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奪還

「キャアーッ」


 扉の向こうで彼女の悲鳴が聞こえた。

俺は焦った。早く、この扉を開けて彼女を助けなければ。

彼女は、この部屋に監禁されているのだ。あの男によって。

やっとこのアジトを突き止めた俺は、何の策も無く、ただバール一本でこのドアを壊して立ち向かおうというのだから無謀なことは百も承知だ。しかし、一刻も早く彼女を助け出さなくては、彼女はまた、あの地獄のような国に連れ戻されてしまうのだ。


 彼女の名は、カノン。某国の王女になる予定だった。いわゆる政略結婚というヤツだ。

彼女と俺は、まるで兄妹のように育てられた。生まれてすぐに、城の門の所に捨てられていた俺を、慈悲深い王は俺を引き取って育ててくれたのだ。しばらくして、カノンが生まれ、俺はカノンの世話係を命じられたが、一つも苦にはならなかった。何故ならカノンは天使のように可愛い女の子だったからだ。


 某国とは言ってもその国は、今現在、俺たちが居るこの世界ではない。世界はいくつも平行して成り立っており、所謂、異世界から俺たちは、逃れてきたのだ。平和だった国も、隣国から攻め入られ、負けてしまったわが国は乗っ取られ、卑怯にも王子の妃に、カノンを差し出せば、これ以上の犠牲者を出さないと、隣の国王は取引を持ち出してきたのだ。わが国の王は苦渋の決断をした。これ以上、この国の犠牲者を出すわけには行かないと、泣く泣くカノンを嫁に出す決意をしたのだ。


 俺たちは、兄妹のように育ってきたが、いつしか惹かれあうようになっていた。絶対に、カノンを相手国に渡すわけにはいかない。結婚式の前日、俺はカノンと共に、城を逃げ出した。


 カノンには不思議な力があった。隣国の王はそれに気付いていたのだ。その力を得たいがために、カノンを王子の嫁にして、その力を利用しようとしていたのだ。そして、俺とカノンは、彼女の力により、この世界に逃げおおせることができた。こちらの世界に来た俺とカノンは、しばらく身を潜めて、それなりに二人で幸せに暮していた。ところが、あちらにも術者が存在しており、その術者によって、カノンを追ってあちらの世界から、王子が乗り込んで来たのだ。


 俺が油断している隙をついて、彼女は王子と従者である術者により連れ去られてしまったのだ。俺もあちらの世界ではそれなりに、能力を持っていて、カノンと共にここに逃れてくるだけの力は持っていたのだが、こちらの世界では、あちらの能力は無効だ。俺はこちらでは、ただの人間。相手は何人もの従者を連れており、力の差は歴然だった。


「カノン!今助ける!」

俺は力の限り、バールをドアノブに振り下ろすと、ドアノブは壊れて落ちた。

俺は思いっきりドアを開けた。


「キャア!いやあ!助けてっ!」

「カノン、早く!こっちに来い!」

カノンは真っ青な顔で、首を横に振った。


「馬鹿なことはやめろ!」

その声は、憎むべき隣国の王子、レオンだった。

「どっちが馬鹿だ!カノンを返せ!」

俺は怒鳴った。

「カノンが怖がってるだろ!」

レオンが叫ぶと、カノンはレオンの後ろに隠れた。


くっ!卑怯な。術者によって、カノンは心を操られてしまったのか。

俺たちの能力はこちらでは無効のはずなのに、どうやって彼女を幻術で惑わせたのか。

「カノン!目を覚ませ!俺だ!リクだ!」

俺は必死にカノンに問いかける。しかし、カノンは震えて首を横に振るばかりだった。

畜生!せっかく奴らのアジトを突き止めて助けにきたというのに!

俺はバールを振り上げ、強行手段に出た。

レオンを殺す!そして、カノンを取り戻す。こちらに取り戻してしまえば、彼女を惑わせている術は解けるはずだ。


「やあーーーーーー!」

俺は奇声とともに、突進して行った。振り上げたバールは、空を切り、アジトの床にめり込んでしまった。

チッ、外したか。レオンは寸でのところで、俺のバールをかわしたのだ。

バールが床にめり込んで抜けない。その隙に、レオンは卑怯にもこの世界のスマホという連絡手段で援軍を呼んだのだ。


「大人しくしなさい!」

その援軍は叫びながら、突入してきた。

バールを抜いて再びレオンに襲い掛かろうとした俺は、その援軍の従者によって、羽交い絞めにされた。

「確保!」

従者は叫び、俺は床にねじ伏せられた。

ああ、今回も、カノン奪回に失敗した。

俺は、この従者に捕まり、この世界の白と黒の不思議な金属でできた乗り物に乗せられて連れて行かれるのか。


「カノン!絶対に助けるからな!俺は諦めない!」

俺は両腕を二人のレオンの従者によって掴まれ乗り物に乗せられるまで、叫び続けた。

カノンが不安そうにこちらを見ている。大丈夫だ。

前回の奪還の時も、失敗してこの乗り物に乗せられ、鉄格子のはまった部屋に放り込まれ、おそらくレオンの従者である者に根ほり葉ほり、あること無いことでっちあげられ、この世界で裁きを受けされられた上に、今度は白い壁に囲まれた部屋にしばらく監禁されたのだ。大丈夫だ。

この部屋を出る方法は前回で学習済だ。

いくら俺が、異世界から政略結婚を阻止すべく、恋人のカノンと逃亡してきたと説明しても無駄だとわかったのだ。早くカノンを助けるには、まず、この施設を出なければならない。

この施設はこちらの世界では病院という施設らしく、ここでは大人しくしていれば、解放してくれることがわかったのだ。

俺は、これから一芝居打って、早くここを出なければならない。

待ってろ、カノン、すぐ助けるからな。


********************


ええ、私と陸君と怜音君は幼馴染でした。

幼稚園の頃からです。

私が陸君の恋人で、怜音君と三角関係では無いかですって?

とんでもないです。

それは、確かに、幼稚園の頃、陸君にお嫁さんにしてねなんて言った事はあります。

でも、それって幼稚園くらいの女の子なら誰だってあることでしょう?

でも陸君は、純粋にそれを信じていました。

中学生になった時に、陸君に告白されたときには驚きました。

だって、私は、陸君には幼馴染以上の感情は持ち合わせてなくて、お断りしたんです。

確かに、陸君は幼稚園の頃は可愛い男の子だったけど、今はあの通りですし。

160cmで85kgもあるんですよ。はっきり言ってデブだし、ぜんぜんタイプじゃないです。

私が怜音君と付き合うようになった頃から、陸君は学校に来なくなりました。

まあ、学校でも、体型をネタに結構苛められてましたからね。

気の毒だけど、仕方ないです。

まさか、陸君が引き籠もってあんな妄想に浸っていたなんて。

異世界のお話は好きみたいです。陸君の家に行ったことのある人から聞いたところ、部屋の壁がそういう本で埋め尽くされてるそうです。

私、前回も彼からストーカー行為を受けて、もう実家には居られないから、怜音君のアパートで一緒に暮してたんです。まさか、彼が医療刑務所から出所してるとは思わなくて。

あいつ、正常に戻った芝居をして、家に謝りに来たんです。土下座までしたらしいですよ。

うちの親も、元々家族ぐるみの付き合いをしていたから、信じてしまって。

私に謝りたいからって、居場所を聞き出したみたいなんです。

ねえ、またアイツ、精神鑑定で正常だと判定されたら、出てくるんですよね?

私、怖いんです。

何とかなりませんか?

お願いします。

アイツを外に出さないでください!

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