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140字小説2
山口弁編
【いっておかえり】
「いってお帰り」義母はいつもそう言って、人を見送った。
主人が言うには行って帰っておいでというこの地方の優しい方言だそうで。
ある日義母が義父に行ってらっしゃいと声をかけた。
そのまま義父は帰ってこなかった。
義父の裏切りを知った日だったらしい。
そして今日私が行ってらっしゃいと言われた。
【たいがたい】
「たいがたいね」と言うのは祖母の口癖だった。
有難いという意味だ。そんな祖母もすっかり呆けてしまい
数日前祖父が死んだのすらわからず、ご飯はまだかねと1時間おきくらいに言う。
位牌の前で何もないのにたいがたいねと何かを食べているので
「ばあちゃん、いけん!」と言うと口からお骨が出ていた。