表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/313

おにいちゃん リターンズ ~アンデッド~ ①

【お兄ちゃん】http://ncode.syosetu.com/n2837cb/75/

こちらのお話の続きになります。

あの凄惨な事件から3年が経った。

私は、晴れて今年の4月から大学生。


あの事件の日も、こんな薄曇の寒い日だった。

あの年、お兄ちゃんは死んだ。

体の弱かったお兄ちゃんは人生の大半、入退院を繰り返し、とうとう16年の短い生涯を閉じたのだ。

ところが当時、新興宗教にはまっていた両親は、お兄ちゃんの死体をいつまでも家に置いておいた。

お兄ちゃんは蘇るのだと言うのだ。バカバカしいと思っていた私だが、本当にお兄ちゃんは蘇ってしまった。

腐った肉体のまま。

そして、あの夜の悲劇が起こった。

お兄ちゃんは両親を喰らい、私は命からがら逃げ出したのだ。

その日から、お兄ちゃんは依然行方不明。

当然、蘇ると信じていた両親はお兄ちゃんの死亡届など出しているはずもなく、お兄ちゃんは指名手配された。


家族を失った私は、叔父の家に預けられ、凄惨な事件に遭った私を大事に育ててくれた。

大学にまで行かせてくれた叔父夫婦には、感謝してもしきれない。

しっかりと勉強して、恩返ししなくては。

時々、フラッシュバックする。

エプロンを血まみれにして、お兄ちゃんに食いちぎられた母。

腸を引きずり出された父。

必死にぎゅっと目をつぶり耐えた。

何より、蘇ったものがお兄ちゃんではないかも知れない恐怖に打ち震えた。

どこかで生きているのだろうか。いったん死んでいるから、生きているという言葉がふさわしいのかすら疑問だ。


「ねえ、かおり、これ、行ってみない?」

同じ学部のゆいが話しかけてきた。

「気功で必ず痩せられる~ゆるやかな動きの太極拳を中心とした運動、呼吸法によって健康的にダイエットしましょう。~」

そう銘打ったチラシを私に見せてきた。

「ええ~、なんか胡散臭い。」

「そんなことないって。ほら、まゆっているじゃん?あの、ちょっと太めだった子。」

「ああ、ゆいの友達の?」

「そそ、あの子、このセミナーに行きだして、すっごく痩せたし綺麗になったんだよ?」

「そういえば、最近、すごく変わったね。何か雰囲気も大人びた感じ。」

というよりは、無表情になったような気がする。

「そそ。やっぱ綺麗になると、仕草も変わってきちゃうのかなあ。ああ、私も綺麗になりたい!ね、見学だけでも、一緒に行こうよ~。」

私は気が進まなかった。新興宗教ではないが、こういった胡散臭い団体にはウンザリしているのだ。

うちの両親があんな新興宗教になど、ハマらなかったら。

お兄ちゃんは今頃、火葬されてお墓の中で安らかに眠っていたのかもしれない。

ゾンビとして蘇ったお兄ちゃんが両親を殺し、今も行方不明。

このことは、誰にも話していない。

「一人だけじゃあ心細いんだよ。ね、おねがーい。かおりちゃん!」

私の前で手を合わせて懇願するゆいに根負けしてしまった。

「一回だけだよ?」

そう答えてしまった。

「やったー!かおりちゃん、優しい!大好き!」

ゆいが抱きついてきたので、苦笑した。


もうあの団体は解散して存在しないのだ。うちの家族を破滅に導いたあの教団。

あの教団の中で、食人が行われていたのではないかという噂がたち、警察の強制捜査が入り、実際に食人が行われていたことが判明し、教祖はどこかへ逃亡、幹部は全て逮捕され、教団は解体されたのだ。


今もお兄ちゃんが蘇ったことは信じられない。

あの教団は、危険だ。教祖は人間ではないかもしれない。

これは、私がいつも思っていたことだ。

人を蘇らせることだできる人間など、居るはずがない。あの教祖が、復活祭と称したお兄ちゃんのお葬式のときに、お兄ちゃんの死体に何かしたに違いないのだ。

悪魔。私の脳裏にその二文字がよぎる。


土曜日の午後、私はゆいといっしょに、気功セミナーなる怪しげな集会に参加していた。

確かに、気功に関する、いろんなことを学び、ゆったりとした動きの体操をさせられた。

ゆったりとした動きのわりに、わりと薄ら汗をかくので、これはダイエットになるかもしれないというのは頷けた。

その体操が終わったあとに、講義が行われるという。

やはり、こちらが目的か。私は、もうこれっきりここに来ることはないだろう。

休憩をはさんで、講師と助手と思われる人間が講堂に入ってきた。


私はその、助手の姿を見て、驚いた。


「お、お兄ちゃん?」

私は思わず叫んでしまった。皆の注目を浴びた。

その助手はまさに、3年前両親を食いちぎり、腐った肉体のまま行方不明になったお兄ちゃんだった。

だが、逃亡時のような、腐った肉体ではない。

生きていた頃のままの完全体のお兄ちゃんだった。

立ち上がった私を、お兄ちゃんは不思議そうな顔で見た。

「どこかで、お会いしましたか?」

お兄ちゃんとまったく同じ顔のその青年は私に向かって答えた。

他人の空似なのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ