヒナコと先輩は、お姉ちゃんの目を盗んで会うようになった。先輩は罪悪感を感じているようだった。何度も、こんなことは止めようとヒナコに言ったけど、ヒナコが先輩の言うことに耳を傾けるはずがない。


「ねえ、先輩。お姉ちゃんとは、まだ、してないんでしょ?やっぱり、女子高生より女子中学生のほうが、いいでしょ?」

そう言いながら、ベッドの上で先輩の上に乗った。先輩は気持ち良さそうに呻いた。


「男なんてチョロイ。ほんと、チョロイわ。」

ヒナコの動きに合わせて先輩が呻く。

「バカのくせにね。お姉ちゃんと、付き合おうだなんて。」

ヒナコは動きを止めずにそう口走ると、先輩は目を見開いた。

「お姉ちゃんはね、何でもヒナコに半分こしてくれる、優しいお姉ちゃんなんだよ。もしかしたら、ヒナコがこんなことしてるのも、知っているのかも。」

ウフフと笑うと、先輩はもっと大きく目を見開いた。


 ヒナコの長い黒髪が先輩の顔を覆う。ヒナコの右手がベッドの下に這う。

ヒナコは先輩の口をキスで塞ぎながら、右手に隠していた包丁を握る。

先輩の耳元で、ヒナコが囁く。


「私、何でもお姉ちゃんと半分こにしてきたの。でもね、一つだけ、

半分こにできない物があるわ。何か、知りたい?」

ヒナコは、先輩と鼻と鼻がつきそうなほどの至近距離で見つめる。


「な、なに?」

先輩が、ヒナコに聞く。

「それはね、お姉ちゃん自身だよ。お姉ちゃんはね、ぜーんぶヒナコの物!」

そう言うと同時に、鋭い切っ先が先輩の胸に突き刺さった。


一瞬何が起こったかわからずに、先輩は自分の胸を見て、同時に呻き声を上げた。

「うあぁあぁあ!」

先輩の口をキスで塞いで、切っ先をさらに奥に押し込む。

先輩の口からごぼりと生暖かい鉄の味のする物が逆流してきた。


ヒナコは真っ赤な唇で、それを先輩の下半身に吐き捨てた。

先輩はもう、しゃべることもできない。


血のついた口を、手の甲でぬぐうと、先輩の部屋のテーブルに置かれた携帯でお姉ちゃんにメールをする。


「好きな人ができた。俺とは別れてくれ。」

そうメールを打って送信し、血まみれの体を、シャワーで洗い、新しい服を身につける。


「さようなら、先輩。」

動かなくなった先輩に、そう声をかけると、ヒナコはタバコを吹かし、布団の上に投げ捨てた。


「ただいま!お姉ちゃん!」

ヒナコが元気にお姉ちゃんの部屋にはいると、案の定お姉ちゃんは元気がなかった。

「どうしたの?お姉ちゃん。」

ヒナコが心配そうな顔で覗く。


「ヒナコ、お姉ちゃん、振られちゃった。」

少しお姉ちゃんが涙ぐんでいる。

ヒナコはお姉ちゃんを抱きしめた。

「そうなんだ。先輩、見る目ないね。こんなに綺麗な優しいお姉ちゃんを振るなんて。お姉ちゃん、ヒナコがついてるからね。大丈夫だよ。」


ヒナコのジーンズの後ろポケットには、主を失った携帯に、

山ほどのお姉ちゃんからのメールが届いていた。

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