蝉と夏休み
シモネタあり
俺の夏休みが来た。
今日から時間は全て俺の中にある。
そんな気さえしてきた。宿題という煩わしさがなければ、もっと最高の物になるだろう。
さぁ、何をしよう。プールや海に行きたい。朝早くにラジオ体操が終わった後、山へカブトムシをとりに行くのもいい。適当にラジオ体操をしながら、今日の予定についていろいろと計画を練っていた。ラジオ体操が終わり、俺はいちばんの親友に持ちかけてみた。
「おい、カブトムシとりにいかねえか?俺、すっげえとれる木を知ってるんだ。」
俺が目を爛々と光らせてそう言うと、親友の返事はそっけないものだった。
「俺、宿題やらなきゃ。朝涼しいうちにやりなさい、って母ちゃんがうるせーんだよ。だから行かない。」
そう言うと、すたすたと自宅へ帰ろうとした。
「えー、いいじゃん。朝ちょっとだけだよ。どうせカブトムシなんて、朝一しかいねえよ。暑くなったら、あいつらもどっか涼しいとこいっちゃうんだよ。今とらなくていつとるの?今でしょ!」
俺がしつこく食い下がると、親友は迷惑そうな顔をした。
「そんなに母ちゃんが怖いのかよ!」
俺がそう言うと
「怖いよ?悪いかよ。」
と言い残し、帰っていってしまった。
ふん、腰抜けめ。いいよ、俺一人で遊ぶから。
とは言っても、一人で山の中入っていっても楽しくないな。
ああいうものは、友人と騒ぎながらとるのが楽しいのだ。
俺は仕方なく自宅の玄関に立てかけてある、虫取り網を持って一人でまた公園に向かった。
まったく、朝からわしわしとうるせえんだよ。
木に止まったせみを見つめながら一人ごちた。
お前らのおかげで体感温度が2度は上がるわ。
俺は、そーっと近づき、すばやく網を被せた。
ジジジジジッ!
蝉が網の中で暴れている。
ざまあみろ。俺は、その不気味に鳴り響く生き物を手で羽の部分からつかみ、裏返してみる。
お腹の部分が細かく振動し、ジジジジッっと繰り返し鳴りつづけている。
六本の足をめちゃくちゃにバタつかせながらもがいている姿を見ると俺は実にサディスティックな気分になった。
「きもっ。クソ虫が。」
そう言いながら、虫かごに放り込んだ。
諦めの悪い蝉はジジジジとしつこく鳴き続けていた。
すぐに暑くなってきたので、俺は仕方なく家へ帰った。
家に帰るともう母ちゃんはパートにでかけて居なかった。
まさに、パラダイス!ここは今日一日俺の王国だ。
すぐさま、22度設定でクーラーを入れてリビングをキンキンに冷やす。カルピス、カルピス!どんなに濃くしても、鬼の居ぬ間のなんとやらだ。やれ30度設定の省エネモードで2時間だけだとか、カルピスは四分の一以下だとかイチイチ母ちゃんはうるさい。
ベランダに出した虫かごは、まだジジジジ言ってる。
もう諦めろ。お前は俺様の奴隷だ。わはは。
部屋も冷えてきたことだし、パスワードのかかってない母ちゃんのパソコンで遊ぶか。ゲームもよかったけど、やっぱモンハンはみんなでやったほうが楽しい。午後からタイチでも誘ってみよう。どうせ、みんな朝はママの言うことを聞いてよい子にしてるんだろ?その点、俺んちみたいに母ちゃんが働いてたら夏休みはパラダイスだぜ。
母ちゃんの居ない隙に、パソコンでエッチなサイトを見るのだ。
俺はドキドキしながら、検索を入れる。すると山ほどのエッチな画像や動画がヒットした。オナニーのやり方は、以前こっそり見た動画でチェック済みだ。しかし、大人のアレってなんであんなにキモいんだろ。俺のもあんなになっちゃうのかな。まだ毛も生えてない自分の下半身を覗いた。エッチな画像を見ながらオナニーをした。前に何も用意していなくて、ヤバイことになったから、ティッシュも用意して用意万端だ。最初はすごく罪悪感があったけど、もう今となっては一ミリもない。これは健康で正常な男の子として当たり前の行為なんだ。そう思うと吹っ切れた。
ことが終わると、俺は急に眠くなって来た。
そのまま、ソファーでごろんと横になって、二度寝に入ったのだ。
「よぉ、そこの、オナニー小僧。起きろ。」
俺は寝ぼけ眼でそう呼ばれ、薄っすらと目をあけた。
視界がはっきりしてきて、俺はソファーから飛び上がるほど驚いた。
巨大な蝉が、ソファの前に立って、俺を見下ろしているのだ。
「ぎゃっ!」
俺が叫び声をあげると、蝉はジジッと鳴き
「ぎゃっ!じゃねえんだよ。このガキ。俺を解放しろ。」
と要求してきた。
俺は怖くて何も言えなくて口をぱくぱくさせた。
蝉がわざとらしくふぅーっと溜息をつき
「あのなぁ、俺たちは何年も何年も土の中でグロい姿で生きてきて、やっと7年目にして大人デビューするんだ。俺は昨日大人デビューしたばかりだったんだ。それをお前みたいなバカガキに捕まってしまった。お前はいいよなあ。これから先、何十年も生きて、セックスできるチャンスはいくらでもあるんだよなぁ。俺は7年じっと土の中で生きてやっとセックスできるって思ったらこのざまだよ。7年生きてチャンスは7日だ。もうこのさいさ、なんでもいいよ。お前、セックスさせろよ。な?いいだろ?」
蝉はそう言いながら、六本の足をわしゃわしゃさせながら、俺に覆いかぶさってきた。
「うわあぁぁ!やめろぉ〜!俺、男だってばぁ〜!」
俺は随分と的外れな叫び声を上げた。
それ以前の問題だろ。
がばっとソファから起き上がった。
キンキンに冷やした部屋にもかかわらず、俺は汗びっしょりになっていた。
ベランダで蝉がジジジッと鳴いた。
俺は慌てて、ベランダに出て、虫かごの中の蝉を放した。
蝉はジジジッっと鳴いて、俺の顔に冷たい物を浴びせかけて逃げていった。