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D物の森

俺は以前より、N天堂のゲームが好きで、今まで出てきたゲーム機はすべて網羅してきた。


 このたびN天堂より、ARゴーグルが発売された。

俺がこれに飛びつかないわけがない。発売日、徹夜して並び、一番にそのゲーム機を手にした。

ARゴーグルに対応したゲーム機も必然と出るわけで、これがセットでないと遊べない。

なかなか阿漕な商売である。


 俺は人間関係が苦手だ。なるべくなら、人と関わらずに生活して行きたいのだが、そうもいかない。学校、

職場、そして家族とすら、私は折り合いをつけることが難しかった。どうして人間に生まれてしまったのだろう。感情が人として生き辛い。ネットでゲームをしていても、やはりオンラインゲームともなると人間関係が生じてきて辛くなったので、もっぱらオフラインのゲームに興じるようになった。


 できれば人とうまくやっていきたいとは思う。だけど、思えば思うほどうまくいかない自分が腹立たしかった。そんな時に出会ったのが、N天堂の「D物の森」だ。D物の森は、村人がすべて動物であり、木の実を獲ったり、魚釣りをしたりして売りさばいて日銭を稼ぎ、そのお金で必要な物を、たぬきの経営する商店やデパートで買い物をして暮らすという、まさに自給自足の理想郷である。しかも、木の実は、獲っても3日で実がなるので、本物の農業のような苦労は一切いらない。しかも、虫も貴重な収入源になる。何よりも、可愛い動物達とのふれあいが楽しい。動物たちは、人間のように、嫌味を言ってこないし非常に素直だ。


 俺が今回、ARゴーグルと新ゲーム機をどうしても購入したかった理由は、対応のゲーム第一弾が「D物の森」だったからというのもある。実際に本当に自分が等身大で村に住み、可愛い動物達と同じ村に暮らせるのだ。最高ではないか。今回は、リアリティーを表現するために、動物達も個性的だというのでますます楽しみだ。動物たちは、俺の嗜好をインターネットにつなぐことにより学び、より俺に近しい存在になるのだ。


 俺はワクワクしながら、新ゲーム機の設定をし、ARゴーグルをつけると、「D物の森」を始める。

村の名前は何にしよう。願いを込めて「ほのぼの村」にしよう。きっと、俺はこの村で文字通りほのぼのライフを満喫するのだ。お決まりの、駅に着くと、村長の亀さんが出迎えてくれた。俺はぎょっとした。3Dということは知っていたが、もっともっとリアルで本物の亀のようだった。直立した亀。かなり不気味だったが、村長に挨拶をしないことには、はじまらない。村長に挨拶をすると、土地と家をもらえた。楽勝だ。一応、人間界のようにローンを組むわけだけど、ここは人間界のように、労せずして、木をゆするだけで実が落ちてきて、その実を植えると、また実が三日程度で生えてくるので、すぐにローンなど返せる。


 村を歩くと、すぐに動物達に出逢った。カバ、キリン、ゾウ。どれをとっても同じサイズで、これまたリアル動物なのには驚いた。確か、ゲーム雑誌で紹介されていた画像は、可愛い動物達だったのに。はっきり言って、どれも等身大のリアル動物はキモい。俺は、ゴーグルを外すと、本当にN天堂の「D物の森」か確認した。確かに、これはN天堂の商品だ。まあいいか。動物達は、俺に好意的に接してくれているし。


 しばらく村に住んでいると、仲良くなった動物達が家を訪ねてくるようになった。最初は嬉しかったのだが、だんだんとそれが疎ましくなってきた。俺は、ついに「今日は帰ってくれ」とキリンに告げると、「えー?なんでえ?キリンのこと、嫌いになっちゃったのお?」とまるで彼女のような馴れ馴れしさで語りかけてきた。ウザいと思った。だけど、「今日は体調が悪いんだ。ごめんね。」と言って追い払うと、キリンはシブシブ帰って行った。

 それからも、ゾウが木の実をくれと言ったり、カバが人の家に上がりこんできて、家具をよこせと言ったりしてきた。なんて図々しい奴らなんだと思った。しかも、こいつらときたら、人にねだるだけねだって、自分からは何も提供しようとしない。俺はギブ&ギブのこの村にウンザリしてきた。せっかく疎ましい人間関係から逃れて、仮想現実を楽しもうとしていたのに、これでは人間界と同じではないか。もうこのゲームはリセットしよう、とそう思った時に、俺の目の前に、ある選択肢が浮かんだ。


 俺はリセットしますか、の横の選択肢にはっと息を飲んでしまった。


「村人を殺しますか?」


嘘だろう?子供も使うゲームにそんな選択肢を入れるわけがない。

そうは思いながらも、俺は恐る恐る、その村人を殺す選択肢の「はい」を選択してみたのだ。

すると、俺の目の前に、武器の選択肢が浮かんだ。

「ショットガン」

「ボーガン」

「大剣」

「スラッシュアックス」

「ハンマー」

俺は、ショットガンを選択した。


キリンが川の向こうを歩いている。目があって、微笑みながらキリンが駆け寄ってきた。

「バンッ」

俺は引き金を引くと、キリンに命中して、川に落ちてすぐに血の川になった。

俺は、異常な興奮を覚えた。

今度はハンマーを選択する。

そして、家から出てきた、ゾウの頭をめがけて、思いっきり振り下ろす。

ゾウの頭が地面にめり込んだ。まるでアニメみたいにゾウの頭がつぶれたので大笑いした。

「次は、何にしよーかなああああ。」

俺は、Mハンターではスラッシュアックスが一番好きな武器だったので、最後はそれで行こうと思った。

大きなスラッシュアックスだが重さは微塵も感じない。だってこれはバーチャルなんだから。

俺は、カバが川で釣りをしている、後ろからいきなり切りつけると、カバの首だけが、川に落ちて、どんぶらこと流れていく様子を大笑いしながら見ていた。

これで全員死んだ。

煩わしいやつらは、全員俺が殺してやったのだ。

さあ、今度はまともなやつらが来てくれよ。


俺は次の住人が引越してくるのを待った。

猿、犬、猫、ねずみ。いろんな動物がこれまた俺と同じ等身大の妙なリアルな姿で越して来たが、どいつもこいつも低脳であつかましいやつらばかりで、俺はほとほと頭にきて、どんどんぶっ殺してやった。

「あーーーもう!まともなやつはこねえのかよ!」

俺は一人になった村で銃を乱射して、村を破壊しまくった。

緑と水で溢れていた村はあっという間に、木々は焼けただれ、川は毎日殺戮される動物の血で赤く染まった。

そして、誰も村には越してこなくなった。

マジかよ。ゲームの動物、全滅とかありえねえ。

クソゲーだな、本当に。

N天堂も地に堕ちた。こんなゲームリセットするわ。

俺はリセットボタンを選択しようと、ARゴーグルの視点をメニューに合わせた。

メニューのどこにもリセットボタンが見当たらない。

は?なんで?これってバグだろう。

ちくしょう。N天堂に抗議しなくちゃ。

俺はゴーグルを頭から外そうとした。脱げない。

俺は必死でゴーグルを引っ張ってみたが、ゴーグルがまるで皮膚の一部になったかのように、外そうとすると、激痛が走って外れない。

「嘘だろう!」

いくらもがいても、外れなかった。

そして、メニューが立ち上がって、ようやく「リセットしますか?」の表示が出たので、俺は「はい」を選択したところで意識がブラックアウトした。


「おにいちゃん、ご飯だよ、おにいちゃん?入るよ?」

少女は仕方なく、兄の足の踏み場も無いほど散らかった部屋に足を踏み入れた。

「うええ、もう、汚い。おにいちゃん、いないじゃん。あれ?これ!N天堂のARゴーグルじゃん!しかもD物の森まである!」

少女は兄の部屋でD物の森のソフトを立ち上げ、ARゴーグルを装着した。

「お兄ちゃん!」

焼け野原と川を流れる真っ赤な血なまぐさい水。

そこに建つ見事な豪邸の前で空虚な目で倒れている兄を見つけた。

少女はARゴーグルを外した。


「どうやったらこんな村になるんだろ・・・。」

そう呟くとクスクスと笑った。


「おかあさん、おにいちゃん、どこかに出かけちゃったみたいだから、ご飯いらないんじゃない?」

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