転生の刻
並び立つ俺とクレアーティ様の眼前の空間には、まるでコンピュータゲームのキャラクターエディット画面のような映像が浮かんでいる。
大きなタブレットの液晶画面が、そのまま空中投影されているような感じだと言えば分かりやすいだろうか。
その中央には人の姿を象ったような画図が描かれ、腕や足等の各部位に空きスロットのようなものが存在する。
右隣に描写されているアイテムリストから選択した剣や鎧などの装備品類を、このスロットへとはめ込めば良いのだろう。
画面下部の矩形のスロットは、ポーション等の消費物を含めたアイテム全般を放り込む為の、言うなればアイテムボックスか。
画面左には、キャラクターのステータスらしき数値が並んでいる。
PT: 200
VIT: 5 ▲▼
STR: 2 ▲▼
DEX: 3 ▲▼
AGI: 3 ▲▼
ENE: 0 ▲▼
LUC: 3 ▲▼
ふーむ。
一番上のPTというのが残りの振り分け可能ポイントで、各項目の三角ボタンを押すことによって能力を増減できるのだろう。
VITはvitalityの略で生命力、STRがstrengthの略で筋力かな?
現在の数字が各能力の基準値だとすると、最初から二百ものポイントを割り振れると言うのは、かなりのサービスだと考えて良いのだろうか。
一世一代の覚悟でキメた俺の大告白を華麗にスルーしたクレアーティ様は、先ほどの説明を淡々と繰り返してくれた。
その際、彼女の蒼く奇麗な瞳から感じられる冷徹さの度合いが、心無しか増大していたような気がするが、それはきっと気のせいに違いない。
それに加えて、先ほどは全く感じなかったはずの、哀れみの念すらもが僅かに混じっていたような気がするが、それもきっと気のせいに違いない。
そんな彼女の言のうち、俺の頭でも理解出来たことを簡単に整理しておこう。
まず、あらゆる世界では、光と闇の勢力が鬩ぎ合いながら均衡を保っている。
ところがある世界でこの、本来は絶対に崩れないはずの均衡が崩れてしまい、闇の勢力が一気に増大。
このまま放置すればその世界が滅んでしまうどころか、他の世界にまで甚大な影響を与えてしまうかも知れない。
そんな世界の危機に対して彼女達神様は、俺のように死んでしまった人間を無作為に選出し、新しい命と力を交換条件に、世界を救う勇者として送り込むことを決めたらしい。
要するに向こうで勝ち組人生を送れるだけの能力をあげるから、それを使って世界も救ってくれと言う訳だ。
なにそれ、ちょーやべーじゃん。
転生なんかやめてこのままクレアーティ様とイチャラブ生活を送ることを考えていた俺だけれど、俺がいた世界まで危ないと言うのなら話は別だ。
かーちゃん、とーちゃん、ばーちゃん、じーちゃん、妹、幼なじみ。
級友達に、後輩達に、先輩達も。
死んじゃった俺はもう会うことすら出来ないけれど、これからも順風満帆に人生を謳歌して貰いたいと思う人はたくさんいるのだ。
世界を救うなんて大事に対して、俺なんかが大した役に立つとも思えない。
だけど、そんな俺でも少しでも力になれると言うのなら、喜んでこの身を捧げてやろうじゃないか!
というわけで、俺の転生後の能力を決める為にクレアーティ様が用意してくれたのが、このキャラクタービルドツールだ。
俺たち地球の人間に、出来るだけ希望に沿う形で力を授ける為に考えだされたハイテクマッスィーンらしい。
神様のテクノロジーって何だろうと思わなくも無いが、希望を言葉で伝える手間を考えれば、確かに大変ありがたい装置だ。
しばらくの間俺は画面を見つめながら、どんな感じのビルドにしようかといろいろと思い描いていたが、ふとステータスの略称に分からないものが混じっていることに気付いた。
分からないことはちゃんと聞かねば。
「クレア様クレア様」
右隣に立って悠然と画面を眺めていた神様に、親しみを込めて呼びかける。
「妾の名を略すとは、馴れ馴れしい人間だな」
クレア様はそう言うけれど、その顔に不快を示すものは浮かんでいない。
……というか、さっきから表情全然変わらないな。
無表情な今でさえこの世のものとは思えないほど可愛いのに、これで笑顔なんて見せてくれた日には、俺は一体どうなってしまうのだろう。
あ、実際この世のものではなかったか。
まあそれはそれとして、質問を続けよう。
「DEXって何でしたっけ」
左手で画面を指差しながら問いかける俺に、クレア様は即答してくれる。
「dexterity。器用さのことだ」
ああ、そう言えばそうだった。
なぜか俺、英語の略語ってすぐ忘れちゃうんだよな。
あ、その下のもド忘れしたぞ。
「クレア様クレア様」
右の人差し指でクレア様の肩をつつきながら、俺は再び呼びかける。
「妾の身に触れるとは、恐れを知らぬ人間だ」
そう言うクレア様の表情に、今度は僅かながら笑みが。
けれどもそれは、俺が想像していたのとは違って、心無しかとっても邪悪なものを感じさせる笑顔だった。
でもこれはこれですっごく可愛い上に、M心がくすぐられる。
おっと、質問を続けねば。
「AGIって何でしたっけ」
再度左手で画面を指差しながら問いかける俺に、クレア様はまたも即答してくれる。
「agility。素早さのことだ」
そうだったそうだった。
今まで遊んだことのあるゲームでも、何度か見たことあるはずなんだけどな。
いずれにせよ、これでステータスで分からないことは無くなった。
ステータス欄の下にはOKと書かれたボタンが存在する。
各ステータスにポイントを割り振って、初期所持アイテムを選択して、最後にこれを押せばキャラクタービルド完了ということだろうか。
作業を始める前に、念のため確認しておこう。
「クレア様クレア様」
右手をクレア様の華奢な肩へとそっと廻し、抱き寄るように呼びかける。
おお、なんて柔らかい身体なんだ。
だたこうしているだけで、心の中に幸せな気持ちが溢れてくる。
だけど俺のスキンシップに対する、先ほどまでのような反応が無い。
しかも身長差のせいで、彼女の可愛いお顔が見えなくなってしまったぞ。
クレア様の顔を覗き込みつつ、俺は尋ねる。
「このボタンは最後に押せば良いんですかね」
伸ばした左手の指先が何かに触れるのを感じるのと同時に、俺の視界は強烈な光に包まれた。




