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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
激突!吸血姫対龍皇女!!二大魔人空中決戦編
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龍の国

 龍の国とはどんな所なのだろうか。

 そこに住む本物のドラゴンとはどのような生物なのか。

 先ほどまでは僅かな憧憬すら込めて考えていたそんな些末な事柄は、眼前に聳え立つ巨体を認識すると同時に、何処か遠方へと吹き飛んで行ってしまった。


 立ち塞がる白龍から感じるのは、トロルや雪精などとは比較にもならない圧倒的な迫力。

 視界全てを埋め尽くさんばかりの、巨嶽を連想させる程の体躯。

 俺の身体など簡単に両断出来るであろう鋭利な鉤爪で岩石の大地を掴む太い四肢は、地中深く突き立てられた鋼の柱のように力強く、さらにそれらを遥かに超えた威圧感を誇る引き締まった長い尾には、その一振りで何軒もの家屋を倒壊させるのではと思わされる。

 背には天を覆わんばかりの巨大な翼を携え、表皮は刃物のように鋭い白光りする鱗で覆われている。

 そして長い首の先の、この世に噛みちぎれないものが存在するのかと言う程の顎部を備え、後方へと伸びる恐ろしくも威厳に満ちた角を幾本も生やした、物語の中にだけ現れる獰猛な肉食獣のような頭顱(とうろ)を、こちらへと向けている。


 否応無く沸き起こる恐怖と緊張によって時間感覚が引き延ばされ、どれくらいそうしていたのかは分からない。

 だが俺が、俺たち四人の姿を映す底知れない真紅の瞳に飲み込まれている内に、突如頭の中に重厚でなおかつ荘厳な声音が響き渡った。


 ——巨大な気配をまき散らしながら近づいてくるものを感じて来てみれば……

 ——久しいな、吸血鬼の娘よ


 説明されるまでもなく、眼前の巨龍が発した念話だろう。

 イリスへと向けられたその声は大きな威圧感を含んでいるものの、話者の恐ろしい容貌とは異なり攻撃的なものは感じない。

 視覚的では無い圧力に対してはクレア様やイリスとの出会いで少し耐性が出来ていた可能性もあるが、そのおかげもあって俺は心に若干落ち着きを取り戻す。

 吹雪の回廊を抜けると同時に視界に飛び込んで来た巨龍の姿のせいで完全に意識から外れていたが、先ほどまでの猛風は嘘のように凪ぎ、雪も小降りとなっていた。

 俺がそんな周囲の環境の変化に気を配れる程度にまで余裕を回復している間に、イリスが巨龍へと言葉を返す。


「久しぶりね、デフェンシオ。

 龍帝の所に案内してもらってもいいかしら。

 それともまた妾と一戦交えてみる?」


 この巨龍——デフェンシオはイリスと知り合いなのか。

 しかし、再会と同時に物騒な提案を行うのは勘弁して欲しい。

 イリスが超越的な力を持っている事は分かっているが、それがどれほどのものかまでは俺には計りようが無いし、目の前のデフェンシオも見るからに只者ではない。

 道中でイリスは龍帝以外は敵ではないというようなことを言っていたが、少なくとも外見的な恐ろしさで判断するなら比べるまでもなく向こうが上だ。

 だが俺のそんな不安は、次のデフェンシオの言葉であっさりと霧散した。


 ——いや、それはよしておこう

 ——我もあの時以来力をつけた自負はあるが、それでも貴様の相手は務まるまい

 ——それにそれが、我らと貴様との間で取り決めた約定でもあるしな


 どれだけ強いんだよイリス。

 若干呆れに近い感情を抱きながら、吸血鬼の少女の細く蝋人形のように白いうなじへと視線を送っていると、そのイリスが俺へと語りかけて来た。


「ほら、貴方達さっさと降りて頂戴。

 ここからはまた空を飛んで行くわよ。

 ピーちゃん、改めてお願いするわね」


 そしてイリスは「はいです!」と元気よく答えるピヨスケを確認すると、改めてデフェンシオへと向き直り言った。


「じゃあよろしくね、デフェンシオ」






 前方を飛ぶデフェンシオに導かれながら、ピヨスケに乗った俺たちは空を行く。

 眼前を大翼をはためかせて飛行する巨龍の迫力は、最早何かの冗談にしか見えない。


 視線を横へと逸らし、到着時は立ち塞がったデフェンシオに阻まれ確認出来なかった龍の国の全景を、ピヨスケの上から改めて眺める。

 それは、周囲を雲まで届く灰色の絶壁に囲まれた、とてつもなく巨大な空間だった。

 全天を雷光が走る暗雲に覆われ、下界は岩石で出来た複雑な地形となっている。

 お世辞にも住みやすいとは言えない過酷な環境に見えるが、龍と言う強靭な種族には逆にそれが適合しているようにも思えてくる。


 時折、空を飛ぶものや地上に寝そべるものなど他のドラゴンを見かけるが、デフェンシオ程の存在感を持ったものは少ない。

 彼は龍族の中でも上の方に位置する存在なのだろうか。


 クレア様はそれら周囲の様子には特に興味も無さげに、いつものごとく俺の胸に頭を預けている。

 一方、隣に立つイリスの顔を見上げてみれば、どことなく嬉し気な表情を浮かべていた。

 彼女に匹敵する力を持つと言う龍帝に会う事が、よほど楽しみなのだろう。


 そんな風に俺が辺りの観察を続けていると、やがてデフェンシオは僅かに高度を落とし、いくつもの小高い岩山が聳える地へと突入を開始する。

 それに続くピヨスケの上の俺たちへと、デフェンシオが語りかけて来た。


 ——我らが龍族の皇帝、スロヌスはこの先だ


 それを聞いたイリスの表情が、少し険しいものへと変わる。

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