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すみません

「違うつってんだろ!この役立たずが!」

「すみません。それでは、この和食のお店はいかがでしょうか。」

ナビが店の名前と、おすすめメニューを口にする。

「バカ!そんなバカ高い店、行けるわけねえだろ。胃の調子がよくないんだよ!ファミレス以外で、安価で、あっさりしたもん食える店探せよ!」

「すみません。検索し直します。それでは〇〇うどん店はいかがでしょう?」

「バカか!このクソ暑いのにうどんだぁ?ふざけんなよ?」

「すみません。検索し直します。」

俺は車の中で、助手席に乗せた、ナビと話をしている。

便利になったとはいえ、機械ってのは融通のきかないもんだ。

こいつらはデーターだけで物を言う。

だけど、俺には無くてはならないものだ。俺は人と関わるのが苦手だ。苦手というより、人と関わるのが嫌いなのだ。


 一昔前までは、人が孤独死したり、猟奇的な殺人事件や誘拐事件などが起こると、何かといえばマスコミが「人間関係の希薄さゆえ」と決め付けてあらかじめ用意された言葉を雛形のように繰り返し続けてきた。

 

 それは間違いであると、俺は常々思っていた。人間はもって生まれた性格や障害があるのだと思う。たとえば、この俺だ。俺は、生まれてこの方、人をかわいそうだと思ったこともなければ、優しくしたいと思ったことも無い。幼い頃からそういう感情が無いのだ。虫を残虐に殺せば女子からかわいそうだと言われ、使ったものを元に戻さず放置していると、次に使う人のことを考えたことがあるの?と先生に注意されたりした。俺は、その度に何故と疑問に思った。表面の言葉上では理解できるのだが、その心理というものは全く理解できなかった。だから俺は今まで、人に注意されるからそれをしない。悪いことだという意識が全く無いのだ。

 

 だから事件があるたびに、もしかしたらこいつは俺と同じ性質のヤツなのかもしれない。そういう感情しかわかなかった。だから人と関わるのは苦手だった。


 俺がナビを買ったのは、人と関わらないためだ。俺は一度、嫁をもらったことがある。親がどうしてもとすすめてお見合いをし、いい年なんだからと、結婚をすすめられたからだ。俺も人並みに表面上の言葉では理解できるのだが、その結婚生活は地獄だった。親ですら関わるのが苦手な俺が、赤の他人と住む。俺は全ての無駄が嫌いだ。ところが女という生き物は無駄を好む。やれ、愛してるかとか好きかとか、この服買ったの、似合う?だとか。そんなものは自分で決めればいい。俺を巻き込むのが不思議でたまらなかった。俺と女は水と油。どこまで行っても相容れずに、俺はだんだんと、彼女に罵声を浴びせるようになった。それからほどなくして離婚。離婚した時は開放感から心底ほっとした。


 だが、両親が亡くなってからは、いくら一人が良いとは言っても、なかなか不便なものはあった。仕事が忙しい時には、やはり家事は溜まって行くし、家は散らかり放題にはなって行く。


 そこで俺は、思い切ってナビロボを購入したのだ。ドライブにいっしょに連れて行けばナビにもなるし、いろんなシーンでナビゲートしてくれるし、プログラムしておけば、必要最低限の家事をこなしてくれる。まあ家事とは言っても料理までは安全上の理由で、できないようになっているのだけど。掃除、洗濯くらいだ。それでも俺にとっては助かった。何よりも一番良いところは、人間のように感情がないので、ダメ出しをしてもいちいち、拗ねたり泣いたりしないところだ。指摘するとすぐに

「すみません。やり直します。」

と素直に応じてくれる所だった。元嫁よりよほども楽だった。


「やっぱ気が変わった。海鮮丼食べたくなった。海へ行こう。疲れたから運転してくれ。」

俺は運転をナビと変わった。

「どこの海にしましょうか。」

ナビが俺に聞いてきた。

「それを調べるのがお前の仕事だろうが。バカ。一を言えば十を悟れよ。海鮮丼が食べられる、海辺だよ。ったく。使えねえな。」

「すみません。検索します。」

そう言うとナビは検索を始めた。

運転の方は、ナビに任せておけば安心だ。俺は目的地に着くまでひと寝入りすることにした。


 しばらくして、俺が目を覚ましてみると、まだ車の中だった。いい加減、日が傾いてきた。

「おい、どこに向かってんだよ。もう夕方じゃねえか。いったいあれから何時間経った?」

俺がナビに聞くと、

「2時間程度です。」

としれっと答えた。

「はぁ?なんで2時間も!お前、どこ行く気だよ。」

俺がそう言うと、

「海鮮丼が食べられて、海辺と仰られたので築地です。」

と答えた。

「バカか!他にもあるだろうがよ!近場で。この役立たずが!」

俺はあまりに腹が立ったので、思わずナビのわき腹に蹴りを入れた。


 すると、ナビの中から「プツン」という音がした。しばらく静寂があり、突然ナビが怒涛のように言葉を吐き出した。

「すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、・・・・」

 しまった。やりすぎた。壊れたのか。

俺はヤバイと思い、運転を変わろうとした。ところが、がっちりとハンドルをつかんで離さない。

「おい、運転をかわれ!車を止めろ!」

「すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、すみません、・・・・」

連呼しながら、ナビは車を加速させる。

カーブに差し掛かった。危ないぶつかる!

俺は、ハンドルを切ろうとしたが、ナビががっちり掴んでいて、ハンドルを切れない。

「バカ、よせ!このままだと!」

車はガードレールに突進し、ガードレールが大破、海へとダイブした。


ナビが一瞬こっちを向いた。

そして、信じられない言葉を発した。


「ざまあみろ。」



           ***

【注意】ごくまれに、当社のナビロボは高性能のため、感情を持ってしまう場合があります。その際は、首の後ろのボタンを押してください。工場出荷時の状態に初期化されます。


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