夏の匂い
夏というものは、全ての緑を暴力的に伸ばす。
草はどこにでもはびこる。ちょっとした、アスファルトの隙間、外壁、油断していれば道すら飲み込んでしまうのだ。きっと人類やその他の動物が滅びても、草だけは青々とかわらずこの星を飲み込む。
そして、私の家の庭は、お隣の荒れ放題の庭の草に襲われようとしている。私がいくら、家の庭の草引きをして、庭を綺麗にしても、お隣のブロック塀をはるかに越えた丈の草がはびこってくる。ツル科の雑草がわさわさと、我が家の庭にはびこってくるのだ。こればかりはお隣に苦情も言えない。だから、私は定期的に伸びてくる草を剪定ばさみで切り、こちらに伸びないようにしているのだ。
まったく。あれだけ庭に雑草が生え放題で気にならないのかしら。家は、雑草に覆われ鬱蒼として中をうかがい知る事はできない。確か、お隣は老夫婦で住んでいたのだけど、お爺さんが一昨年亡くなって、それから雑草が生え放題になってきたようだ。全部、ご主人が手入れしていたのだなと思った。
そして、ある日、お隣のお婆さんが血相を変えて我が家にたずねてきたのだ。
「私の草を切ったでしょ!あなた!」
そう私に怒鳴るのだ。私は何故怒鳴られるのかがわからずに、こちらだって、ずっと遠慮していた感情が爆発した。
「だって、お宅から雑草が伸び放題だから。こちらにはみ出して迷惑だから切ってるんじゃないですか。お庭、きちんとされたらどうです?」
私がそう言い返すと、ますますお婆さんはヒートアップした。
「人の草を勝手に切って、よくそんなことが言えるわね!あれは生やしてるのよ!外から覗かれないようにね!最近は物騒だからねえ。いつ泥棒が入るかわからないじゃない?中のお金のありかをどこから覗かれてるかわからないからねえ。」
「わ、私が覗きをしてるとでも言うんですか?失礼な!それに、荒れ放題だと逆効果なんじゃないですか?泥棒が隠れる場所が増えて。」
「とにかく、勝手に私の草を切らないでちょうだい。いいわね?」
お婆さんはそう言い捨てると、自宅へ帰って行った。
何よ、人を泥棒あつかいして!私は腹が立ってしかたがなかった。
そうこうしているうちにも、草はどんどん伸びる。お婆さんが留守の間に切ればバレないわ。私は切るなと言われても、留守を狙って、草をどんどん切って行った。
今日は多めに切っておこう。夏場は草が伸びるのは早いから。草の長さをはかってるわけじゃないからバレないでしょ。そう思い、剪定ばさみでどんどん切っていくと、ひまわりが咲いているのが見えた。咲いている、というより枯れ始めている。その周りの草が毎日毎日、こちらに伸びてくる。ここだけ伸びるの早くない?そう思いながらも、定期的にその場所を草刈りした。
そして、ある日、私は草の間から真っ黒な人影を見たような気がして、腰を抜かしてしまった。よく見ると、それは、真っ黒に枯れたひまわりだった。びっくりした。人かと思った。私は、胸をなでおろした。すると風で真っ黒なひまわりの枯れた花の部分がこちらを向いた。
私は心臓が口から飛び出そうなほど驚いた。
そのひまわりの中心に、真っ黒な人の顔が覗いていたのだ。
その顔は、一昨年死んだ、お隣のお爺さんの顔だった。
私の意識は、夏の草の匂いに飲み込まれた。




