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400字小説「帰郷」
渋滞とは無縁の新幹線での移動は快適だった。
鎌倉の紫陽花はすでにゾンビのような頭を抱えて、夏を待っている。
ラジオからは季節外れの桜が流れて思わずイヤホンを外した。
卒業の苦い思い出が喉元までせりあがる。
君はあの初詣で何を願ったのか。俺の未来には確かに君が存在した。
イルミネーションは俺の煩悩を笑った。
君の声が聞きたい。笑顔を見たい。
叶わぬ思いが押し寄せた。どうして俺は彼女を裏切ってしまったのか。
お帰りと声がした。
振り向いた俺の胸を彼女が突いた。
あるはずの無い笑顔がそこにはあった。
願いは叶った。
命と引き換えに。