表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/313

待合室

今日こそは一番乗りだろうと、来てみればすでに、待合は大勢の人でごった返していた。

フウと溜息をつき、やれやれ長くなりそうだと、座る場所を探してキョロキョロしていると、見知った顔が満面の笑顔で手招きをしていた。

「こっちこっち、山田さん。」

そう言いながら、田中さんが、自分の横に置いたバッグを膝に抱えて、長椅子を叩いた。

「座りぃ、座りぃ。」

「早いねえ、田中さん。どうな、調子は。」

「ようならんよ。全くだめじゃ。」

「どこが悪かったんじゃったっけ?」

「わしゃあ、膝じゃ。あんたは?」

「わしは腰を痛めてねえ。」

「そうな、いけんねえ。わしゃあ、こねえ膝が痛うてかなわんのに、うちの嫁ときたら、痛いわけなかろうがね、いったい何回病院に行きゃあ気が済むんかね、って言うんよ。」

「そりゃあ、酷いねえ。」

「そうよ、鬼嫁じゃけえ。ほいじゃけど、息子夫婦に同居して面倒見てもらいよるけえ、わしも肩身が狭いわ。」

「うちも似たようなもんよ。ほいで、ここの先生ときたら、わしがこんなに痛いち言いよるのに、痛み止めの一つも出してくれんのよ。ひたすら、リハビリせえじゃのなんだの。リハビリしても、一つも良くならんの。」

「たなかさーん、たなかひでとしさーん。」

「あ、山田さん、わし呼ばれたけえ。ほいじゃあ気をつけんさいよ。お先にね。」

「はいはい、ありがとうね。」

どこのご家庭も年寄りに冷たいものだ。


「田中さん、まだ痛みますか?」

「ええ、痛みます。特にこの辺が。」

白衣を着た男が、老人にズボンを脱ぐように促すと、プラスドライバーを取り出した。

慣れた手つきで、小ネジを回すと、外したネジを失くさないようにシャーレに慎重に乗せ、膝を開け、クレCRCをひと吹きした。

「動かしてみてください。」

ベアリングのシャアシャア言う音が響く。

「動くのは動くんじゃけどね、やっぱ痛いね。」

「そうですか。いつもの湿布出しておきますね。」

そう言うと、男はまた慣れた手つきで膝を閉じて、小ネジで固定した。

「お大事に。」

半ば不満そうな老人は一礼すると、メンテナンス室を出て行った。


「痛いわけないのに、どうしてお年よりは痛いというんでしょうね。」

看護士は溜息をつく。

「記憶だよ。以前、そこにあった膝の痛みの記憶がそう感じさせるんだよ。もう膝どころか、体中機械なのにね。人の脳ってのは、複雑だからね。」

白衣の男は有能な修理技師である。


「やまださーん、やまだかずあきさーん。」

「はい。」

「診察室へどうぞ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ