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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
草原の宿屋と恐怖の両刀吸血姫編
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誕生!吸血魔法少女イリスちゃん

 上空で静止したピヨスケの背中に乗り、クレア様を後ろから抱きとめたまま、俺は眼下の光景を眺める。

 そこでは一人の冒険者らしき大柄の男と、その男の三倍はあろうかという巨大な、病んだ乳白色の肌を持った二足歩行の怪物が対峙していた。

 クレア様曰く、あれがトロルという魔物らしい。


 男の手には両手持ちの剣、一方のトロルは巨木からそのまま抉り出したような、対峙する男の身の丈を超える程の棍棒を構えている。

 命のやり取りと言う極限状態の中、お互いに集中しきっているのだろう。

 両者とも上空の俺たちに気付いた気配はない。

 遠目にも分かる二者の間に流れる緊張を感じながら、俺はイリスに問いかける。


「……ピクニックの目的地がこれって、どういうことだ?」


 そんな俺の疑問に対し、イリスはことも無げに答える。


「宿泊代を稼ぐ為に、妾も冒険者の真似事を始めてみたのよ。

 けれど冒険者への依頼って、退屈なものばっかりなのよね。

 今回は、この辺りの集落に被害を与えてるって言うトロルに高めの懸賞金が出てたから、一応引き受けてみたの。

 でもそのお仕事自体はどうせまたつまんないだろうから、ちゃちゃっと片付けて後は貴方達と一緒にお話しながらご飯でも食べようかなって」


 普段昼間は宿にいないと思ったら、そんなことをしていたのか。

 イリスは続けて、彼女が所有していた財産の大半は王国の方に置いて来てしまったのだということを説明してくれた。


 だが、それにしても。


「魔物が冒険者って……」


 呆れてそう呟いた俺に、イリスは肩に架けた背負い袋へと手を回して何かを取り出す。


「一応冒険者達の同業者組合(ギルド)にも登録させて貰ったわ。

 ほらこれ、ギルドカード」


 イリスはそう言いながら、くすんだ鈍色の金属製のカードを俺に見せつける。


 冒険者村には確かに冒険者ギルドの支部も設置されているが、まさかイリスがこんなものまで取得していたとは。


 俺が手渡された冒険者カードをまじまじと眺めていると、ぼそぼそと呟くイリスの声が耳に入って来た。


「魔物の討伐は早い者勝ちだからピーちゃんには急いで貰ったけど、この様子なら放っといても大丈夫そうね」


 それを聞いた俺は、再度下界へと視線を向ける。

 するとそこでは、いつの間にか冒険者の男とトロルが激しい戦闘に入っていた。


 棍棒を猛烈な勢いで振り回すトロルに対して、冒険者の男はそれを剣で掠めながらギリギリ躱しつつ立ち回っている。

 だが、時たま隙をつくように男の剣がトロルに届いているものの、それが確実なダメージを与えているようには見えない。

 逆に男の方が、掠めたトロルの棍棒の衝撃によって、徐々に追いつめられているように見える。


「え、あれヤバくない?

 助けに入った方が良いんじゃ……」


 男の劣勢を認識して漏らした俺のその言葉を聞いたイリスは、「何を言っているの?」といった表情を浮かべて反論する。


「あの人間が死ねば、トロルの懸賞金は丸ごと妾のものなのよ?」


 そのイリスの言葉に俺は、確かにその通りだと言う思いを抱いてハッとする。

 普段の俺たちに対するフレンドリーな接し方のせいで忘れそうになるが、彼女もまた人間ではなく一匹の魔物。

 同族を殺めることにも特別な感情を抱いていなさそうな彼女だが、逆に人間と言う種族を特別視しているとも考え難い。

 この場での彼女の判断基準は、おそらく完全に損得勘定だけなのだろう。


 だがそうは言っても、俺に目の前で人間が殺される所を見物しろと言うのも酷な話だ。

 俺が苦虫を噛み潰すような思いで戦況を眺めていると、冒険者の男が何かに躓いたのか突如体勢を崩す。

 そしてついに攻撃を避けきれなくなった男に、トロルの棍棒による一撃がまともに炸裂する。

 男は反射的に剣の腹を盾にしたが、トロルの強烈な打撃はそれを意にも介さずにへし折り、そのまま男を数十メートルも吹き飛ばした。


 大地に転がり、そのまま動かなくなる男。

 トロルはそんな男の様子を満足げに眺めている。


 俺は思わず唇を噛み締める。

 クレア様を抱きしめる手にも、無意識に力が入ってしまう。


 その時俺の耳に、溜め息まじりのイリスの声が入って来た。


「はあ。

 今回の一番の目的は、あくまでもみんなで楽しくお弁当を食べることなんだからね。

 それなのに、貴方にそんな嫌な顔されたら意味ないじゃない。

 本当に人間の感情って良くわからないわ。

 まあ、仕方ないことか」


 そう言いながら、イリスは背負い袋の中からごそごそとさらに何かを取り出す。

 彼女が取り出したのは黒い三角帽子と、指揮棒のようにも見える魔法使いの為の(ワンド)


 一瞬彼女の行動が理解できなかった俺に、イリスは面倒くさそうに説明する。


「一応人間の前で戦うんだから、それっぽい格好はしとかないとまずいでしょ」


 イリスはそう告げると、三角帽子を自身の頭に乗せる。

 なんと、彼女は俺の意を汲んでトロルと戦ってくれるらしい。

 イリスは驚く俺に向けて、


「じゃあ貴方達、あそこに転がってる人間の方は任せるわよ」


という言葉を残すと、大地に転がったまま起き上がる気配のない冒険者の男と、それにゆっくりと近づき始めたトロルの間へと飛び降りて行った。

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