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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
激突!吸血姫対龍皇女!!二大魔人空中決戦編
32/43

吹雪の道

 視界の大半が白く染まっている。

 轟々と雪を運ぶ突風の音が、方向感覚を狂わせる。

 コートに付属するフードを口元まで締めたが、それでも僅かに露出した肌が、入り込む冷気によって突き刺さるように痛む。

 龍の国へと続く峡谷を行く俺たちは、左右を挟む岩壁の方向すら分からなくなる程の猛吹雪に見舞われていた。


 そん中、俺はこの上なく格好悪い状況に陥っている。

 俺の背中にクレア様が乗っていることは変わらない。

 だがそんな俺もまた、今は小さな背中の上に乗っている。

 眼下には、太陽の光を溶かし込んだように美しい黄金の頭髪。

 そう、俺はクレア様を背負ったまま、イリスに背負われる形で運んでもらっているのだ。

 ちなみにイリスが持っていた背負い袋は、彼女の代わりにピヨスケが隣で運んでいる。

 ピヨスケは他者の魔力を感じる事が出来るらしいので、俺たちからはぐれる事は無いだろうが、その手は垂れ下がった俺の長いコートを摘んでいる。


 正直、それぞれの肉体能力を考慮した場合、この分担が一番効率が良いことは最初から分かっていた。

 だがさすがにそれではこの面子中の唯一の男としてあまりにも情けなくなるので、気付かないふりをしていたのだ。

 けれども俺たちの周囲は最早、何の特殊能力も持たないただの人間が歩けるような環境では無くなっていた。

 積もりに積もった雪は恐ろしい程に柔らかく、立てばそれだけで上半身まで埋まってしまう。

 仮にそれが踏み固められていた所で、この猛烈な吹雪があっという間に俺の身体を埋め尽くすことだろう。


 そんな訳で、これは仕方が無い状況なのだ。

 それは俺以外の三人も分かっていることだろう。

 顔を真っ赤にしながら俺を背負ってくれないかとイリスに申し出た時、彼女を含めた皆が何の不平も言わず、顔色一つ変えずにこの配置転換に応じてくれたこともそれを物語っているではないか。


 だからこれは全然恥ずべきことではないのだ。

 うん、恥ずかしく無い、恥ずかしく無い。

 俺は自分自身に必死にそう言い聞かせた。






 さて、俺——間接的にクレア様をも——を背負っているイリスはさすがに大したもので、俺たちの重さなどまるで感じていないかのように、この猛吹雪の中でもスイスイその歩を進める。

 俺が身体を預ける彼女の小さな背中や、俺の太ももを支える彼女の細い腕からは、その華奢な見た目とはあまりにもアンバランスな鋼のごとき力強さを感じる。

 しかも彼女はしばしば周囲を見つめては、睨みつけるような仕草を取っている。

 その度に爆裂音と共に弾けるような黒い影が薄く見えるので、俺たちに向かってきていた雪精(スノーマン)を何体も葬っているのだろう。

 もちろん彼女はそれを魔力で行っているのだろうが、俺の目には気合いで吹き飛ばしているようにしか映らない。

 雪精はトロルよりも能力が高く、熟練の冒険者でもそれなりの苦戦を強いられる相手とクレア様から聞いたが、イリスは一体どれほどの力を秘めているのだろうか。

 そしてこれから向かう先に待ち構えると言う龍族とは。


「龍族っていうのはイリス並に強いのか?」


 そう問う俺にイリスは、さらに追加で雪精を吹き飛ばしながら答える。


「龍族が強大な力を持っていることは確かだし、お互い平均すれば多分吸血鬼の真祖を上回っていると思うわ。

 でも安心して頂戴。

 妾は特別製だからね。

 龍の国で妾とまともにやりあえるのは向こうの大将、龍帝くらいのものよ」


 そんなイリスの言葉を、俺の耳元でクレア様が補足する。


「遥か昔の龍族はピヨスケの親のように、聖獣や魔獣と呼ばれる種族だった。

 今この地上に残っている龍族は、それらが物質界に長く留まりすぎた為に、物質的肉体を持った魔物に成り下がったものだ。

 だがその中には未だに、かつての先祖に近い力を所持するものも存在する。

 龍帝と言うのもおそらくその類のものだろう」


 そこまで俺に話したクレア様は一度言葉を区切ると、今度はイリスへと語りかけた。


「イリスよ。

 先ほど貴様は自身を特別製と言ったな。

 吸血鬼の真祖と言えど、あくまでも純粋な物質界の生物であることに変わりはない。

 貴様が自分でも語っていたように、聖獣や魔獣を祖とする龍族にはさすがに劣る。

 だが……。

 かつて龍帝と引き分けたと言う話にせよ、星幽体化した勇者と渡り合ったと言う話にせよ、貴様本当は何者だ?」


 そのクレア様の問いかけにイリスはふと立ち止まり、僅かに上を向いたまま沈黙する。

 そして、


「妾は妾よ。

 生まれつき一族の誰よりも強い力を持っていた天才美少女吸血鬼。

 それでいいじゃない」


と答えると、再び前を見つめて歩き出した。






 その後どれほど歩いただろうか。

 吹雪は未だその猛烈な勢いを落とさないものの、左右の石壁が俺でもうっすらと視認出来るようになってきた。

 つまり、道幅が極端に狭くなってきているのだ。

 やがて先ほどまでは闇に包まれていた吹き荒れる雪のカーテンの先に、天空へと聳えるような一本の細い光の筋が見え始める。


「そろそろクレアやケーゴにも見えてきたかしら。

 あの闇の切れ目が龍の国への入り口よ」


 そう告げるイリスの言葉を受けて、俺はゴクリと大きく唾を飲み込んだ。

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