表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
304/313

えにっき

夕立の中、わざわざ車を飛ばして山へ向かうには理由があった。

 家を出る前に、庭にすくすくと育ったひまわりは、大きくなり過ぎたゾンビのような頭を抱えて雨に打たれながらこちらを見ている気がして、私は慌てて目を反らす。

 そんなはずはない。ハンドルを握る手は汗ばんで、ハンドル操作を誤りそうだった。

「7月28日、今日はおばあちゃんちで、すいかをたべました。おばあちゃんちでなったスイカはとてもあまくておいしかったです。でもかにさされました。」

「8月1日、今日は花火大会に行きました。花火の音はすごく大きくて僕はびっくりしたけど、すごくきれいでした。でも、かにたくさんさされてかゆいです。」

「8月3日、学校から持ってかえったひまわりの花のつぼみができました。さくのが楽しみです。ぼくは、ひまわりのかんさつを自由けんきゅうにしようと思います。でもかにさされてかゆいです。」

されるはずもない絵日記の更新。それは確かに息子の幼い筆跡であった。

それを見つけたのは、夏休みも終わりに近づいた、昨日のことだった。

この子さえいなければ。

何度となく思ったことだった。だから私は、初夏のうだるような暑さの中、睡眠導入剤を混ぜた飲み物を我が子に与え、車内に放置したのだ。

「ガキが居るなんて聞いてねえ。お前とはお別れだ。」

彼のその言葉に私は焦燥感にかられた。彼は私を愛してくれていて、子供が居ても結婚してくれると信じていた。

確かにあの子は目を開けなかったから、あの山中に埋めたのだ。

まさか、生きてるなんてことはないはず。

息子を埋めた場所に着いた。

私は恐る恐るその場に立つと、息子の声が聞えて来た。

「かゆいよ、ママ。からだがかゆいよ。」

耳を塞ぐ。

「いっぱい虫がいるんだ。ここはいやだよ。」

脳内に響く幼い声。

「やめて!」

膝から崩れ落ち耳を塞ぐ。

すると、土の中から小さな腐った手が私の手を掴んだ。

そして、小さく土が盛り上がると、無数の甲虫がはい出して来た。

その甲虫がはい出したあとにぽっかりと穴があき、息子の顔が覗き、唇が動く。

「ママ・・・」

私は慌てて車に戻り、急発進させた。

さきほど掴まれた手は濡れた土にまみれていて、ハンドル操作を誤った。

そして、静かに車体は谷底へと吸い込まれて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ