表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/313

利口すぎる犬

「ダン、いい子だ。いい子だね。」


私は、いつもそう声をかけながら、ダンの頭を撫でて褒めてやる。

ダンは利口な犬だ。

私が棒切れや、ボール、何を投げても夢中になって追いかけて、必ず私の足元に持ってきて、きちんとお座りをするのだ。私が言った言葉がわかるようで、言った通りの物を私の元に届けてくれるのだ。

新聞、リモコン、スリッパ。おそらく3歳児程度くらいの語彙くらいなら軽く覚えているだろう。

精悍な顔のシェパード犬のダン。

私の自慢の家族だ。


ただ、今日だけは、ダンを叱らなくてはならなかった。

ダンは、いつもと同じように、私の足元に、ちゃんと口に咥えた物をそっと置いて、私から頭を撫でて褒めてもらうことを待っているのだ。

「ダン、私は、これを持って来いとは言っていないよ?」

ダンは利口すぎる犬だ。


確かに、ダンが私の元に持って来た物は、3日前までは私の物だった。

ただし、3日前までだ。

二日前に、それは、他の誰かの物になった。

だから、もう私の物ではないのだ。


彼女は私が、気付いていないとでも思ったのか。

平然と嘘を言い、私のベッドに横たわり、私を誘ったのだ。

心にやましいことがあると、人間は誤魔化そうとする。

クズめ。


「ダン、私がいつ、勝手にリサを持って来いと言った?」

褒められるものと構えていたその動物は、キョトンと首をかしげた。

私の静かな怒りを感じたのか。犬も上目遣いをするのだとその時初めて知ったのだ。

その上目遣いがリサによく似ていた。

私の足元の、土にまみれた青白く細い腕を、ダンがもう一度、鼻でころりとこちらに転がして、自分を褒めるように催促してきた。

「ダン、君は罰を受けなければならない。」


私は、ほとほと疲れていた。

何せ、二度も大きな仕事をやってのけたのだ。

ダンは、リサほどではないが、一応大型犬なので、パーツに分けなくては、とても私の非力な力では、運べなかった。小さなパーツに分けて、少しずつ運び出し、山のところどころに埋めた。

リサの時は慎重を期したつもりだったが、犬に簡単に掘り起こされるようではまずい。

リサは、もっと細分化し、あらためてもっと地中深くに埋めた。

疲れからか、ダンを埋めるのはおざなりになってしまったが、ダンは犬なので問題ない。

「家族。」

そう呟いて、私は噴出してしまった。

ダンだけは家族だと思っていたのに。


さて、日も暮れる。

そろそろ山を下りなくては。

「ぐるるるるぅ、がうぅっ!」

唸り声が聞こえて、足首に衝撃が走った。


「・・・ダ、ダン?」

先程埋めたダンが私の足首に噛み付いている。

首だけのダン。

「う、嘘だろう?」

私の足首からおびただしい血が川のように流れて行った。

「や、やめろ、ダン!」

私がいくら叫んでも、ダンは噛み付くことをやめなかった。

胴体のない首を振り回しながら、私の足首を噛み千切った。


「ぎゃあああああああ!」

私の意識は遠のいていった。



ーーーーーーーー


「おい、大丈夫か?あんた!」

男の体を、老人が揺り動かしている。

もう一人の老人が、携帯を片手に救急に電話をしている。

「こりゃ、もうダメかもな。なんでこんな山んなかに入ってきたんだか。この男。」

男の足首には、獣用の罠のトラバサミががっちりと食い込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ