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ピンポンダッシュ

私は、電車に揺られ、駅から10分かけてようやく自宅に帰りついた。


はあっ。もうこんな時間。朝の始業が遅いので、満員電車に揺られることは無いのだが、


さすがにこの時間までの残業はきつい。


家の鍵を開け、玄関を抜けるとすぐにキッチンがあり、そこの壁にインターホンがある。


備え付けのカメラ付きインターホンの点滅が、来訪者を告げている。


昼間にセールスでも来たのかな。そんな軽い気持ちで、モニターを再生して確認した。


「あれ?誰もいない。」


最初は、いたずらかと全く気にしていなかった。


ところが、それは、その日から毎日起こった。


いったいなんなの?毎日、毎日。インターホンのボタンを押せばカメラが自動的に稼動して録画するようになっているから、必ず来訪者が写るはずなのだ。


インターホンのボタンを、顔が見えないように押して、そのまま逃げてるとしか思えない現象だった。


誰なんだろう、性質の悪いいたずらをするのは。


通販で結構物を購入するので、見ないわけにはいかないのだ。


そして、その行為は日に日に、エスカレートしていった。


一日に何件もの録画の記録が残っており、酷い時には、1時間おきにインターホンが鳴らされているようだ。


留守中とはいえ、気味が悪い。


恨みをかう覚えもまったくないし、もしかしたら、知らないうちにストーキングされているのだろうか?


ストーカーなら、もっと他に兆候があってもよさそうなものだ。


つけられてると感じたこともないし、最近は歳をとってしまったので、めっきりモテたことがない。


職場での人間関係も良好だ。


家に居る時間帯には、いたずらされたことがないので、実害はないが、やはり気持ちの良いものではない。


私は、犯人を突き止めてやろうとしたのと、最近有給がすべてダメになっているので、これを期に有給を取って、家で見張ってみようと思ったのだ。


子供だったら、思いっきり叱ってやらないと。


ピンポンダッシュなんて幼稚なまねをして許さないんだから。


ところが一日中家に居ても、まったくチャイムは鳴らされなかった。


なんなの?卑怯者め。でも、それって私、逆に見張られてるってことじゃない?


今日は居るみたいだから、やめておこうと。


そう考えると、ますます怖くなった。


夕方、私は食後に眠くなってしまい、ソファーでうたた寝をしていたようだ。


突然のチャイムの音に飛び上がった。


私は慌てて、モニターをオンにして外を伺った。


「ひぃっ!」


私は驚いてひっくり返ってしまった。


画面の下から、黒髪が覗き、そして血走った目が大アップで映し出されたのだ。


「ピンポンピンポンピンポン、ピピピンポピンポピンピポンピンポピンポ」


突然狂ったようにチャイムが連打された。


画面では長い髪の女が狂ったように、髪を振り乱しながらチャイムを押している。


目を見開き、口は大きく開き、よだれを垂らさんばかりに笑っている。


「何なの?誰っ!」


私は、腰が抜けたまま、キッチンの床に座り込んだまま叫んだ。


すると一瞬チャイムが止まった。


「ぴぃんぽぉんだっしゅじゃあな~いよぉ~?」


ねっとりとした気持ちの悪い声だった。ちょうどボイスチェンジャーを通したような。


あははははと狂ったように笑うと、またチャイムを鳴らしはじめた。


「ウルセエな、何やってんだ!このあまっ!」


ついに耐えかねて、隣人がドアを開けて怒鳴りつけている。


私は、一瞬隣の男性が救世主に思えた。その女を追い払って。お願い。


次の瞬間、女は振り向きざまに、男を刃物で刺した。


「うぎゃあ、な、何すんだ!」


男は後ずさりながら腹を押さえた。


女は素早い動きで、男の腹部をもう一度刺すと、すかさず胸も刺した。


「きゃあああああ!」


私はモニターの中の惨劇を見て、足がガタガタと震えた。


た、大変。きゅ、救急車、呼ばなきゃ。


震える手で、警察と救急車を呼んだ。


一通り男を刺し終わり、満足した女は、再びインターホンを覗き込むと、またチャイムを押し始めた。


「ピンポンピンポンピンポン、ピピピンポピンポピンピポンピンポピンポ」


血まみれの手で押し続けるから、カメラ部分に鮮血が飛び散った。


「や、やめて・・・・。」


私は震える声でやっと搾り出した。


笑う、笑う、笑う。狂ったように笑い、押し続けられるチャイム。


あまりの恐怖に、私は失神してしまった。


しばらく、失神して目覚めると、まだチャイムが鳴らされていた。


ただし、男の声がする。


「警察の者です。何かありましたか?あけてください。」


た、助かった。


私は、インターホンで警察官を確認すると、慌ててドアを開けた。


私は違和感を感じた。


何もないのだ。


そこには、横たわる隣の男性、もしくは、血溜まりができていてもおかしくないのだ。


玄関前は綺麗なものだった。何も痕跡は無い。あの頭のおかしな女も。


「あ、あのっ。お隣の男性は、無事ですか?うちの玄関前で刺されたんです。知らない女に!」


私は、今までの経緯を警察官に説明した。


だが、信じてはもらえなかった。


そこには何もないからだ。死体も、血溜まりも、そして、インターホンには、来訪を告げる点滅はあったが、あの女の姿は映っていなかった。


念のために、お隣さんを訪ねると、なんと、あの刺されたはずの男性が何事もなく部屋の中から出てきて、私の説明に怪訝な顔をし、苦笑いした。


私の見たものは、なんだったんだろう?


私は、警察や救急を騒がせた、迷惑な人間として扱われ、警察署でかなりの時間拘束された。


その翌日の夜、またチャイムが鳴らされた。


私は、恐る恐る、モニターを見る。


すると、隣の男性がモニターを覗き込んでいた。


「な、何か、ご用ですか?」


私がインターホンに答えると、その男はニヤリといやらしく笑った。


「ぴぃんぽぉんだーっしゅじゃあ、な~いよぉ~?」


ねっとりとした気持ちの悪い声。


嘘っ、女の声。


「ピンポンピンポンピンポン、ピピピンポピンポピンピポンピンポピンポ」


いやああああああああああ。

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