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愛読者

【2月9日】


こんばんはぁ。縫いぐるみマニアのクルミでーす。


聞いて聞いて!


今日はね、めっちゃかわいいお人形タンを見つけちゃった。


動物の縫いぐるみもいいけど、たまにはお人形タンも仲間に入れてもいいよね!


今日からこのお人形タンをもっと可愛くアレンジしようと思いまーす。


楽しみ楽しみ♪


【2月10日】


ヤッホー、縫いぐるみマニアのクルミでーす。


今日は、早めにお仕事が終わったから、飛んで帰ってきましたよ。


今日は昨日のお人形タンにネコミミをつけてみたのだぁ。


にゃーん♪


かーわいいー!


え?写真アップしてほしい?


まだ、製作途中だからネ。


完成したらアップしまーっす


____________________________


俺はネットで検索していて、偶然このブログを見つけた。


何故俺の目に留まったかというと、プロフィールに顔出しをしていたからだ。


今時の感じの子なんだけど、手芸が趣味ということで、


過去にもいろいろな自分の手芸品をアップしていて、どれも可愛い物ばかりだ。


こんなに今風の子なのに、手先が器用で手芸が好きとか、


ギャップに俺は萌えた。


俺は彼女のブログの愛読者になった。


クルミちゃん。顔も可愛くて性格も良さそう。


男共からも、山のようなコメントをもらっている。


俺も負けじと、なるべく他の男共のように下心丸出しのコメントは避け


極力紳士的にコメントを書いている。


「どんな物ができるか、楽しみですね。


クルミさんの作品はどれも、とても可愛いです。」


俺は決してクルミちゃん本人の写真のことには触れない。


バカなやつは


「この写真は本人ですかぁ?可愛いですね。俺、タイプだなぁ。」


と、もろブログの内容を無視したコメントをしたりしている。


バカだな。可愛いのなんて当たり前で自覚してるっつうの。


タイプだからどうだってんだよ。そんなのコメントに困るに決まってるだろ。


「えー、そんなことないです(><)二割増しくらいに盛ってますw」


そんな返事を書きながらも、本当はブログの内容のことに


触れて欲しいと思ってるんだよ。


ホント、下半身露出してよだれ垂らしてるようなもんだろうが。バカか。


俺は見えない愛読者に嫉妬した。


_______________________________


【2月11日】


今日はお仕事残業


疲れちゃった


でも、こういうのは勢いだからネ。


クルミ、がんばる!


昨日はネコミミをつけたのでー、今日はシッポをつけちゃいまーす。


ぜーったいかわいく仕上げちゃうんだからね。


お楽しみに♪


______________________________


お、更新されてる。


今日は主婦からコメントが来てるな。


いやいや、待て待て。これは主婦を装ったネカマかもしれないぞ。


クルミちゃん、騙されちゃダメだ。


このネカマ野郎。いつかボロ出させてやるからな。


俺はネカマ野郎の正体を暴くべき策略を考え始めた。


______________________________


【2月12日】


今日は風邪で、お仕事休んじゃった


お熱が出ちゃいました。


ああ、でもお人形タンのアレンジしたいなあ。


ええい、少しくらいならいいよね!


と言いながらも、もうすでに手をネコの手にしちゃったんだよね。


いやーん、肉球、萌え~!


______________________________


なるほど、普通のお人形をネコっぽく改良してるのか。


萌えっぽいお人形なのかな?


よくラノベやアニメで見るような、あんな感じにしたいのだろうか?


あ、また主婦とか言ってすぐコメントしてる。


おい、どこの主婦がそんな夜中に起きてんだよ。


コメントが夜中3時とか在り得ないだろう。


俺の姉ちゃんなんか子育てでぐったりで、子供と一緒に9時には寝てるぞ。


ますます怪しいなネカマ野郎。お前、ニートだろう。


「  >アイちゃんママ様


随分と遅くまで起きておられますが、大丈夫ですか?」


俺は心配すると見せかけてネカマ野郎の不自然さをクルミちゃんにアピールしたのだ。


クソネカマ野郎。とっとと失せろ。


________________________________


【2月13日】


今日はちょっとブログを書く気になれません。


少し悩んでいます。


手芸のほうも、お休みです。


楽しみにしていただいた方、ホントごめんなさい。


_________________________________


どうしたんだろう?クルミちゃんに何があったんだ。


俺が心配したところでクルミちゃんには関係ないか。


俺は自虐的に笑った。


俺は、ふとメール通知があることに気付いた。


メールをあけてみると、なんと差出人はクルミちゃんだった。


やったぜ!コメントする時にメールアドレスを入れておいてよかった!


淡い期待を持ちながら、俺は毎回コメント欄に自分のアドレスを残すようにしていたのだ。


「突然のお便り、ごめんなさい。


実はイオリさんにご相談があります。」


イオリは俺のハンドルネームだ。俺を頼ってきた。


俺は天にも昇る気分だった。


内容は、ブログの愛読者の「アイちゃんママ」が、メールしてきて、


しばらくはメールでやり取りしていたんだけど、クルミちゃんがうっかり


地元ネタを話してしまい、近くだからぜひ会いたい、と言ってきたと言うのだ。


クルミちゃんも、少し「アイちゃんママ」を疑っているようなのだ。


女の子だから、そりゃあ警戒くらいする。


俺のあのコメントで焦ったんだな、あのネカマ野郎。


悪口を書けば俺は軽蔑されそうなので、ごく当たり前のアドバイスをした。


「顔も見たこと無い人と会わないほうがいいですよ。男性かもしれないし。」


クルミちゃんからすぐに返事が来た。


「そうですね。丁重にお断りすることにします^^。」


そうだよ、いい子だ。


あのネカマ野郎、とうとう正体を露見したな。バカが。


____________________________________


それからクルミちゃんのブログには、山のような嫌がらせのコメントが続いた。


クルミちゃんが実はブログで男漁りをしている、だとか、根も葉もないことを


怒涛のように書き込まれた。


俺はクルミちゃんから相談を受け、そいつをブロックする方法を教えた。


すると、今度は他の場所から、おそらくネットカフェあたりだろう、


違うIPアドレスで嫌がらせの書き込みがされるようになった。


恐らく、クルミちゃんが会うことを拒んでから、「アイちゃんママ」が消えたので


あのネカマ野郎の仕業なのだろう。


俺は寂しいけど、クルミちゃんを守るために、ブログの閉鎖を勧めた。


もう少しでお人形が完成するのに。


クルミちゃんは悲しんだ。


「じゃあ、こっそりブログをお引越しすればいいんだよ。


大丈夫。クルミちゃんなら、またすぐに愛読者がつくから。」


俺はそう彼女にアドバイスした。


この頃になると、俺はもうクルミちゃんに頼りにされっぱなしで、


しかもすでに携帯のアドレスを交換しあう仲になっていたのだ。


クルミちゃんは怖い思いをしたと思うが、申し訳ないけど俺はあの


ネカマ炎上犯に感謝した。


こんなことでも無い限り、俺がクルミちゃんみたいな可愛い子と


アドレスの交換なんてできるはずが無いのだから。


俺はお世辞にもカッコいいとは言えない。


少し太めで、まるで熊みたいだ。


クルミちゃんは、俺のアドバイス通りにブログを閉鎖した。


そして、こっそりとよそでブログをそのまま引っ越して再開することにしたのだ。


幸い、クルミちゃんはネカマ野郎には、携帯のアドレスまでは教えておらず


事態は収拾したのだ。クルミちゃんは俺に大いに感謝した。


_____________________________


【2月20日】


ブログ、再開しました


今までお休みしていてごめんなさい


ちょっと大変なことが起きてました。


詳しくはもう思い出したくないので、ごめんなさい


ブログはお休みしてましたが、お人形タンは完成していますよ。


それでは、公開しまーっす。


ジャジャーン!激カワでしょ?


____________________________


俺は今、わくわくしながら自分の部屋で待っている。


なんと、俺の部屋に、あのクルミちゃんが来るのだ。


あれから俺はすっかりクルミちゃんの信頼を得て、クルミちゃんのほうから


俺に会いたいと言って来たのだ。


最初俺は自分に自信が無いので難色を示した。


どうしてかと聞かれたから正直に自分の容姿が良くないことを伝えた。


クルミちゃんのような可愛い子とメールでだけでもお話できたのだから


俺は十分幸せだった。クルミちゃんに本当の俺を知られて幻滅されたくない。


俺は人生で傷つくことはありすぎたから。これ以上傷つきたくないのだ。


俺は仕方なく、自分の写メを送った。


これで終わりになるだろう。俺はそう思っていた。


ところがその写メを見て、クルミちゃんは


「クマさんみたいで可愛い!余計に会いたくなった。」


というのだ。こんな上手い話があっていいのだろうか?


でも俺はクルミちゃんを信じることにしたのだ。


俺がこんなにファンになる子が悪い子のわけがない。


クルミちゃんから携帯にメールが入った。


「ブログ再開したよ!お人形タンも完成したの。


クルミが来る前に確認しといてね。」


俺は、パソコンを起動して、クルミちゃんの新しいブログにアクセスした。


ブログを見たとたんに、俺は驚愕した。





何だこれ!




文章の語り口は、クルミちゃんそのものだ。





その下に画像が添えてあった。


完成された人形の画像だ。




幼い女の子、恐らく3歳くらいだ。


小さな体に手作りの、お姫様みたいなドレスが着せてある。


そして、頭には。


本物のネコの耳が縫い付けてある。


黒ずんだ血が髪の毛の上で固まっている。


そしてお姫様ドレスの下には何もはいておらず、


丸出しになったお尻には本物のネコのシッポが縫い付けてあり


そして、手は・・・。


手首から切り落とされ、これまたネコの手が縫い付けてあるのだ。


ご丁寧に足までも。


俺は台所のシンクに走って、胃の中の内容物をすべてぶちまけた。


俺は手足が震えていた。




突然テーブルの上で携帯が震えた。


「イオリさん、ブログ、見てくれた?


激かわいいでしょ?お人形タン。


言い忘れたけど、まだあのブログ、イオリさんにしかアドレス


教えてないんだよ。イオリさんはクルミの特別だからね♪


もうすぐ、おうちに着くから、待っててね。」




どうしよう。この女は狂ってる。



「さて次のニュースです。2週間前〇〇県〇〇市で行方不明になった、


丸川あゆなちゃんの足取りは依然掴めておりません。


〇〇県警は捜査員100人を動員して行方を捜しています。


あゆなちゃんの行方不明前の服装は・・・・・・・・・」


俺はここ2週間行方不明の3歳児のニュースをずっと見ていたのだ。


あのお人形には見覚えがあった。



「ピンポーン」


チャイムが鳴った。


インターホンを覗く。


ブログプロフィール写真と同じ顔が、カメラを上目遣いに覗く。


俺は心臓が縮みあがった。


「こんばんわぁ。クルミでーす。」


しまった!


クルミちゃんが来るから、すぐに開けられるように鍵をかけてなかったんだ。


俺は震える足で玄関になんとかたどり着く。


しかし、時すでに遅く、玄関の扉は開かれた。


クルミちゃんの手には何か、青い火花を散らす物が握られていて、


その火花が俺の首に押し当てられた。


「はじめまして。イオリさん。クルミです。」


遠のく意識の中、ぞっとするような笑顔で女は見下ろしていた。



___________________________


【2月22日】


こんばんは!クルミです。


この前作った女の子のお人形タンは失敗しちゃいました


なので画像はあげていません。


期待していたみなさん、ごめんなさい。


でも、今度は成功させますよ。


今度は大きいクマさんに挑戦でーす。イエーイ


本体はできているので、これを可愛くデコって行こうと思いまーす!


皆さん、楽しみにしていてくださいねっ





             了

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